北京五輪ボイコットは起きるのか(The Economist)

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『2022年冬季五輪の開催地に中国の北京が選ばれた15年、中国の人権問題を理由に国際オリンピック委員会(IOC)の決定を批判する声が一部で上がった。中国は開催地決定のタイミングに合わせて、数週間前から全土で数百人の市民活動家を一斉検挙していた。

中国の人権状況や北京五輪開催についてインドで抗議する亡命チベット人たち=AP

だが当時、五輪誘致を巡って中国と争っていたのは同じく独裁国家のカザフスタンだった。ノルウェーなどの民主主義国家はすでに撤退していた。北京五輪の決定から2年も経たないうちに中国が新疆ウイグル自治区に強制収容所を建設し、宗教観や文化的価値観の違いを理由に少数民族ウイグル族を100万人以上収容するとは誰も想像すらしていなかった。

IOCの決定以降、西側諸国の対中姿勢は著しく硬化している。米国は21年1月、中国政府によるウイグル族の弾圧を国際法上の犯罪となる「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と認定した。3月22日には、ウイグル族への弾圧に関与した中国当局者に制裁を科すと表明し、英国、カナダ、欧州連合(EU)の制裁発表と足並みをそろえた。西側諸国が中国の人権問題を巡り異例の協調制裁に出た格好だ。

中国が香港に対する締め付けを強め、世界各地で自由主義的な規範を揺るがす姿勢を強めていることにも、西側はいら立ちを募らせている。22年2月4日に開幕する北京冬季大会は、五輪史上最も物議をかもす大会の一つとなりそうだ。

米国は1980年、ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議してモスクワ夏季五輪に選手を派遣しなかった(東側諸国はその報復として84年に米ロサンゼルスで開催された夏季五輪をボイコットした)。だが、北京五輪をボイコットしそうな国は今のところない。また、米国、カナダ、欧州では活動家や一部の政治家が開催地の変更を求めているが、実現の兆しはない。

「ジェノサイド(民族大量虐殺)五輪」との呼び声も
IOCは五輪大会は政治の場ではなくスポーツを競う場であるとして、開催決行を表明している。スポンサー企業も協賛決定を覆してはいない。しかし、開幕が近づくにつれ、様々な形のボイコットを求める声が強まりそうだ。

北京で夏季五輪を開催した08年には、スーダン西部のダルフール紛争で大量虐殺に関わっていたスーダン政府を中国が支援していたため、同大会を「ジェノサイド五輪」と呼んだ活動家もいた。現在、新疆ウイグルでの非人道的な行為に殺害は含まれていないものの、「ジェノサイド五輪」という呼び名はより根強く残りそうだ。

こうした動きとは距離を置く国の指導者や選手もいるだろう。バイデン米大統領はこの問題にどう対応するかをまだ表明していない。だが、中国によるウイグル族の弾圧に関する米国のこれまでの発言を考えると、同大統領や政権幹部が出席することはなさそうだ。共和党のミット・ロムニー上院議員は3月、米国は選手団を北京に送るべきだが、選手の家族以外は現地訪問を自粛してほしいと呼びかける記事を寄稿した。

いずれにせよ中国は、新型コロナウイルスの感染再拡大を警戒して厳しい入国管理の維持を決定する可能性がある。新型コロナのパンデミック(世界的な大流行)を受け、日本は3月20日、7月に開幕する東京五輪に海外からの観客を受け入れないと発表した。

北京五輪のスポンサー企業に対する圧力は今後強まりそうだ。ドイツに拠点を置く亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議」のズムルタイ・アルキン氏は他の活動家とともにスポンサー企業「1社1社」に接触し、必要な場合には「公に名指しして批判する」と述べた。

スポンサー企業に接触する人権活動団体

彼らが最初に接触したのは、民泊仲介大手の米エアビーアンドビーだ。同社は米コカ・コーラや韓国のサムスン電子、米ビザなどとともに北京五輪の最高位スポンサーであり、エアビーがIOCとスポンサー契約を結んだ19年11月にはウイグルで新設された強制収容所がすでによく知られるようになっていた。

