アジア向く「グローバル・ブリテン」 ライオネル・バーバー氏

アジア向く「グローバル・ブリテン」 ライオネル・バーバー氏
英フィナンシャル・タイムズ前編集長
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH243WF0U1A320C2000000/

『米国のオバマ元大統領が、アジアに外交の軸足を移す「リバランシング(再均衡)」を打ち出したのは、10年ほど前だった。英国のジョンソン首相は16日、同国が進むべき道として、インド太平洋地域への関与を強める考えを示した。

英国の新たなアジア重視外交は、欧州連合(EU)からの離脱で近隣諸国との関係をこじらせたことへの対応という側面があるだろう。世界の覇権を握っていた時代を思い起こさせる要素も盛り込み、最新…

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世界の覇権を握っていた時代を思い起こさせる要素も盛り込み、最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を含む空母打撃群を、南シナ海などに派遣する見通しだ。

英フィナンシャル・タイムズ前編集長のバーバー氏

体面維持の意味合いはさておき、ジョンソン政権が発表した防衛・安全保障の方針「統合レビュー」は、英国の国際的な位置付けに重要な変化があったことを浮き彫りにした。超大国の米国とその座を狙う中国、反民主主義的な破壊工作を仕掛けるロシアがせめぎ合う、世界での位置付けについてだ。世界各地での代理戦争を特徴とした米ソ冷戦とは一線を画し、現在は民主主義国と強権国が勢力争いを繰り広げている。

英秘密情報部(MI6)前長官のアレックス・ヤンガー氏によると、いまの時代は、戦場の代わりにサイバー空間や宇宙といった領域で敵同士が互いの能力を試し続けているという。ヤンガー氏は英紙タイムズへの寄稿で「対決に負ければ、自国の将来をコントロールする力が低下する。中国はよくわかっている」などと言及した。

加えて、第2次大戦後に米国が主導する多国間の枠組みが支えてきた「法に基づく国際秩序」の概念は、かなり危うくなっている。トランプ前米大統領の一方的なのに駆け引きも好む外交方針は、深刻なダメージを与えた。さらに厄介な問題として、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は、国際システムの構築に当たって自国の利益をないがしろにされてきたという見解を抱いているようだ。

外交上の遠慮というものがなくなったことは、18~19日に米アラスカ州アンカレジで開かれた米中高官協議であらためてわかった。バイデン政権は中国の新疆ウイグル自治区や香港、台湾などへの行動に懸念を示した。中国の外交担当トップである楊潔篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員は、政治的な分断や人種差別が問題化する米国の現状を指摘した。

長引きそうな米中の覇権争いを眼前に、英国は中国との経済的な結びつきの重要性を認識しつつも、米国を最も親密な同盟国にとどめておく道筋を探らなければならない。ジョンソン氏のアドバイザーらは、北大西洋条約機構(NATO)を中心とした現行の同盟体制は欠かせないが、不十分だとみているようだ。

今回の統合レビューは特に、保有する核弾頭数の上限目標を現行の180発から260発に引き上げるという表明が注目された。「リスクが増強し多様化している」ことを踏まえたという説明は、敵対国への警告のように響く。

アジアは、今後の経済成長の源として多方面から強い関心を集めている。英国は2月、環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を正式申請するなど、より良き世界の推進役として自らを売り込む意向だ。数十万人の香港市民の移住を可能にする特別ビザの発行などで示してきたように、英国が民主主義の価値観を守っていくことを意味する。

ジョンソン政権は中国による少数民族ウイグル族の不当な扱いを批判し、(地政学的には)中国を太平洋での勢力拡大を狙う対抗勢力と位置付ける。一方、経済では連携を続ける意向も示す。

統合レビューで設定された目標の多くが、EUにとどまりながら達成できる内容だと指摘する声もある。だが少なくとも当面、英政府関係者の間で「欧州」は禁句のようだ。英国は将来、近隣諸国と足並みをそろえる意義を学び直すに違いない。

英国が新たに「グローバル・ブリテン」として柔軟性を発揮し、自信に満ち、国際的な視野を持つ。ソフトパワー大国の地位を得て、より良き世界の推進役となる。聞く限りでは魅力的だ。実際は、不可能ではない代わりに、成功の保証もない。