[FT]ヨルダン王室、兄弟の確執が噴出

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『ヨルダンの首都アンマンにある宮殿でハムザ王子と面会した軍のトップは、ハシム王家の前皇太子である王子に相応の敬意を示した。だが、伝えたメッセージは脅迫のように響いた。王室を批判する者たちと交わりを絶たねばならないーー。

「殿下、お互いに承知のことですが、この話はレッドライン(越えてはならない一線)を越えております」とフネイティ統合参謀本部議長は話した。「人々が必要以上のことを話しています。そのため、…

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そのため、国王のご意向として、本日からあなたはそのような場に出向かず、人々と交わらないようにして頂きたい」

一時は王位継承者の地位にあった41歳の王子はこの要求に怒りをあらわにした。「あなたはここへ来て、私の行動、私が会う相手について指図をしている」。フィナンシャル・タイムズ(FT)紙が入手した音声データによれば、王子はこう叫んだ。「国の運営の不始末は私のせいなのか。起きている失敗は私のせいか」

シェークスピア劇さながらの王室劇

この音声ファイルは、王子が録音し、側近が拡散させたものだ。3日に起きたこの口論が、アラブ世界屈指の誉れ高い王室で48時間に及ぶ混乱の幕を切って落とした。シェークスピア劇さながらの波乱に富んだドラマが国民の眼前で繰り広げられた。

ハムザ王子に王室批判勢力との接触を断つよう伝えたフネイティ統合参謀本部議長(右)=ロイター

面会の数時間後、フネイティ氏は、国の安定と治安を脅かす活動を停止するよう王子に警告したとの声明を発表した。一方、ハムザ王子はSNSへの投稿動画で自宅に軟禁されたと訴え、支配階級のエリート層の腐敗と縁故主義を糾弾した。翌日、当局は外国や国内の勢力とともにヨルダンを不安定化させる陰謀に加担していると王子を非難、国内外に衝撃が広がった。

王子の友人や知人を中心に18人が逮捕された。ヨルダン政府当局者によると、王子とその一派に対する動きには伏線があった。治安関係機関の責任者らがアブドラ国王に、異母弟である王子が国王に対する批判を行動に移そうとしていると報告していたというのだ。ハシム王家の基盤である60の部族の指導者を訪問するなど、疑わしい行動があったという。
王宮府の元長官で、現在はサウジアラビアのムハンマド皇太子の指南役を務めるバセム・アワダラ氏も逮捕された。同氏はヨルダンとサウジの二重国籍を持ち、アブドラ国王のサウジ特使の立場にあるとされてきたが、ヨルダン王室からは信頼されていなかった。王宮府の当局者は、アワダラ氏がハムザ王子に指導や助言をしていたとしている。サウジ、ヨルダン両政府当局者間のやり取りに詳しい人物によると、サウジ側がアワダラ氏の身柄の引き渡しを求めたが、ヨルダン側は拒否したという。サウジ政府の方針について説明を受けている関係者は、そのような要請はなかったと否定した。

一部のアナリストはハムザ王子とアワダラ氏のつながりの信ぴょう性を疑問視している。「ハムザ王子は頭のいい男だ。アワダラがヨルダンで不人気なことをわかっている。腐敗と(1990~2000年代に)アワダラが提唱した新自由主義の経済政策への反対を訴えて、国内を回っていた」と話すのは、カタール大学教授(国際関係論)でヨルダン人のハッサン・バラリ氏だ。「王子に野心があるなら、アワダラとつながりを持つのは愚策だ」

バラリ氏は「体制側がハムザ王子を巻き込んだのは間違いだった。彼はヨルダン国民の間で人気が高い」と指摘する。

軍は国王が固く掌握しており、クーデターという話は出ていない。部族指導者たちとの会合後に傍受した通信や、コロナ禍による内政への不満の高まりを背景に、治安当局と王室は警戒感を強めている。

ハムザ王子の支持派は、アブドラ国王が異論を許そうとしない姿勢を強めるなかで王子が犠牲になったと受け止めている。だが王室関係者の話からは、王位に固執し、国の経済的苦境に乗じて兄を追い落とそうとしている男という人物像が浮かび上がる。

