デジタル通貨、新興国が主導 世界の6割が実験へ デジタル通貨元年㊤

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『電子的にお金をやり取りするデジタル通貨の実用化が視野に入ってきた。世界の中央銀行の6割が実証実験に着手し、先行する新興国の動きに日米欧も重い腰を上げつつある。民間の金融機関も法人顧客や海外向けサービスでしのぎを削る。流通コストの低下につながるデジタル通貨のうねりは、米ドルを頂点にした通貨覇権を揺さぶる可能性も秘める。
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日銀が実験スタート よく分かる「デジタル通貨」

カンボジア全土のカフェでは「ここでバコンが使えます」と書かれた赤い看板が目に付くようになった。「バコン」は2020年10月に発行が始まったデジタル通貨だ。スマートフォンに専用アプリをダウンロードし、電話番号やQRコードを使って店頭での支払いに利用できる。個人と銀行口座間の送金も可能で、送金手数料はかからない。バコンは中央銀行が自ら発行・管理するデジタル通貨(CBDC)。現金と同じ法定通貨のため原則どこでも使える特徴がある。

国際決済銀行(BIS)が1月公表した65カ国・地域の調査で、20年時点でデジタル通貨を研究する中銀のうち実証実験の段階と答えた割合は約60%と1年前の42%から伸長した。実用化への歩みがさらに進む21年は「デジタル通貨元年」となる。

カリブ海8カ国・地域の金融政策を担う東カリブ中央銀行(ECCB)は3月末にデジタル通貨「Dキャッシュ」の発行を試験的に始めたと発表した。2年間の研究期間を経て、実用化に踏み込む。中銀主導のデジタル通貨は新興国の発行意欲が強い。固定電話の整備が遅れていた新興国で一気に携帯電話が普及したようにATMや銀行店舗など金融インフラが整っていない国ほど、デジタル通貨を導入する意義は大きい。その狙いには誰もが金融サービスを利用できるようになる「金融包摂」がある。

カンボジアは国民の7~8割が銀行口座を持たないとされる一方、携帯電話の普及率は150%に達する。銀行支店がない農村部でも、スマホを使った送金などができる。「金融政策のコントロールが効きやすくなる」。カンボジア国立銀行のチア・セレイ統括局長はこんな期待を寄せる。同国では預金の8割以上が信用力の高い米ドル建てだ。自国通貨の流通が少ないと、金利や通貨供給量の調節で景気・物価に働きかける金融政策の効力が弱まる。CBDCを通貨主権の回復につなげる思惑もちらつく。

長い人類の歴史で、通貨の形態がここまで劇的に変わったことはない。リアルのくびきから解き放たれた通貨のデジタル化は既存の秩序を揺さぶり、国民の暮らしから国際通貨の勢力図までを変える可能性がある。

昨年12月、中国の蘇州市で「デジタル人民元」の実証実験に10万人が参加した。通信環境が悪くても送金や決済に使えるかを試し、通貨としての機能を果たせるかを検証している。22年の北京冬季五輪までにCBDCを正式発行しようと実験を繰り返す中国。狙うのは国内の統制強化とされる。利用履歴やお金の流れを捕捉しやすいデジタル通貨を国が発行・管理すれば、国民の監視を強めることができる。

デジタル人民元はより高度な条件での実験を重ねている=ロイター
人民元の国際化という国家戦略にも沿う。中国人民銀行は2月、香港やタイ、アラブ首長国連邦(UAE)の中銀とデジタル通貨の共同研究を始めると発表した。目指すのは海外と相互にデジタル通貨を送金し、越境決済できるようにする仕組みづくり。基軸通貨のドル1強を突き崩す動きにも映る。

ドルを頂点にユーロや円など世界で流通する通貨を抱える日米欧はCBDCに慎重な姿勢を続けてきた。資金洗浄(マネーロンダリング)に使われるリスク、既存の銀行システムとの共存といった課題も多く、新興国ほどの利点を見いだせなかったためだ。

潮目が変わったのは19年。デジタル人民元に加え、世界で30億人規模が利用する米フェイスブックがデジタル通貨「リブラ」(のちにディエムに改称)の構想をぶち上げたのがきっかけだ。新たな「国際通貨」が生まれると、通貨主権が揺らぎかねない。中銀が独占してきた通貨発行益を奪われるリスクもある。

日米欧は中銀によるCBDCの共同研究グループなど国際協調の枠組みのなかで対抗策を練ってきた。デジタル通貨の技術や制度設計面で中国が国際標準を握り、後発組が不利になることへの危機意識も背中を押す。

日銀は5日から、CBDCがシステム上で機能するかを確かめる実証実験を始めた。3段階の実験の最初のステップと位置づける。欧州中央銀行(ECB)も年央をめどに「デジタルユーロ」事業を進めるかどうか結論を出す考えだ。もっとも、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は3月に「プロジェクトを急ぐ必要はない」と語った。日米欧には既存の通貨システムを自ら崩すリスクをはらむCBDCをどこまで推進すべきか気迷いもある。

パウエルFRB議長はCBDCに慎重な姿勢をにじませる=ロイター
20カ国・地域(G20)の協議では、国境を越える送金のコストや利便性の改善に向けてCBDCを活用する案も浮上している。だが「新興国は乗り気な半面、国際通貨を抱える先進国は総じて消極的」と日銀関係者は打ち明ける。各国の思惑は交錯し、通貨覇権の行方は混沌としている。

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深尾三四郎
伊藤忠総研 上席主任研究員
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別の視点日本は民間デジタル通貨とのインターオペラビリティ(相互運用性)も確保したCBDCの社会実装を急ぐべき。

日本はデジタル化が急速に進む中国に加え、若者人口とSIMカードの普及枚数が多いアジアと近い。中国はCBDCとブロックチェーン(分散台帳技術)をスマートシティのインフラ基盤にしながら、サイバー空間を活用して自国民の経済活動を活発化させている。アジアでは若者が持つスマホを起点にした社会やビジネスのDXが進展し、キャッシュレスな民間デジタル通貨の普及が加速している。

暗号資産やデジタル通貨と相互運用可能なCBDCをワクチンパスポートと併せて普及させると、人の往来と経済を活性化することができる。
2021年4月6日 12:32 (2021年4月6日 13:38更新)

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梶原誠
日本経済新聞社 本社コメンテーター
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別の視点 「コロナ後、世界経済最大のリスクは主要通貨の暴落だ」。こんな話を米国の経営コンサルタントから聞きました。コロナ対策で各国の債務依存が強まり、通貨への信認が失われる恐れがあるとのこと。「ビットコインの高騰も、既存通貨に対する不信という側面がある」と顧客企業に話しているそうです。特定の通貨が暴落しても財産が守れるように、主要通貨のバスケットを裏付けにしたデジタル通貨の開発を進める民間研究者もいます。そんな通貨が普及すれば、中央銀行単独の影響力は落ちるでしょう。先進国の当局者もうかうかしていられません。

2021年4月6日 13:21 (2021年4月6日 13:33更新)
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