3月23日、チベット、ウイグルをはじめ中国が関わる問題を巡って活動する190以上の団体がエアビーのブライアン・チェスキー最高経営責任者(CEO)に公開書簡を送り、北京五輪に関われば「社名を汚すリスク」を冒すことになるとしてスポンサー降板を求めた。エコノミスト誌は同社に取材を求めた。だが、この書簡に返答することも、北京五輪に関してコメントすることもなかった。

エアビーの広報担当者は同社が1月に出した声明に触れた。その中で同社経由で部屋を貸し出す中国のホストの中に、同社ポリシーに違反して少数民族の宿泊を断ったホストがいることを認めた。この声明によると、差別的とみられる宿泊物件は同社プラットフォーム上から除外される。

同様の書簡は米菓子大手マースリグレーのグラント・リードCEOにも送られており、近く公表される予定だ。同社は19年12月、チョコレート菓子「スニッカーズ」を北京五輪の「公式チョコレート」とすることで北京の五輪組織委員会と合意した。同社にコメントを求めたが、回答はなかった。また、コカ・コーラとビザの社会的責任を担当する幹部にも五輪のスポンサー契約に関して取材を申し入れたが、回答はなかった。

世界ウイグル会議のアルキン氏は3月18日、チベット問題の人権活動家らとともにIOC幹部とオンライン会議を開き懸念を表明した。IOCは15年に活動家に対して、開催地選定期間中に中国当局から人権に関して「約束」を取り付けており、五輪憲章は尊重されると確信していると説明した(五輪憲章には、「普遍的で根本的な倫理規範の尊重」や「人間の尊厳の保持」を推進するとある)。夏季五輪が開催された08年に中国はチベットで起きた騒乱を力ずくで弾圧したが、IOCは大会期間中に中国の人権侵害に関して発言する際には慎重姿勢を崩さなかった。

中国の対外的行動が五輪の行方に影響

IOC幹部は、大会をボイコットしても選手が犠牲になるだけで効果はないという。実際、ソ連はモスクワ五輪後8年間アフガニスタンから撤退しなかった。IOCはアパルトヘイト(人種隔離政策)時代の南アフリカに五輪参加を禁止したが、それは国連主導で広がっていた世界的な動きに歩調を合わせたものだとしている。もっとも、南アには中国のような政治的、経済的な力が欠けていた。IOCのバッハ会長は3月、IOCは「世界を統治するスーパー政府機関ではない」と発言している。

活動家らが恐れているのは、08年の北京夏季五輪の再現だ。中国は自国の力を象徴的に見せつける場として同大会を利用し、開会式では数千人の兵士を登場させた。なかには、チベット民族などの少数民族の伝統衣装を身につけた子どもたちが中国国旗を掲げる場面もあった。北京夏季五輪は、超大国への階段を上り始めた中国の国際舞台へのお披露目会だった。

しかし、強国として自信をつけた中国は新たな敵をつくった。中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長がカナダで拘束されたことを受けて、中国はカナダ人の元外交官マイケル・コブリグ氏と企業家のマイケル・スパバ氏を国内で拘束した。両氏が釈放されなければ、冬季五輪で数々の実績を残しているカナダはもとより他の国々でも、中国への反発が広がるだろう(2年以上収監されている2人のカナダ人は先ごろ、1日だけ開かれた公判に出廷した)。

中国がオーストラリアに経済的圧力をかけ続ければ、同国で北京五輪のボイコットを求める声が高まるだろう。ウイグルの人権問題を巡って対中制裁を科した欧州では、中国が3月22日に対抗措置としてEUの議会関係者や学者らに制裁を科したことに対して憤りの声が上がっている。北京五輪のボイコット運動が勢いを増すとすれば、それは国内での人権侵害と同様に、対外的な行動が招いた結果でもある。

(c)2021 The Economist Newspaper Limited. March 27, 2021 All rights reserved.

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