欧州、北朝鮮と距離開く アジア政策を見直し

欧州、北朝鮮と距離開く アジア政策を見直し
欧州総局編集委員 赤川省吾
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2149O0R20C21A3000000/

『アジアへの関心を高める欧州が北朝鮮政策で強硬姿勢を明確にしている。在平壌大使館を大幅縮小するとともに、密輸やミサイル開発への警戒を強めた。米国とともに民主主義を支えてきた欧州は、対中国政策だけでなく、強権国が増えているアジア外交全般の見直しに動いている。

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英国政府は3月中旬、外交・安全保障の新指針「統合レビュー」でアジアシフトを打ち出し…

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英国政府は3月中旬、外交・安全保障の新指針「統合レビュー」でアジアシフトを打ち出し、北大西洋条約機構(NATO)も年次報告書で「中国の台頭」を指摘した。欧州ではアジア外交の重要性が飛躍的に高まっている。

足元では欧州主要国がアジアに海軍を送る動きが相次ぐ。主眼は中国けん制だが、実は北朝鮮もにらむ。「北朝鮮の制裁回避に対する警戒監視活動」。在日フランス大使館は3月、フリゲート艦「プレリアル」を日本に派遣した理由を、こう説明した。

欧州各国は平壌に大使館を置くが、現在はほとんどがもぬけの殻。「外交官は全員待避した」(ポーランド外務省報道官)、「大使はストックホルムで勤務中」(スウェーデン外務省報道官)。取材によると、平壌での外交活動はほぼ停止した。

きっかけは2020年2月、新型コロナウイルスの感染拡大を懸念する北朝鮮当局からの通告だ。「外交官であっても移動を制限する」。各国大使館に書簡が届いた。

外交官の移動の自由をうたうウィーン条約の精神に反し、事実上の軟禁状態となって業務に支障が出るだけではない。大使館員が体調不良になっても、医療チームを平壌に送ることができない。

「人権を説く欧州が、ひどい労働環境で外交官を働かせることはできない」。匿名で取材に応じた欧州の政府高官は言う。前例をつくれば、似たようなことを要求する強権国が相次ぐ恐れもある。抗議の意味も込めて、20年末までにほとんどの欧州外交官が平壌を離れた。
欧州は北朝鮮とイランなどが技術者の交流を続けているとにらむ。写真は21年1月の軍事パレード、朝鮮中央テレビが放映した=共同

北朝鮮は以前、欧州でぜいたく品や外貨を調達していた。欧州は半ば黙認していたが、北朝鮮が2017年に核・ミサイル実験をエスカレートさせると方針を転換し、包囲網を狭めてきた。

ポーランドが北朝鮮の出稼ぎ労働者の受け入れを停止し、ルーマニア外務省報道官は「国連の北朝鮮制裁を厳格に守る」と取材に答えた。ドイツ政府は20年、在独北朝鮮大使館が敷地内で運営する宿泊施設を外貨獲得施設とみなして閉鎖させた。ドイツの情報機関、連邦憲法擁護庁は北朝鮮が欧州で核・ミサイル部材を買い付けているとにらんで警戒を強める。

居心地が悪くなった北朝鮮は正規の外交ルートを避け、直接、欧州の政治家に接触している。

英独仏の欧州議会議員(当時)3人は18年秋、欧州議会のマカリスター外務委員長の反対を押し切って訪朝した。「訪問にあたって外交ルートは使わなかった」。そのうちの一人、仏極右政党、国民連合の重鎮ゴルニッシュ氏は取材に証言した。5日間滞在し、農業施設などを見学した。

ドイツ野党・左派党の重鎮モドロウ氏(左)は、北朝鮮の金日成主席と一緒に遊覧船に乗り、会食した仲だ(写真は1996年、ロイター)

18年には旧東独の閣僚評議会議長(首相)で、いまはドイツ野党・左派党の長老会議長、モドロウ氏も訪朝した。同氏への取材によると李洙墉(リ・スヨン)党副委員長(当時)から招かれたという。モドロウ氏は1984年に金日成主席が訪欧した際、つきっきりで接待したことがあり、北朝鮮との縁は深い。19年にもドイツの与党議員らが訪朝した。

コロナ禍で平壌入りが難しくなったいまはビデオ会議などで欧州政界と北朝鮮の接触は続く。

北朝鮮の狙いは欧州政界に直接、アプローチできることを示し、強硬姿勢に傾く欧州の外交当局をけん制することだ。日本でも一部の国会議員らの訪朝が物議をかもした。独自外交を繰り広げる政治家は存在するが、欧州の外務当局者は異口同音に「北朝鮮の手口に動揺してはいけない」と述べ、甘い顔はみせない。

ストックホルムの閑静な住宅街にある在スウェーデン北朝鮮大使館(2018年に撮影)

もっとも、外交官らが接触を完全に遮断したわけではない。欧州に点在する北朝鮮大使館と、欧州各国の外務省は接点がある。「外交交渉こそが朝鮮半島の非核化に適切な手段」。英外務省報道官は取材に答えた。朝鮮労働党が党大会を開いた1月、ドイツなどが一斉に接触し、党大会の狙いを問うた。

欧州各国は収集した北朝鮮情報をEUの主要機関が集まるブリュッセルに持ち寄り、定期的に意見交換している。EUを離脱した英国も時折、情報交換の輪に加わっているとみられる。そもそも英独スウェーデンの3カ国は、ドイツが旧東独時代から平壌に持つ巨大な建物を大使館として共同利用している。

米朝対話の機運が再び盛り上がれば、欧州は交渉場所となる可能性がある。アジア政策を担当する欧州の政府高官は「すぐに動き出すとは思っていない」と語るが、潮目が変われば、交渉の下準備に応じる心づもりをしている。中立国スウェーデンが米朝の仲介役に乗り出す可能性もある。

これまで日本は自らの安全保障を考える際、米国とアジア太平洋諸国を主眼に置いてきた。これからは欧州との連携をもっと探ってもいい。軍事的な抑止力はともかく、国際世論を形成するうえで欧州の外交力は無視できない。

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