日本製鉄、1万人合理化 「がくぜんとした」 瀬戸際の鉄鋼(1)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ258AC0V20C21A3000000/

『3月5日午前10時すぎ、日本製鉄本社14階。取締役会で社長の橋本英二は問いかけた。「ご質問があれば頂戴したい」

居並ぶ取締役17人に示したのは2025年度までの経営計画。橋本の落ち着いた様子とは対照的に内容は大胆だった。

東日本製鉄所鹿島地区(茨城県鹿嶋市)では基幹設備の高炉を1基休止。ほかの拠点とあわせ生産能力を2割減らし、協力会社を含め1万人規模を合理化する。

経営陣には概要を説明してあり、会議は円滑…

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経営陣には概要を説明してあり、会議は円滑に進んだ。一方、その数時間後に本社9階の会議室で橋本たちから正式に知らされた従業員側への衝撃は大きかった。

「驚きを禁じ得ない」。同日中に会社が受け取った労働組合の意見書にはこう記された。無理もない。1年前にも瀬戸内製鉄所呉地区(広島県呉市)の閉鎖など大規模な合理化を発表。高炉休止を2年続けて決める異例の事態となったからだ。

衝撃は製鉄所のお膝元に広がる。「がくぜんとした。市の人口がさらに5千人ほど減ることも覚悟しなければ」。一報に接した鹿嶋市の市長、錦織孝一もうなだれた。

日本の近代化を支えた鉄鋼業と、再編を繰り返しながら国内では最大手として君臨し続けた日本製鉄。内需低迷と中韓勢の台頭により、かつてない苦境に追い込まれている。

合理化の予兆はあった。「構造改革を断行する年になる」。1月、橋本は新年のあいさつで社員に危機感を訴えた。4315億円と過去最悪の最終赤字だった20年3月期に続き、21年3月期も1200億円の最終赤字を見込む。

特に本丸の国内製鉄事業は厳しい。在庫評価損益を除く真水の単独営業損益は20年3月期まで3年連続で赤字だった。以前は単独の損益を知るのは限られた部署のみ。それを橋本は19年5月に社内に危機感を植え付けるため初めて公表した。

その翌月、本社で一つの部署が本社12階から13階に移った。「生産設備企画」。製鉄所の設備計画を中長期で考える部門だ。同時に所管は技術を統括する部署から経営企画に移管。生産設備企画と経営企画が連携し、今回の計画をまとめた。

日鉄は事務系が経営企画を牛耳る一方、設備計画は技術系や製鉄所に任せる傾向が強かった。

「(自分は企画部門で)珍しがられている」。19年4月に名古屋製鉄所(愛知県東海市)所長から経営企画担当の常務執行役員に就いた今井正も当初、そう感じるほどに組織の壁は厚かった。

結果として両者の情報共有は遅れがちに。現場で目立つのは生産性が落ち、補修費がかさむ設備。その稼働を維持するために安値で売る悪循環に陥った。今井は「事務だ、技術だといってる時代じゃない」と訴える。

住友金属工業や日新製鋼との統合を重ねた日鉄。各地での設備の老朽化は操業トラブルという形でも出ていた。

「足場が狭く、危ない」。19年8月初旬、呉の拠点を訪ねた橋本は現場で胸騒ぎを覚えた。直後の8月末、予感は的中する。中核設備で火災が発生。自動車用鋼材の供給に支障がでた。最近では名古屋製鉄所でも火災が起きている。

採算改善にむけ、余剰設備の集約はかねて課題だった。ただ製鉄所は地域経済の要であり「鉄は国家なり」との自負もある。アベノミクスで事業環境が好転し、実力値がみえにくくなっていた。

「つくれば売れるとの発想から抜けきれなかった」。旧住金出身で統合後に副社長も務めた本部文雄は嘆く。

そこに政府の脱炭素政策が追い打ちをかける。政府は50年ゼロにむけ、炭素排出に値段をつけるカーボンプライシング(CP)も検討する。

いまの製鉄法は、石炭を使い二酸化炭素が多く発生する。そのためCPは日鉄にはコスト増と同じ。「CPは市場をゆがめる」。橋本は2月に官邸で首相の菅義偉に反対を訴えたが、CP構想がとまる保証はない。

技術革新で対応しようにも、切り札の水素製鉄などの実現には4兆~5兆円かかり、1社で負担できる範囲を超える。

内外に強まる逆風に日鉄の橋本はつぶやく。「脱炭素の競争にも遅れたら日本の鉄鋼業は存亡の危機に陥る」(敬称略)

「鉄冷え」の再来と脱炭素政策にあえぐ鉄鋼業。その最前線を追う。

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竹内純子
国際環境経済研究所 理事・主席研究員
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ひとこと解説 記事に出てくる茨城県鹿嶋市は、2050年ネットゼロカーボンシティ宣言したんですね。であれば少なくとも今の炉の存在は認められないというメッセージを自ら出したわけです。
日本は世界で唯一、鉄鋼が中国に対して輸出超過とのこと。高機能製品を作る技術でまだ優位性を持っていたから。ただ、鉄の製造プロセスからはCO2は排出されます。記事中には水素還元製鉄の課題をコストだけのように書いていますが、そもそも水素還元製鉄は商用機レベルではまだどこにも存在しません。2050年ネットゼロに向けてどう移行を進めるかを社会として考える必要がありますが、それが鉄鋼業界に丸投げされている感も。

2021年4月5日 9:28いいね
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深尾三四郎
伊藤忠総研 上席主任研究員
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ひとこと解説 日本の鉄鋼は中国に量だけでなく環境価値(質)でも大きく水を開けられようとしている。
欧州を模範にする中国は全土での鉄鋼産業向け排出権取引制度(ETS)を近い将来実施する。そして炭素国境調整措置も導入し、ETS非導入国の鉄鋼製品に対して「グリーン関税」を課す可能性がある。中国以外の主要輸出先の韓国やタイもETS整備で日本を先行している。即ち、CPで出遅れる日本の輸出競争力は中国のみならずアジアでも低下するリスクがある。脱炭素技術では、日本は水素還元法の原料(水素)のコストが高く、電炉法も電源にしたい再エネの発電量が少ない。拠点の海外移転で国内雇用が更に減少し、産業が空洞化する懸念が高まっている。

2021年4月5日 7:49 (2021年4月5日 7:49更新)
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志田富雄
日本経済新聞社 編集委員
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分析・考察 いま、日本の高炉は3つの競争に直面していると思います。1つは昨年の粗鋼生産で世界の56%を占める中国の存在。個別企業の生産能力でも世界の上位2社と大きな差ができました。2つ目には軽量化をめざす自動車を中心にアルミなどの非鉄金属や炭素繊維、合成樹脂製品など他素材との競争があります
3つ目は環境負荷という新たな物差しの台頭です。この物差しでは、同じ鋼材でも鉄スクラップを原料につくる電炉製品が優位になります。公共工事や需要家が、リサイクル素材である電炉製品の使用比率目標を導入してくる可能性も否定できません。高炉各社には厳しい環境が続きます。

2021年4月5日 9:04いいね
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