[FT]隠れリスク露呈、銀行の株式デリバティブ事業

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『米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントの破綻劇は、金融機関がヘッジファンドに自己資金以上の株式・関連資産への投資をさせるという、もうけは大きいが不透明な株式デリバティブ(金融派生商品)事業の隠れたリスクを表面化させた。

元ヘッジファンドマネジャー、ビル・ホアン氏のファミリーオフィス(個人資産を運用する投資会社)であるアルケゴスの投資の失敗は、クレディ・スイスや野村ホールディングスなどに巨額の損失をもたらし、こ…

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元ヘッジファンドマネジャー、ビル・ホアン氏のファミリーオフィス(個人資産を運用する投資会社)であるアルケゴスの投資の失敗は、クレディ・スイスや野村ホールディングスなどに巨額の損失をもたらし、この種のツールが金融市場全体に波及する連鎖反応を引き起こしうることを浮き彫りにした。

アルケゴスは「トータル・リターン・スワップ(TRS)」を通じて、米メディア企業バイアコムCBSなどの株式を数百億ドル(数兆円)規模で売買できるようになっていた。TRSは、実際に株式を買うことも、現物株を保有する場合のように自分のポジションを明かすこともなく巨額の投資ができるため、ヘッジファンドに好まれている「複合」金融手法だ。

透明性がないために、アルケゴスのような会社は複数の銀行を相手に同様のスワップができる。銀行側は相手の投資の全体像を知らないため、ポジションが裏目に出るとヘッジファンドと銀行のリスクが膨らむ。

事業収益は増えたが
米コンサルティング会社ファイナディアムによると、世界の銀行は2019年にTRSを含む株式デリバティブ事業で推計110億ドルの収益を上げている。12年の2倍の水準だ。

同社の推計では、金融危機後に急拡大した株式デリバティブ事業は銀行のエクイティファイナンス事業による収益の過半を占め、旧来の信用取引に伴う貸し出しと空売り向けの貸株の合計収益を超えている。21年に入っても、複合金融はエクイティファイナンスに占める重みを増し続けている。

銀行はヘッジファンドなど契約相手の投資家から定期的に手数料を受け取り、TRSで着実に収益を上げている。投資家側は、当該の株式や株価指数などの関連資産が値上がりすれば、銀行から収益金を受け取れる。銀行は投資家に保有株の配当金も支払う。

銀行側は現物株を保有するか、反対の見方をする他の顧客と逆のポジョションを取るか、あるいは他の金融機関からヘッジを買ってリスクを相殺する。

当該の株が値下がりした場合、投資家は銀行側の損失をカバーするための支払いを定期的にしなければならない。その間隔は毎日から四半期ごとまで幅がある。

クレディ・スイスはアルケゴスとの取引で多額の損失をこうむった(同行のロゴ)=AP
「大半のスワップは想定元本が大きいため、トータルリターンを支払う側(通常は商業銀行か投資銀行)は、相手のヘッジファンドが資本不足でデフォルト(債務不履行)に陥る危険を抱えている」と監査法人デロイトは指摘している。

アルケゴスはポジションのいくつかが裏目に出てまさにこの状況に直面し、銀行側はヘッジ(株式)の投げ売りに走った。アルケゴスが複数の銀行とスワップの契約を交わしていたことが事態を一層深刻にした。

エクイティTRSは2者間の特注の相対契約であるため、取引所経由での清算や報告はされていない。株式のデリバティブ取引は現物保有の場合と異なり、投資家が米証券取引委員会(SEC)に報告する必要もない。

金融業界は大半のスワップ取引について、デリバティブに関する情報を当局に提出するデータウェアハウスに報告することを義務付けられているが、エクイティTRSに関するルールが施行されるのは21年半ば以降だ。

知られていた根本問題 
「デリバティブによる株式保有の報告に関しては、以前から知られている根本的問題がある」と指摘するのは、SEC出身で現在は活動団体「ヘルシー・マーケッツ」の代表を務めるタイラー・ジェラシュ氏だ。

「単一の顧客に5つの銀行が資金を提供していても、各行はそのことを知らないかもしれず、問題が生じたら別の銀行に売却できると思うかもしれない。だが、他行もすでに関与しているのでので、そうはいかない」

ファイナディアムのジョシュ・ギャルパー代表は、エクイティTRS市場の成長について「株式取引への融資よりもTRSの利点を高めやすいバーゼル規制とドッド・フランク法がもたらした自然な帰結」だと説明する。ともに金融危機後の金融規制改革で導入された。

銀行にとって、株式デリバティブ事業は魅力のあるビジネスだ。顧客側のポジションが拮抗する形で固まっていれば、従来の信用取引に伴う貸し出しよりも規制上の自己資本が少なくて済むからだ。

「自己資本比率、流動比率、取引のカバー率によってTRSは利点が高まりうる」とギャルパー氏は言う。

銀行の情報開示のあり方が、外部からエクイティTRSのリスクをつかむことを難しくしている。

「大手銀行はデリバティブ関連の開示に多くのページを割いているが、かなり上のレベルの内容であり、個々の契約相手や証券へのエクスポージャーに関する情報には迫れない」と、会計を専門分野にする米コンサルティング会社ジオン・リサーチ・グループのデーブ・ジオン氏は話す。

「信用リスクの集中に関する情報は業界レベルになりがち」で、市場リスクへのエクスポージャーに関しては総数のほうが役立ちうるのに「デリバティブ取引の正味債権に焦点が置かれる」と同氏は言う。

銀行の情報開示を専門とする英コンサルティング会社、リスキー・ファイナンスのニック・ダンバー氏によると、一部の銀行は会計上の目的でエクイティTRSを担保付き融資として扱っている。「行内のデリバティブ取引デスクから記帳されないため、(国際的に活動する全ての銀行に義務付けられているリスク加重資産やレバレッジ、信用リスクに関する)バーゼル3の開示資料に出てこない」

情報開示がないことで、一般的に銀行の安定した収益源になっているエクイティTRS事業は、発生することはまれながら重大なリスクを抱えていることが覆い隠されている。ある国際銀行の株式デリバティブ取引デスクのスタッフは「誰が何を持っているのかを知るのがとても難しい」ため、エクイティTRSは「(道路工事の)スチームローラーの前で5セント硬貨を拾い集めるような取引の典型例だ」と打ち明ける。

「1日中、硬貨を拾い集めることはできる。スチームローラーの動きはかなり遅い。しかし、つまずけば最後、ひかれてしまう」

By Robert Armstrong

(2021年4月1日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/

(c) The Financial Times Limited 2021. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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