WHO、「コロナは動物から」報告 武漢調査

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR300LX0Q1A330C2000000/

『【パリ=白石透冴、大連=渡辺伸】世界保健機関(WHO)は30日、最初に新型コロナウイルスの感染が広がった中国湖北省武漢市で1~2月に実施した発生源調査の結果を発表した。動物から人間への感染が最も可能性が高いとし、ウイルス研究所からの流出説はほぼ否定した。情報開示に消極的な中国の姿勢を背景に、十分な情報を得られていないとの指摘を盛り込み、調査権限の弱さも浮き彫りになった。

報告書はウイルスの発生源について可能性順に4つの推定を発表した。最もあり得るシナリオとして「動物から中間宿主を経由して感染」したとの見方を「考えられる、または非常に可能性が高い」との表現で示した。コウモリやセンザンコウから似たウイルスが見つかっていることや、中間宿主を介したウイルス感染は他にも事例があることから判断した。

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2番目に可能性が高いのが「動物から直接の感染」で、「可能性がある、または考えられる」とした。コウモリとの接触が多い人からコウモリのコロナウイルスに対する抗体が見つかっていることなどを理由とした。

次に中国側が熱心に主張していた「冷凍食品による外部からの持ち込み」について「可能性はある」と表現した。実際に輸入した冷凍製品の包装の外側から新型コロナウイルスが見つかった例があり、低温に耐える可能性がある。ただ、冷凍食品が発生源になったという証拠はなく、3番目のシナリオにとどめた。

最後に中国科学院武漢ウイルス研究所からウイルスが流出したとの説は「極めて可能性が低い」との見方を示した。新型コロナが確認された2019年12月以前に、類似のウイルスを扱っていた研究所がないことなどを理由として挙げた。

ただ、人間への感染がいつどこで起こり、どうやってウイルスが広まっていったかには切り込めなかった。武漢で多数の感染者が見つかる前のウイルスの振る舞いは未解明のままだ。報告書は、現地調査で得られた情報はこうした点についての結論を得るには不十分だったと論じた。中国側はコロナ感染拡大から約1年もWHOの本格的な現地調査を許さなかったほか、感染者の生のデータを提供するのを大部分で拒んだとの報道もある。

WHOは武漢市での調査を1月下旬~2月上旬に実施した。最初にコロナの集団感染が見つかった華南海鮮卸売市場や、武漢ウイルス研究所を訪れた。調査が終わってから現地で開いた記者会見では同じ4つの推定について、順位を付けずに公表していた。

中国の外務省はこれまで「中国で最初に感染が見つかったからといって、中国が発生源とは限らない」と主張してきた。初動の遅れによる世界的な感染流行の責任追及を避けたい政治的な意図がうかがえる。今回の調査報告書は輸入食品を起源とする説など、中国側の主張をなぞる説明も盛り込まれた。

バイデン米政権はWHO調査の独立性について疑問を示してきた。ブリンケン国務長官は米CNNの取材に「調査報告書は中国側が執筆を手助けした事実を含め、方法に懸念がある」と述べた。中国外務省の趙立堅・副報道局長は29日の記者会見で、ブリンケン氏の発言について「理由のない非難だ」と否定した。

趙氏は「国際調査団は調査期間中、研究所などを訪れ、医療従事者や研究者らと話した。WHO側の要求に沿って手配したもので、中国側の開放性は予期しないものだとの評価を受けた」と強調し、透明性をアピールするのに躍起だった。

WHOの調査は対象国の同意が前提で、強制的な権限を持たない。自国でコロナウイルスが発生したとの結論を嫌う中国側に対し、十分な協力を求められなかった面は否めない。パンデミック対応全般を含め、今後、WHO改革を求める声が高まる可能性もある。

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詫摩佳代
東京都立大学 法学部教授
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分析・考察 本調査は中国の同意がなければ実現しなかったでしょうし、同意に基づく限り、中国にコントロールされたものとなることは想定されていました。問題は、新型コロナが歴史に名を刻むパンデミックであるにも関わらず、発生国の恣意的な行動により、発生源が明かされないことです。発生源の解明は次のパンデミックを予防する上でも不可欠です。中国は真実が明かされることで評判が傷付くことを懸念しているようです。状況を打開できる方法があるとすれば、それは国際社会の圧力です。真実が明かされないことが人類社会の未来に与える影響、中国の評判に与える影響の大きさを各国は中国に説き、データの共有等に向けて然るべき圧力をかけるべきです。

2021年3月31日 9:37いいね
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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
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今後の展望 この報告書に対しては、アメリカや日本など14ヶ国が早速「共通の懸念(shared concerns)」を表明しています。他方、イギリスやフランスなど23ヶ国はWHOと共に、パンデミックなどの公共衛生の危機に直面した際の情報共有に関する国際協定の締結を呼びかけています。今回のコロナで多くの方々が亡くなられ、そして多くの方がまだ苦しんでいるなか、せめて今後に備え、情報共有に関する国際ルールの強化につながればと願います。

2021年3月31日 8:24 (2021年3月31日 8:27更新)
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上杉素直
日本経済新聞社 本社コメンテーター
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今後の展望 コロナウイルスが動物からもたらされた可能性はかねて指摘されていました。WHOの公表に盛り込まれたことで、遅ればせながら国際社会の共通認識になったといえます。今後問われるのは、調査結果からどんな教訓を導き出すかでしょう。地球温暖化を含む環境変化で生態系が崩れていないか、途上国の公衆衛生をどうやって向上させたらよいのか。パンデミックの経験を将来に生かしたいと思います。

2021年3月31日 7:45いいね
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