[FT]スエズ座礁で露呈した供給網の危うさ(上)パンデミックで逼迫する国際物流に追い打ち

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『エジプトの故ナセル大統領がいれば苦笑いしていたことだろう。同氏は1956年にスエズ運河の国有化を宣言、英国、フランス、イスラエルの侵攻を招いた。それから65年が過ぎてなお、この水路が国際貿易に多大な影響力を持ち続けていることが世界に知らしめられた。

ニューヨークのエンパイアステートビル並みの全長を持つ大型コンテナ船「エバーギブン」が23日に座礁してスエズ運河の南側の入り口をふさいだ。この事故の波紋…

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この事故の波紋は世界に広がった。(編集注、29日に離礁し、運河の通行が再開された)

原油価格が急伸し、待機するタンカーとコンテナ船が列を成し、石油からテレビまであらゆる海上貨物で、喜望峰を経由するルートへの切り替えが検討された。このルートに切り替えれば、航海日程は1週間程度長引き、コストも大幅に上昇する。

長さ193キロメートルのスエズ運河が完成したのは1869年。それから約1世紀半を経た今、存在感を増すアジアと経済力の高い欧州を結び、世界の海上貨物や原油の10%以上が通過する交通の要衝となっている。

海運情報サービス「ロイズリスト」によれば、エバーギブンの座礁事故で足止めされた貨物は、1日あたり96億ドル(約1兆円)相当。新型コロナウイルスが世界で猛威をふるい、(米中対立などで)国際貿易の意義に疑問が投げかけられるなかで、国境を越えて伸びるサプライチェーン(供給網)が内包する脆弱さが浮き彫りになった。 
エバーギブンの座礁で閉ざされたスエズ運河(3月25日に人工衛星から撮影)=ロイター

コロナ禍では、当初個人用防護具(PPE)の不足が露呈、続いて供給が限られたワクチンの争奪戦が発生し、国際貿易の問題点があぶり出された。こうした問題は、政府や企業に、レジリエンス(困難に耐える強さ)を犠牲にして効率を高めるとされる「ジャストインタイム」方式のサプライチェーンの見直しを迫る要因になりそうだ。

米ミシガン州デトロイトのコンサルティング会社ポラリックスパートナーでサプライチェーンを専門とするテッド・メイブリー氏は「産業界の供給網は、長さが数マイル(1マイルは約1.6キロ)とすれば、深さは8分の1インチ(約31ミリ)しかない」と表現する。
余剰のない生産能力

1年前に広がった供給懸念を考えれば、コロナ禍を通じて、国際貿易の仕組みは驚異的に持ちこたえてきた。世界貿易機関(WTO)のヌゴジ・オコンジョイウェアラ事務局長は「現状を客観的に見れば、供給網のレジリエンスは相当に高いことが分かる」との見方を示す。

米コロンビア大学で歴史を教えるアダム・トゥーズ教授は、供給網が耐えられたのは世界に160万人いる船員のおかげだと指摘する。その多くが「何カ月間も海上にとどまって」働き通しているという。
世界のサプライチェーンは何カ月も海の上で過ごす船員によって支えられている=ロイター

米アマゾン・ドット・コムや中国のアリババ集団といった電子商取引(EC)企業の先駆的な取り組みのおかげでもある。陸海運や物流管理を手掛ける企業のネットワークが発達し、配送モデルが磨き上げられてきた。パンデミックの状況でも、先進国のスーパーマーケットの棚には商品が並び、ガソリンスタンドは営業を続け、ネット通販で注文された商品は次々と戸口に配達された。

とはいえ、ほころびも随所に見られる。スエズ運河が遮られる前にも、国際貿易の円滑な流れを妨げる出来事が続いていた。エバーギブンが座礁する5日前には、日本のルネサスエレクトロニクスの那珂工場(茨城県ひたちなか市)で火災が発生、半導体の供給不足に追い打ちを掛けていた。

同工場の生産再開には少なくとも1カ月かかるとみられる。米テキサス州オースティンに工場を持つオランダ同業のNXPセミコンダクターズや独同業のインフィニオン・テクノロジーは、寒波による大規模停電で1カ月の操業停止を余儀なくされ、最近ようやく復旧した。

同じ寒波で、テキサス州の石油化学製品の生産は8割減となり、主要な合成樹脂であるポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニールの供給に支障が出ている。その結果、エアバッグなどの部品の供給が滞り、自動車メーカーに影響が及んでいる。

ルネサスの柴田英利社長は記者会見で「業界の生産能力に余剰がない」状況で火災が起きたという見方を示した。那珂工場は、2011年の東日本大震災で被災して操業を一時停止し、その影響は米国の自動車生産にまで及んだ。柴田氏は今回の火災でも半導体供給に「甚大な影響」が再び広がる恐れがあると警告する。
座礁したエバーギブン。世界の海上コンテナ輸送は供給が減り、運賃が上昇している=ロイター

スエズ事故の前から、コロナ禍で国際的なサプライチェーンの弱点が露呈し始めていた。海運会社が需要の減少を想定して輸送能力を減らしていたため、コンテナ運賃が3倍ほどに跳ね上がっている。東アジアから米西海岸向けの運賃は現在、40フィートコンテナ1個あたり約4000ドル。20年初めには1500ドル程度だった。

日産自動車のアシュワニ・グプタ最高執行責任者(COO)は「われわれの供給網は想定したシナリオに基づいている」と説明し、「コロナ禍のような未曽有の危機が起きて、難しい問題に直面するという極端なシナリオは想定外だった」と続けた。

さらに、グローバル化と国際的なサプライチェーンの構築に対しては、それに逆行する政治的な圧力も掛かっている。

英オックスフォード大学で国際経済ガバナンスを専門とするヌゲール・ウッズ教授は「グローバルなサプライチェーンは3つのプレッシャーにさらされている点を考慮すべきだ」と指摘する。なかでも大きいのがトランプ前米大統領が先導した雇用を自国に回帰させる動きだ。

2つ目は、医療関連製品をはじめ、必需品や軍事・民生技術の供給を他国に依存する戦略の問題がコロナ禍で表面化していることを挙げた。「重要なのは、国としての危機対応能力だ。『食料、PPE、ワクチンなどを自給自足する必要がある』という主張は、安全保障の問題を踏まえており、単なるナショナリスト的発言ではない」

3つ目に、機関投資家や消費者からも、企業に対してサプライチェーンの把握を求める声が上がっている。企業は、供給網上のはるか遠くにある企業が、温暖化ガスの排出や労働環境に十分配慮しているかに目を光らせることを迫られており、そのためのコストが発生している。

【(下、3月31日公開予定)に続く】

By David Pilling, Harry Dempsey and Peter Campbell in London and Kana Inagaki in Tokyo

(2021年3月27日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/

(c) The Financial Times Limited 2021. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.
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