米中対立、市場も巻き込む「国家観の衝突」

米中対立、市場も巻き込む「国家観の衝突」
中国総局長 高橋哲史
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM243UH0U1A320C2000000/

『計算し尽くされた「宣伝工作」

危機を迎えるたびに強くなる。中国共産党の一党支配は、いまや難攻不落の砦(とりで)のようだ。新型コロナウイルスの封じ込めで自信を深める習近平(シー・ジンピン)指導部は、余勢を駆って民主主義の陣地に攻め込む。激しさを増す「国家観の衝突」に、市場もいや応なく巻き込まれる。

計算し尽くしたプロパガンダ(宣伝工作)とみていいだろう。

「その手は食わない」。米中の外交トップによる…

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米中の外交トップによる2日間の協議が米アラスカ州のアンカレジで終了した20日(北京時間)、中国の大手通販サイトに少し風変わりなロゴの入ったTシャツが売りに出された。中国外交を統括する楊潔篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員が、ブリンケン米国務長官に言い放ったせりふだ。

ブリンケン氏は協議の冒頭で新疆ウイグルや香港、台湾の問題で中国側に「深い懸念」を示した。「米国は中国にもの申す資格はない」。楊氏はこう突っぱねたうえで、先の言葉を口にした。中国人が口げんかで相手を威嚇するときの決まり文句だ。

米国に盾突いた楊氏に、中国の老百姓(庶民)は拍手喝采を送る。1840年に始まったアヘン戦争以来、列強に国土をむしばまれてきた中国が、180年の時を経てついに米国をやり込めるところまで来た。7月に共産党の創立100年を迎える今年、習指導部はそんな歴史的な転換点を演出しようとしている。

宣伝工作がつくり出した幻影だ、とばかりも言っていられない。湖北省の武漢を起点に始まったコロナ危機を、中国は一党支配の利点を生かしてたちまち克服した。2020年に主要国で唯一プラス成長を実現し、世界経済をけん引するところまで立ち直りつつある。

民主主義を「中国式」に変える実験

民主主義に対する一党支配の優位を確信したのだろう。習指導部は20年6月、香港国家安全維持法の制定に踏み切った。今月11日に閉幕した全国人民代表大会(全人代)では香港の選挙制度を見直すと決め、いよいよ民主派の完全排除に乗り出す。

民主主義の根幹である選挙を骨抜きにする試みだ。「中国には中国式の民主主義がある」。楊氏は米中協議でブリンケン氏にこうすごんだ。まさに西側の民主主義を「中国式」に変える実験が、「一国二制度」を約束してきたはずの香港で進む。

コロナ危機の泥沼から抜けられない西側は、中国の攻勢に有効な手を打てずにいる。欧州連合(EU)は22日、中国の少数民族ウイグル族が不当な人権侵害を受けているとして、中国の当局者らを対象とする制裁を決めた。欧州が対中制裁を発動するのは1989年の天安門事件以来、ほぼ30年ぶりだ。

しかし、それで中国の行動を変えられるとは思えない。EUは2020年末、米国の反対を押し切って中国と包括的な投資協定で大筋合意した。14億の人口を抱える巨大市場をめざす欧州企業に、背中を押された結果だ。

国境を越えてグローバルに活動する企業にとって、もはや中国抜きの戦略は考えられない。習指導部はそれを見越して、スウェーデンの衣料品大手ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)などにウイグル問題で圧力をかける。

民主主義陣営が結束するしか中国に対抗するすべはない。企業も「政経分離」を掲げ、中国の強権的なふるまいを見て見ぬふりするのが許される時代は終わった。

脅威にさらされているのは、民主主義という自由な社会の基盤だからだ。気づいたときには市場まで「中国式」に変わっていた、ではもう遅い。