中国市民、定年延長論に反発 子育て「家族総出で」

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『中国政府が定年退職の延長議論を本格化させる。働き手を増やし、社会保障負担を抑えるためだ。2025年までの主要課題に据えたが、若年雇用へのしわ寄せなどが予想され抵抗は根強い。祖父母を含め家族総出で子供の面倒をみる「自助」が基本の家族観も、定年延長に反発を招く要因になっている。

「段階的に法定の退職年齢を延ばす」。3月11日に閉幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)でまとめた政府活動報告は、新た…

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中国政府が定年退職の延長議論を本格化させる。働き手を増やし、社会保障負担を抑えるためだ。2025年までの主要課題に据えたが、若年雇用へのしわ寄せなどが予想され抵抗は根強い。祖父母を含め家族総出で子供の面倒をみる「自助」が基本の家族観も、定年延長に反発を招く要因になっている。

「段階的に法定の退職年齢を延ばす」。3月11日に閉幕した全国人民代表大会(全人代、国会に相当)でまとめた政府活動報告は、新たな5カ年計画の主要課題にこう盛り込んだ。

中国では公務員や国有企業の退職年齢は原則、男性が60歳、女性幹部が55歳、女性従業員が50歳だ。建国した1949年ごろに定めた規定が、都市部の平均寿命が80歳を超す現在も残る。

この間、中国は少子高齢化が急速に進んだ。一人っ子政策のツケで出生数が落ち込み、15~64歳の労働力人口は2013年をピークに減少に転じた。国連によると、全人口に占める比率は45年に米国を下回る。働き手の不足は米中の覇権争いに影を落とす。

22年からは中国版「団塊世代」の引退が始まる。多数の餓死者を出した「大躍進」後の1962年から出生数が急増したためで、60歳以上の比率は今後5年間で2割を上回る。社会保障の支出圧力は高まり、政府系シンクタンクの中国社会科学院は「会社員らが加入する公的年金は2035年に積立金が底をつく」との試算を示した。

中期的な経済運営方針である5カ年計画に定年延長などのテーマを盛り込んだのは今回が初めてではない。前々回(11~15年)の5カ年計画では、社会保障関連の詳細計画に「弾力的な年金受け取り年齢の引き上げを研究する」と記した。

16~20年の5カ年計画では「漸進的な退職年齢引き上げ政策を実施する」と明記した。研究段階から実施段階への格上げだ。ただ結果はほぼ手つかずだった。今回も具体的な議論はこれからだが、年に数カ月単位で引き上げる案などが浮上する。定年延長とセットで、年金支給開始年齢も徐々に引き上げる方針だ。

ただ市民の懸念は根強い。「年配の会社員が働き続ける分、若者の雇用機会が奪われるのではないか」。北京市内の大学院に通う趙紫葉さん(24)は不安を抱く。

新卒生らの就職難は新型コロナウイルス前から厳しい。出前アプリの美団の調査では、18年時点で出前配達員の約15%が大学卒業生だった。

大学や高等職業学校など高等教育機関への進学率は10年の27%から20年には54%に高まった。ホワイトカラー志向の高学歴人材が増えたが、求人が追いつかない。定年延長が就職の門をさらに狭めるとの焦りを生む。

中高年層の反発はより強い。「保険料の支払期間と金額だけ拡大し、年金の受取総額が減る」との疑念が消えない。政府は勤続年数に応じて年金を加算する仕組みも検討するが、理解は広がっていない。

現代中国の子育てスタイルも障壁となりかねない。「規定通り55歳で仕事を辞めて、孫の面倒を見るなどして余暇を過ごしたい」。湖南省のある市政府で働く袁さん(54)は語る。

中国都市部では高い住宅費や教育費を賄うため、夫婦共働きが一般的だ。立命館大学の研究チームが17年に上海市で調査したところ、88%の家庭が祖父母の力を借りて子育てしていた。「定年が延びたら、学校や塾の送り迎えなど孫の面倒を誰がみるのか」と懸念する中高年は少なくない。

経済成長のかたわら、中国では公立幼稚園や保育園の整備は遅れた。家政婦を雇う文化もあるが、「自助」を基調とする現代の家族観が、定年延長の議論と衝突する。

中国の一般市民は政治参加の意識は比較的希薄だが、自らの生活や経済利益に直結する問題には極めて敏感だ。とりわけ増大する高齢者の発言力は、習近平(シー・ジンピン)指導部も無視できない。「シルバー社会主義」のもとで定年延長などの議論を前に進めるのは容易ではない。

(北京=川手伊織)

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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
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分析・考察 今の退職年齢は1978年ごろに制定されたもので、高齢化が急ピッチで進む中国で時代遅れの産物であることは明らかである。しかし社会の反発は強く、定年延長の議論は長い間くすぶり続けてきたが、今に至るまで導入できていない。今年試案が公表されると言われているが、政権の支持基盤にどう影響するか、注目されるところだ。
2021年4月1日 7:54いいね
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菅野幹雄
日本経済新聞社 ワシントン支局長・本社コメンテーター
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ひとこと解説 「中国には中国式の民主主義がある」。中国外交を率いる楊潔篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員は最近、アラスカでの米中会談で米国の口出しは許さずとばかりにたんかを切りました。それだけに「シルバー社会主義」という言葉は新鮮です。

香港の自治を一気に奪うほどの強権国家ですから、法律で強引に定年を上げて押しつければいいかと思いきや、高齢者の反発が怖くて踏み切れないとは。対応が遅れるほど年金や医療の財政は傷み、それこそ現役世代の不満が高まります。安定成長を維持しようにも少子化の制約があります。「共産党の支持率は高い」と楊氏は豪語していました。民主主義ならぬ中国式のポピュリズムも、どこまで持つのか。

2021年4月1日 13:07いいね
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山本由里
日本経済新聞社 マネー・エディター
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今後の展望 2030年ごろまでに米国を抜き、世界一の経済大国になると予測される中国最大のアキレス腱が高齢化です。2050年には高齢者の数が5億人に達するという見通しもあります。5億人……。巨大経済が人類がいまだかつて経験したことのない規模・スピードで老いるインパクトは計り知れません。人口増抑制に関しては、生殖という超基本的権利にまで踏み込み号令一下、一人っ子政策を推し進めた社会主義も「シルバー社会主義」に転じた時、よもや〝うば捨て〟政策もとれない。親の面倒は子どもがみるという伝統的家族観が立ち塞がる興味深い構図です。この分野では「課題先進国」の日本の医療・介護・年金などの知見が力を発揮できるチャンスです

2021年4月1日 8:33いいね
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