仕事ができない高学歴社員はなぜ生まれるか

仕事ができない高学歴社員はなぜ生まれるか
同志社大学政策学部教授 太田 肇
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO7051546031032021000000/?n_cid=TPRN0016

 ※ いわゆる、「優秀」の中身を、はき違えているんだろう…。

 ※ 企業は、「利益獲得目的団体」だから、「利益獲得」に役立つと思って、「優秀人材」を採用する…。

 ※ それで、「仕事をさせてみると」、カラッキシなわけだ…。

 ※ おそらく原因は、以下のようなことなのでは…。

 ※ こういう「優秀人材」は、抽象的な「目標」「方針」「戦略」を立案することには、長けている…。

 ※ しかし、それらを「実現するためには、実際にどうすればいいのか。」という現実の方策を立てることができない…。

 ※ 企業側としては、「方策を立てる」から、さらに踏み込んで、「実際に、実現に向かって、行動して行ってもらいたい。」わけだが、そういう「現実処理能力」「実務の遂行・推進能力」が”皆無”と来ている…。

 ※ 結局は、「口ばかり達者で、使えないヤツ。」という烙印が押される…。

 ※ 最後は、「なんで、あんなヤツを採用した!」と、人事担当者の責任問題まで生じてくる…。

 ※ そういう「現実処理能力」「実務遂行・推進能力」は、書類選考や面接、インターンでの様子の観察なんかでは、なかなか見抜くことができない…。

『あなたの周りにこんな若手社員はいないだろうか?

・失敗を認めようとせず、何でも周りのせいにする。

・いつも自分の評価が低すぎると不満を口にする。

・自分にはもっと高度な仕事を任せられるべきだと思っている。

 彼らに共通するのは、自己評価と周囲の評価に大きなギャップがあることだ。それが、はた迷惑な態度や行動につながっている。

学歴社会が生んだ「能力」の過大評価

 多くはいわゆる一流大学を卒業したり、MBA(経営学修士)の資格を持ったりしている。そのため自分は優秀だと信じ込んでいる。彼らにとって学歴=能力、偏差値=「頭のよさ」なのだ。したがって、いくら間違いを周りから指摘されても、仕事ができなくても自分に問題があることを認めようとしない。なかには「頭の悪いやつにはわからない」と吐き捨てる者もいる。

 しかし、彼らが責任を周囲のせいにするのは、必ずしも的外れではない。会社や社会が彼らの能力を評価しないのが問題なのではなく、むしろ高く評価しすぎたことが問題なのだ。

 周囲も「いくら優秀でも人間性が備わっていないとだめだ」とか、「頭がよいのと仕事ができるのとは違う」というように、彼らの優秀さ、頭のよさを認めた議論をしてしまうことがある。そのような議論を続けている以上、彼らの思い上がりと責任転嫁はなくならない。

 大事なのは、そもそも「優秀」や「能力」といったことは何かを真正面から考え直すことである。とくに技術革新などによって人間を取り巻く環境が大きく変化している現在、会社も社会も評価や選別の前提になっている「能力」の基準が変わってきたことを頭に入れておかなければならない。

 たしかに工業社会、キャッチアップの時代には記憶力や理解力に優れ、豊かな知識を応用して問題を解決する能力が重宝された。また語学力や計算力なども重要だった。受験秀才=優秀と考えても、あながち間違いではなかったわけである。

IT、AIで「能力」の基準が一変

 しかしIT化が進み、AI(人工知能)も普及したいま、これらの能力が決定的に重要だとはいえなくなっている。つまり受験で問われる能力の大部分がAIなどに取って代わられつつあるのだ。極端な話、大学入試問題の大半はAIを使えば瞬時に解ける。なお読解などAIが苦手とする問題も、単に人間用の問題をAIが解けないだけであって、人間が介在しない世界では読解力も必要としないだろう。

 逆にAIがなかなか代替できないのは、勘やひらめき、感性、想像力、空気を読む力といった人間特有の「つかみどころがない能力」である。そして、これらの能力は学歴や偏差値とほとんど関係がない。また、これらの能力の発揮は状況依存的、すなわち本人が置かれた状況や実際の場面に応じて発揮される性質のものである。したがって企業が採用試験などを工夫し、人物をふるいにかけようとしても限界がある。

 要は、実際に仕事をさせてみないと「優秀」かどうかわからないのである。』

『責任転嫁できない環境をつくること

 その点、欧米では半年から1年といった長期のインターンシップで能力と適性を見定めて採用するし、採用後は個々人に権限と責任を与え仕事を任せる。したがって、少なくとも自分にどれくらい仕事の能力があるかを知ることができる。

 いっぽう日本では学歴(学校歴)中心で、あとは簡単な適性検査と面接くらいで採用するケースが多い。最近はインターンシップを取り入れる企業も増えてきたが、それでも期間は数日からせいぜい1カ月程度である。そのため仕事に必要な能力や適性はほとんどチェックされていないといってよい。

 それでは自信過剰型の社員が現れるのは当然である。

 問題は、彼らにほんとうの実力をどうやって自覚させるかである。

 対策として、まず仕事を思い切って任せてみること。そして顧客や市場の中に出すことである。上司や社内の評価には文句を言えても、顧客や市場の評価は受け入れざるを得ない。つまり、責任転嫁ができない環境をつくり、自分の実力を冷静に見つめさせる必要がある。

 ただ、それでも自分の「優秀さ」「頭のよさ」を疑わないかもしれないし、逆にリアリティー・ショック(理想と現実のギャップ)で挫折する恐れもある。そこで問われるのが、無条件に彼らを優秀だと信じ込ませてきた学歴社会と、彼らをエリートとして迎え入れた会社の責任である。

 いずれにしても自分の実力を過大評価させてきた以上、彼らをいかにフォローするか、難しい課題が残る。』