インド・モディ改革「本丸」へ 新労働法や国営企業削減

インド・モディ改革「本丸」へ 新労働法や国営企業削減
編集委員 小柳建彦
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『インドのモディ政権がついに経済構造改革の「本丸」に挑み始めた。新労働法を4月にも施行し、企業が事業拡大に動きやすくする。税金や人材を無駄遣いしてきた国営企業の整理にも着手した。市場経済への転換を進めるが、農政改革で噴出したように既得権益層の反発は強く、改革の成功が約束されているわけではない。

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「これで就労人口の11%程度にすぎない製造業…

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「これで就労人口の11%程度にすぎない製造業の就労者を10年以内に18~19%に増やせる。インド経済の先行きが明るくなった」。人材紹介・派遣大手チームリースの創業者会長、マニシュ・サバルワル氏は労働法制改革の効果に大きな期待を寄せる。同氏は業種や規模によって複雑に規制がかかるインド労働法制と長年格闘してきた。

昨年9月に国会で成立した新たな労働法制では、重複や矛盾だらけのまま40本以上が積み上がっていた労働関係の連邦法のうち29本を撤廃、3つの新法に集約した。施行細則を定めたうえで4月中にも施行する。チームリースの概算では29の法律で合計約1800項目あった条文が一気に400程度まで減るという。

これまでの労働法制では社員数が10人、20人、50人と増えるごとに規制項目が増えるため、企業が意図的に成長を避ける傾向があった。「規制項目が減れば担当の検査官が減り、賄賂目当ての嫌がらせも減る。経営者は怖がらずに事業を拡大できるようになる」とサバルワル氏はみる。

一部の業種・職種に限定してきた「有期雇用」も全面解禁。いったん増員すると、その後に雇用調整ができないという経営上のリスクを減らせるようにした。さらに、これまで非管理職社員が100人以上の事業所での人員削減には政府の許可を義務付けていたが、対象を300人以上の企業としたうえで各州政府が通達で自由に緩和できるようにした。投資誘致競争の結果、州によって大幅な規制緩和がありうる。労働組合の乱立を防ぐルールも新設した。

インドの1人当たり国内総生産(GDP)は2019年度(19年4月~20年3月)で2000㌦強(約22万円)にとどまり、19年(暦年)に1万㌦を超えた中国に大差を付けられた。近代的な第2次、第3次産業の発展の遅れが最大の理由だ。GDPの18%しか産出していない農業関連に就労人口の4割強が従事する産業構造をなかなか変えられない。

インド東北部の農地で作業する男女(1月)=AP

生産年齢人口は毎年1千万人近く増えている。マッキンゼーが昨年8月に発表したインド経済分析リポートは「製造業を軸に中堅以上の規模の企業を増やし、非農業の雇用を30年までの10年間で9000万人分創出しないと、長期停滞に陥る」と警鐘を鳴らした。

過剰な労働者保護は1991年の経済自由化まで続いた社会主義経済体制のなごりだ。モディ政権は2月、もう一つの社会主義の遺物である国営企業についても、民営化や清算によって「最小限まで減らす」(シタラマン財務相)と宣言した。報道によると、防衛や公益事業などの30社未満まで減らす中期目標が内閣の共通認識になっているという。

現在はオート3輪製造からコンドーム製造まで多様な業種で国営企業が活動し、多くが赤字を垂れ流している。12の国営銀行、7つの国営保険を含め、国営企業の数は367。政府はまず収益事業として買い手がつきそうな12の国営企業の民営化を進める方針を明言した。その中にはエア・インディアや2つの国営銀行、1つの保険会社が含まれる。

もちろん構造改革には痛みを被る既得権益層が存在する。

昨年秋から首都ニューデリー周辺の道路を占拠して農業改革法撤廃を要求する農民の抗議運動はその象徴だ。昨年9月に労働法と相前後してモディ政権が国会を通した農業改革法は、州政府が直接・間接に独占してきた農産品の卸売市場を原則自由化する内容。これに対し、現行の公設市場制度と補助金で大きな恩恵を受けてきたコメや麦などを作る農家が猛然と反発した。

農業改革法に抗議して、ニューデリー近くの道路を占拠する農民ら(3月6日)=AP
この3月には民営化に反対して国営銀行の9つの労働組合がストを決行。100万人の行員が参加し、多くの国営企業が支店を閉じた。

モディ政権はソーシャルメディア上で農業改革反対派を支持する書き込みをした活動家や野党議員、ジャーナリストなどに対し「扇動罪」での逮捕や告発に踏み切るなど、強権的な姿勢をみせている。一方で農政改革の施行は1年半凍結すると宣言し、路上運動を主導する農民団体に対話を呼びかけている。

70~90年代にデモやストライキを経ながら民営化や農業改革を進めた日本や英国の目には、モディ政権の立法のプロセスや反対意見への対処の仕方は強引に映る。今の段階で分断を深めてしまうと、これ以上の改革が頓挫しかねない。

国民大多数の生活水準の引き上げに欠かせない持続的な2ケタ成長の実現には「土地制度や貿易自由化など、さらなる構造改革が必要」と、コロンビア大のアーヴィンド・パナガリヤ教授は指摘する。

このような前提に立てば、モディ改革には2024年の総選挙を経た3期目も必要になる公算が大きい。大義を全うするには、いたずらに強権政治に走らず、丁寧に合意形成の努力をしながら構造改革を継続していくしか道はない。

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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察 モディ首相は農業改革を進め、農民の強い反対を受けながらも突き進んだことで、労働力を農村から都市部に移動させ、今度は労働法制を改革することで労働力の流動性を高める政策を実施。これまで規制でがんじがらめにして既得権益を保護してきたインドの「途上国経済」が近代資本主義の仕組みに動き出している。それが結果として今以上の貧富の格差や不安定さをもたらす可能性もあるが、同時に製造業が弱く、生産性が低かったインドの産業を一変させる可能性もある。
2021年3月29日 13:07いいね
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