ミャンマー情勢の鍵握る少数民族武装勢力の動向

ミャンマー情勢の鍵握る少数民族武装勢力の動向
「前例のない大規模な内戦」目前か 停戦無視で空爆
海野麻実 (記者、映像ディレクター)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/22648

『国軍によるクーデターが実行され、1日で2カ月が経つなか、国軍による市民への弾圧は激化し、500人以上が犠牲になるなど緊迫感は高まっている。1日、抗議デモに協力している少数民族武装勢力に対し、自ら発した停戦を無視して空爆を行い、武装勢力は反撃を開始。事態は緊迫化している。

 先月31日、国連の安全保障理事会は国軍のクーデターによる犠牲者が相次ぎ混乱が深まるなか、非公開の緊急会合を開催。会合で演説したブルゲナー事務総長特使(ミャンマー担当)は、「前例のない大規模な内戦が起きる可能性が高まっている」という強い言葉を使い、国際社会の結束を訴えたうえで、国軍と「少数民族武装勢力」との間の緊張が高まっていることを指摘した。

事態の鍵握る少数民族武装勢力の動向
 もはや手段を選ばない国軍による残虐な攻撃が続くなか、今ミャンマー情勢の最も鍵を握るのが、この「少数民族武装勢力」の動向だ。これまで非暴力の抗議運動が呼びかけられ、武器を持たない市民らはあらゆる知恵を絞りながら丸腰で戦い続けてきたなか、国軍は容赦なく不服従運動やデモ抗議に参加した人々らを逮捕・拘束、さらには住宅への放火や銃撃などで女性や子供を含め多くの犠牲者を出してきた。残虐な行為はますます加速する一方で、市民の側に立つことを表明し、デモ抗議を行う人々らを警護、弾圧から逃れた不服従運動のメンバーなどをかくまうなどして注目されているのが、「少数民族武装勢力」だ。

国軍の空爆で破壊されたミャンマー・カイン州にある学校 (Free Burma Rangers提供)
 なかでも目立った動きを見せているのが、南東部カイン(カレン)州のタイ国境地帯を拠点とする「カレン民族同盟」(KNU)である。「カレン民族同盟」は、国内最大規模の反政府勢力で、軍政に対して自治権やカレン族の権利尊重などを要求して戦ってきた。ミャンマー国軍はクーデター後から少数民族勢力の懐柔に努めてきたが、カレン民族同盟は早い時点から「民主化プロセスを阻害し、国の将来に悪影響を及ぼす」と国軍を強く非難。

 武装組織メンバーが、デモ抗議参加者を警護する様子などはソーシャルメディア上で広く拡散され、民主化に向けた抗議の連帯を、民族を超えて高める一役を担ってきた。ミャンマー市民らは、次々に「カチン族も民主化を求めて戦ってくれている」「今度はシャン族も連帯を示してくれている!」など歓喜の声を惜しみなく上げている状況だ。

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『国民の3割占める少数民族の存在感
 ミャンマーでは、主に仏教徒のビルマ族が国民の約7割を占めているものの、カレン族、シャン族、カチン族などを始めとした少数民族が135にも及んでいると言われている。これらの少数民族は、1948年の独立直後から自治権の拡大や民族間を超える平等を求めて、国軍と衝突を繰り返してきた。この背景には、歴代の政府が多数派のビルマ族を優遇し、少数民族の土地にビルマ人を移住させるなどの政策が取られてきたことがある。国境沿いを中心に、ミャンマーの国土の実に3分の1が武装勢力によって支配されているとの統計もあり、人口の3割を占める少数民族の影響力は決して無視できないものだ。

 2016年にアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟・NLD政権が発足した後は、最優先課題の一つとして少数民族との和平が掲げられたものの、自治権などを巡って完全な合意が得られることはなく和平交渉は停滞してしまった。NLDが主導する和平協議に対して国軍が協力的でなかったことが理由の一つとして挙げられる。しかし、ここへきて、「国軍」という共通の敵を前に、俄かに少数民族とビルマ族との連帯の空気が醸成され始めている。

 この多数派のビルマ族と少数派民族の間の「連帯」の動きは、国際社会からも大きく非難を浴びてきたイスラム系少数民族ロヒンギャとの間にさえも起きた。

 ロヒンギャの難民キャンプから続々と、民主化に向けた市民の抗議運動を指示する写真がフェイスブックなどに投稿され、3本指を立てて連帯を示すロヒンギャの姿が拡散されると、ミャンマー市民からは「これまでロヒンギャについて声を上げなくてごめんなさい」などの声が相次ぎ、さらには、学生連盟などが正式なロヒンギャへの「謝罪文」を公開するという、クーデター前からは考えられない、異例の事態が起きている。

少数民族出身のササ氏が「革命の顔」として発信
 こうした少数民族との間の動きは、政治的思惑をはらみながら国軍とNLD側双方において意図的に行われてもいる。NLDの議員らがクーデター後に臨時政府のような形で設置した「連邦議会代表委員会(CRPH)」は、これまでに(3月17日)、すべての武装勢力について非合法組織の指定を解除するとの声明を発表、抗議活動を続ける市民を保護していることへの感謝の意を表すなど、積極的な姿勢を見せている。さらに「CRPH」は、少数民族が長年にわたって要求してきた連邦制民主国家の樹立を約束しており、少数民族に対して「共通の敵」である国軍への明確な共闘姿勢を打ち出している。

