野村に巨額損失懸念、盲点だった「個人」投資会社

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『米投資会社に関連した巨額取引が波紋を呼んでいる。米金融機関が水面下で大型の相対取引(ブロックトレード)を実施し、米メディア企業や中国企業の株価急落を招いた。問題の投資会社は米金融規制の対象外で、過剰にリスクをとっていた疑いが浮上している。市場の盲点を突いた今回の騒動についてまとめた。

異例の大口売却で臆測、株価下落に拍車
Q 26日に米メディア大手バイアコムCBSや米上場の中国企業株が突然、急落した。市場で何が起きていたのか…

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A 米ゴールドマン・サックスが26日に巨額の「ブロックトレード」を実施したことがきっかけだ。ブロックトレードとは大口投資家が金融機関を通じて特定銘柄を一度に大量に相対で売却、または購入する取引だ。株価への影響を抑えるために取引所外で行われる。米メディアによるとゴールドマンに加え、モルガン・スタンレーも大口取引をまとめたとされる。

ブロックトレード自体は珍しくない。通常、市場に報告されるのは銘柄名と金額のみで、売り手の投資家や金融機関の名前は公にならない。

ただし今回の取引はゴールドマンの手掛けたものだけでも総額100億ドル(約1兆1000億円)を超えるとされ、1日あたりの取引としては異例の規模となった。ゴールドマンが多くの買い手候補に声をかけたために、市場関係者が広く知ることとなった。売り手について様々な臆測が飛び交い、株価下落に拍車をかけた。

Q 「売り手」とされる米アルケゴス・キャピタル・マネジメントはどのような投資会社なのか。

A 元ヘッジファンドマネジャー、ビル・ホワン氏が個人資産を運用・管理するために設立した投資会社(ファミリーオフィス)だ。年金基金や保険など外部投資家の資金は預かっていないとされる。ホワン氏は著名投資家ジュリアン・ロバートソン氏創業のタイガー・マネジメント出身。アジア株専門のヘッジファンドを立ち上げたが、閉鎖後に自身の投資会社を設立した。

アルケゴスの詳細は分かっていない。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版、WSJ)によると、アルケゴスはホワン氏の個人資産100億ドルを運用していた。金融機関からの借り入れ(レバレッジ取引)によって実際の運用規模はその数倍に膨らんでいたようだ。

Q アルケゴスはなぜ保有株の「投げ売り」を迫られたのか。

A アルケゴスは運用成績の悪化で、金融機関から担保の追加差し入れ(追い証)とレバレッジの引き下げを求められたようだ。米ブルームバーグ通信によると、ホワン氏側が追加担保の要求に応じなかったことから、一部の金融機関が担保権を行使し、アルケゴス保有資産の処分に動いたという。1998年に巨額損失が発覚したロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)以来となる大型のファンド破綻劇になる可能性がある。

どのような取引で損失が膨らんだのかは不明だ。市場ではバイアコムCBSの増資発表が引き金だったとの見方がある。同社株は一時、年初来で2.5倍まで上昇したが、23日に増資を発表し、前日比9%安まで売られた。借り入れの活用(レバレッジ)で少数の銘柄に大きく賭ける戦略が裏目に出たとみられる。

Q 野村ホールディングスやクレディ・スイスはなぜ巨額損失を被りそうなのか。

A 野村やクレディはゴールドマンやモルガンと同様、ヘッジファンドやファミリーオフィスに金融サービスを提供する「プライムブローカー」業務を手がけている。投資資金の融資に加え、証券の保管・決済、借株の調達などが主な業務だ。投資銀行はヘッジファンド相手に大きな手数料収入が見込めるため、同サービスに力を入れており、顧客獲得競争も激しい。

野村やクレディはアルケゴスに対して与信サービスを提供していた可能性があるが、取引の詳細は明かしていない。十分な担保をとっていたのかなど、リスク管理体制が今後、問われることになる。ゴールドマンとモルガンは現時点で業績への影響などを公表していない。

規制緩いファミリーオフィス

Q リーマン・ショック以降の金融規制改革でファンドの高リスク取引に歯止めはかけられなかったのか。

A 金融規制改革法(ドッド・フランク法)で、一定規模以上の私募ファンド(ヘッジファンド)は米証券取引委員会(SEC)への登録が義務付けられた。取引記録の保存義務があり、当局への定期的な提出も求められる。一方、ファミリーオフィスはSECへの登録や報告は任意だ。SECの開示書類検索システムによると、アルケゴスは当局に登録した記録はあるが、直近で大量保有銘柄の公表はない。

WSJによると、アルケゴスは金融派生商品の一種、スワップ取引を活用し、一部の銘柄では保有比率が事実上、発行済み株式の10%を超えるケースがあったという。取引金融機関のバランスシート上に「保有銘柄」が載った状態で、損益のみをファンドと金融機関の間で交換する取引だ。10%を超える場合、内部関係者として届け出が必要だが、アルケゴスはスワップの活用で規制を免れていたようだ。

Q 今後、市場にどんな影響を及ぼしうるのか。

アルケゴスはフアン氏の個人資産のみを運用しており、現時点で被害は極めて限定的だ。現時点で野村とクレディ・スイス以外に巨額損失の発生見通しを公表した金融機関はない。

米経済テレビCNBCは29日、関係者の話として米モルガンが大口売りの一巡を顧客に伝えていると報じた。「アルケゴス関連銘柄」の株価は同日、下げ止まりの兆しをみせたが、反発力は弱い。市場は他のヘッジファンドがレバレッジの引き下げや持ち高の解消を迫られること警戒している可能性がある。
膨らむ借り入れ、市場にもろさも

Q ヘッジファンド規制論への波及は。

A アルケゴスは複数の金融機関から与信を受け、高リスク取引を積極化させていた。各行が適切に審査していても、取引全体のリスク量を把握できていなかった可能性がある。

機関投資家や個人の信用取引口座を通じた借入残高は2021年2月時点で8136億ドルとなり、過去最高だった。ヘッジファンドや個人が低金利環境下で借り入れを膨らませており、ショックには脆弱な市場構造といえる。

1月下旬の「ゲームストップ騒動」でヘッジファンドによる過剰な空売りが明らかになり、エリザベス・ウォーレン上院議員など民主党の一部の議員から規制論や監視強化を求める声があがって

いた。今回の株価急落劇を受け、ファンドの情報開示などを求める声が強まる可能性もある。