東アジアで崩れる米優位 台湾有事警戒、対中新局面 安保法施行5年(上)

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『安全保障関連法の施行から29日で5年を迎えた。集団的自衛権の限定行使を可能にし日米同盟を深めた。一方で中国の軍事力拡大や北朝鮮の核ミサイル開発は想定を超える速度で進む。抑止力拡大へ新しい局面に入った。

「中国の国防費は台湾の16倍まで増えた」。16日、東京・市ケ谷の防衛省で米国のオースティン国防長官と向き合った岸信夫防衛相は中台の軍事バランスの変化に触れた。台湾有事になれば地理的に近い日本への影響…

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台湾有事になれば地理的に近い日本への影響は大きい――。岸氏とオースティン氏は認識をすり合わせた。

続いて開いた日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)の成果文書に「台湾海峡の平和と安定の重要性」との文言が入った。「台湾」と記したのは2005年以来だった。

新型コロナウイルスや香港への統制強化を機に米欧は中国への風圧を強める。

欧州は地理的に遠い台湾の問題よりも新疆ウイグル自治区の人権問題への関心が高い。中国と覇権を争う米国はインド太平洋地域の要衝で、民主主義を掲げる台湾を重視する。

米国は中国が台湾統一に動く可能性に目をこらす。

インド太平洋軍司令官に指名されたアキリーノ氏は23日に上院の公聴会で「大半の人が考えるよりもはるかに近いと思う」と発言した。同軍のデービッドソン司令官は3月上旬、6年以内に中国が台湾に侵攻するおそれに触れた。

「戦闘初期の圧倒的な不利。台湾軍、自衛隊、在日米軍では数が足りない」。自民党外交部会のプロジェクトチームが3月上旬に開いた会合。元政府高官が「台湾有事のリアル」と題した資料を示し、出席議員と意見を交わした。

中国が行動に移す場合、どんなシナリオがあるか。笹川平和財団の小原凡司上席研究員は台湾が実効支配する南シナ海の太平島への上陸の可能性に言及する。

同島は台湾本島から1600㌔ほど南に離れた南シナ海上にある。本島から台湾軍が駆けつけるには時間がかかる。本島侵攻に比べれば米国の反応が鈍くなる可能性もある。

小原氏は「軍事力で心理的圧力をかけて台湾を統一するオペレーションとしてあり得る」と解説する。

台湾有事が現実になり米軍が動けば日本が協力を求められる公算が大きい。安保法に基づいた対処が必要になる。

放置すれば日本の安全を脅かす「重要影響事態」への認定がありうる。日本は米軍の後方支援にあたる。海上自衛隊の補給艦や航空自衛隊の空中給油機を派遣し、米艦艇や戦闘機に給油して対処する。

米軍や台湾軍を含めた本格的な武力衝突に発展すれば、日本の存立が脅かされる明白な危険がある「存立危機事態」とみなすこともある。海自の護衛艦による米国のイージス艦の防護などが想定される。

台湾は日米にとって微妙な立ち位置に存在し、容易に判断できるはずはない。中国は中国大陸と台湾は一つの国に属するという「一つの中国」を主張し、台湾を「核心的利益」と主張する。

米国は中国を唯一の合法的な政府と認め台湾と国交はないものの、台湾関係法により武器供与や防衛面で支援を続ける。日本は台湾と国交がなく軍事的な協力関係ももたない。

台湾有事が現実味を持って語られるのは東アジアでの米国の軍事的な優位が崩れつつあるからだ。

「前方態勢を変えなければ中国が米国をはるかに上回る(戦力の)規模を有することになる」。日本にも波紋を広げたデービッドソン氏の発言は米国の焦りを映す。

アジア周辺に展開する中国軍の戦闘機は1250機と米国の5倍だ。25年にはさらに8倍に広がると米インド太平洋軍は予測する。戦闘艦艇は現状5倍の差が9倍になる。

米国は軍事費を大幅に増やす余力に乏しい。期待するのは同盟国の協力だ。

バイデン政権は対中国でとりわけ日本を重視する。4月上旬にも訪米する菅義偉首相はバイデン大統領が就任して対面で会談する最初の外国首脳となる。

「見返りを求められる」との警戒は政府内にある。日米の課題の一つは中国をにらんだ米軍の地上発射ミサイルのアジア配備だ。インド太平洋軍は3月上旬、米議会に沖縄からフィリピンを結ぶ第一列島線に沿ってミサイル網を築く予算を要望する文書を提出した。

配備を求められれば場所や性能について日米で協議になる。中国を刺激するため配備候補地の自治体や住民を納得させるのは簡単ではない。

日本の防衛力整備も欠かせない。国産の地対艦誘導弾の射程を伸ばす開発を進め中国を抑止する。

「盾と矛」に例えられる日米の役割分担も論点だ。攻撃を受ける前に敵のミサイル発射拠点をたたく「敵基地攻撃能力」を巡る議論は安倍晋三前政権が20年中に結論を出す方針を示していた。

昨秋に政権を継いだ菅義偉首相はこれを先送りした。与党で公明党の慎重論が強いものの米側から能力保有への期待がある。

「日米同盟をさらに強化するために能力を向上させることを決意した」。2プラス2の成果文書冒頭の記述だ。決意だけでなく行動が求められる段階に来ている。