ある王室関係者は「国王になれなかったという事実を受け入れられず、今も自分は王になるべき人間だと思っているようだ」と話す。一方、ハムザ王子に近い関係筋は、王子は事を起こそうとしているのではないと断言する。「彼が案じるのは常に王室全体とそのレガシー(遺産)のことだ。自分の地位のために王室を危険にさらすような人では決してない」

くすぶり続けた異母兄弟の不和

兄弟の確執は長年、くすぶり続けていた。王室の内情を知る人間によれば、ハムザ王子は父フセイン前国王にかわいがられ、話し方や装い、容貌が亡父によく似ている。米国出身の母、ヌール王妃はその王子を幼少期から将来に備えて教育した。前国王の4番目の妻だった69歳の王妃は先週末、「この邪悪な中傷を受けた無実の犠牲者たち」のために祈りをささげているとツイッターに投稿した。

ハムザ王子と母親のヌール王妃=AP

1999年にフセイン国王が死去する2週間前、ハムザ王子より18歳年上のアブドラ王子が皇太子と王位継承者に指名された。前国王の2番目の妻、英国出身のムナー王妃の子であるアブドラ王子がおじのハッサン王子を押しのける形となり、その時も複雑な宮廷劇が展開された。前国王は病床で、自分の死後はハムザ王子を皇太子にと告げていたと伝えられ、これが権力争いをめぐる臆測を一段と過熱させた。2004年にアブドラ国王はハムザ王子から皇太子の地位を剥奪、自身の息子のフセイン王子の王位継承に道筋をつけた。

ハムザ王子に近い関係筋は、2人の兄弟の関係を「非常に敵対的」と評する。当初は、ハムザ王子は、王権から外すというアブドラ国王の決定を「しぶしぶ受け入れた」が、時と共に不信感を募らせて、国王の取り巻きは腐敗に染まり「全てを盗んでいる」と信じるようになり、対立関係が深まったという。

「ハムザとアブドラが口を利かないことは知られている」と、この人物は話した。ハムザ王子は軍での地位を数年前に解かれ、警護体制が変更されるなどしたことを、「警護でなくスパイをするためだ」と受け止め、いらだちを募らせていたという。

堪忍袋の緒が切れた国王

アブドラ国王に近い人物は、国王の堪忍袋の緒が切れたと証言する。18年に反政府抗議デモの発生を受けて国王が首相を解任した際に、ハムザ王子はツイッター上で公共部門の汚職摘発を訴えたと関係者らは語る。「国王は寛大だった」と、ある王室関係者は言う。「だが、ハムザは図に乗った。彼は国を混乱させ、国に守られながら動いていた。王子としての特権を反国王活動に利用していた」

2018年、アンマンでヨルダン政府の緊縮政策に抗議する人々=ロイター

経済が悪化するなかで、国王に対する圧力は増している。国内に失業が広がり、歳入が減る一方で債務が急激に膨らんでいる。コロナ禍で、二つの重要な外貨獲得源である観光産業と海外の出稼ぎ労働者からの送金が打撃を受けている。ペルシャ湾岸の裕福な国々も、ヨルダンへの財政支援を減らしている。トランプ前米政権の政策を受けて、アブドラ国王とサウジのムハンマド皇太子、イスラエルのネタニヤフ首相との関係は悪化した。

ヨルダン王室は事態を取り繕おうとしている。王宮府は5日、ハムザ王子が王室の主要メンバーらと話し合ったうえで、国王への忠誠を誓う文書に署名したと発表した。仲介役として動いたのは、ハッサン王子だ。かつて故フセイン前国王によって皇位継承から外され、アブドラ氏が国王になった。ヨルダン政府は6日、3日のフネイティ氏との会話の音声データを含めて、この問題に関する報道やソーシャルメディアへの投稿を禁止した。

だが、ある王室関係者は「おそらくこれで終わりではないだろう」と語った。

By Andrew England and Heba Saleh

(2021年4月7日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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