 特に注目されているのは、チン州出身の少数民族である医師、ササ氏の「国連特使」としての起用だ。ササ氏は、欧米メディアを始め、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアでも積極的に海外に向けての発信を担うなど、革命の「顔」として活躍しており、国軍に対抗する姿勢を打ち出しながら少数民族の支持拡大を狙う「CRPH」側の戦略は明らかに功を奏しているように見える。

 事実、歯に衣着せぬ発言で、国軍への強い非難も辞さず、連帯を呼びかけるササ氏のソーシャルメディアのアカウントは、民族や宗教に関係なくミャンマー人から今、絶大な支持を集めており、彼が発する文言は瞬く間に拡散されている状況だ。国軍が政治関与への理由付けとして掲げてきた少数民族の武装組織鎮圧に対し、和平を促進することにより国軍統治の必然性を崩していき、国際社会による支援をさらに取り付けたい背景もある。

 ササ氏は既に、南東部のカイン州に多いカレン族の自治拡大を求め国軍と衝突してきた武装組織カレン民族同盟(KNU)の代表や、北東部のシャン州、西部のチン州の武装組織の幹部とも相次いでZoom会談を行ってソーシャルメディアを通じて報告をし、ビルマ族だけでなく少数民族からも非常に好意的に受け止められている。

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『少数民族武装勢力の懐柔に国軍も躍起
 だが、少数民族の懐柔に躍起になっているのは、国軍も然りだ。クーデター直後から国軍は、武装勢力との和平実現を優先政策として掲げ、最高意思決定機関「行政評議会」のメンバーに少数民族出身者を登用。そのメンバーには、モン州やシャン州出身の少数民族のほか、国軍との間で戦闘を繰り返してきた、西部ラカイン州の武装勢力アラカン民族党(ANP)の出身者も含まれていた。

 さらに3月に入ってからは、国軍が大規模な掃討作戦を行うなど、激しい戦闘を繰り広げてきたラカイン州の武装組織「アラカン軍(AA)」のテロ組織指定を解除するなど、大胆な動きにも打って出た。そうした経緯もあり、アラカン軍は、民衆による抗議を大々的に支援するカレン民族同盟などとは異なり、しばらくその態度を明確にしてこなったわけだが、ここへきて、中国国境付近を拠点とする「タアン民族解放軍」(TNLA)と「ミャンマー民族民主同盟軍」(MNDAA)と共に、声明を発表。「もし市民の殺害を続けるならば、『春の革命』を掲げる市民とともに立ち上がる」として、軍が市民への残虐な弾圧をやめない限り、報復を辞さないと警告した。これは国軍にとって大きな誤算であるとも指摘されている。

 事実、国軍は先月31日、翌4月1日からの1カ月間に渡る停戦を一方的に宣言。「武装勢力から新たな攻撃がなければ、軍事作戦は1日から1カ月停止する」と発表し、混乱する事態になんとか手立てを打とうとするような動きを見せたものの、「政府の安全を妨げる行為に対する防衛」は停戦対象外としており、市民らへの武力行使が収まる兆しは見えない。

 むしろ、今や複数の武装組織が「民主主義を掲げる市民の抗議デモを支援する」として市民を守るだけではなく、反撃も辞さないプロアクティブな態度を表明していることから、これまで非暴力が掲げられてきた民衆による抗議運動は、武装組織を交えた国軍との報復の応酬へと異なる様相を呈してくる懸念が高まっている。こうした状況が、先般の安保理での「内戦」への発展に対する深刻な指摘に繋がっている。

激化する「内戦」の様相呈し始めたミャンマー情勢

花を一輪手にそっと持ち3本指で抵抗を示すフラワーストライキ (ミャンマー市民提供)
 現に、暴力の連鎖は始まっている。

 「国軍記念日」の式典が開かれた先月27日、抗議デモを行う市民らを警護するなどしてきたカレン族が自治を行う地域の村が空爆され、複数の死傷者が出た。これにより、住民3000人以上が隣国タイに避難をする事態となり、情勢は緊迫さを増している。さらに、冒頭述べたように、国軍は自ら停戦を無視して1日、再び空爆を行うなどもはや戦闘態勢に入ることを辞さない構えにも映る。カレン民族同盟側が停戦協定を破って、国軍の基地を攻撃したことへの報復だと強調しているが、非暴力での抗議を持ってして、犠牲者が後を絶たない現実に、次第に市民の側でも「戦わざるを得ない」との意思を固くする人々が出てきていることも確かだ。

 ヤンゴン出身の女性はソーシャルメディア上で、「もう既に内戦は始まっているのです。私たちは戦わなければならない段階に来ているのかもしれません」と投稿。女性や子供までもが犠牲になる残虐な攻撃も辞さない国軍の態度を前に、手段を失った一部の市民らが少数民族側の武装組織に入って訓練を受け始めたという報道もされ始めている。

 奇しくも、2日、ミャンマー市民らのソーシャルメディア上は、美しい花の写真で溢れた。「フラワーストライキ」——若者たちによって呼びかけられたこのストライキでは、可憐な花を一輪、抵抗を示す3本指の中にそっと抱えて撮影した写真が次々に静かに投稿され、犠牲になった英雄たちへの思いを込めて手向けられた。暴力を望まない、ただ民主主義を求めて戦う市民らの心は果たして通じるのか。

「ミャンマー国内ではもう立ちゆかない問題です。国際社会の皆さんの声が必要なのです。もう事態は一刻の予断も許さない状況です」ソーシャルメディアを通じて世界へ向けて懸命に訴えるミャンマー市民らの声が今、重く響く。』

ミャンマーの民族一覧
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%B0%91%E6%97%8F%E4%B8%80%E8%A6%A7