大動脈スエズ運河遮断、供給網リスク一段と 大型船座礁

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『【カイロ=久門武史】世界最大級のコンテナ船が23日、海運の大動脈スエズ運河を塞いだ。AP通信は復旧作業に2日以上かかるとの見方を伝えるが、全面的な正常化のメドは立っていない。現場はアジアと欧州を結び、年2万隻近くが通航する海上交通の要。復旧に手間取れば、世界で逼迫するサプライチェーン(供給網)に新たな負荷となり、回復途上にある世界経済のかく乱要因となる恐れがある。

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23日朝に座礁したのは台湾のエバーグリーン・マリンが運航する全長400メートルのコンテナ船「エバー・ギブン」(22万4千トン)。エジプトのスエズ運河庁は砂嵐による視界不良が座礁の原因との見方を示した。24日もタグボート8隻で座礁船を移動させる作業を続けた。地元メディアによると24日夜の段階で問題解決には至っておらず、いったん作業を中断し25日朝に再開するという。

石油輸送の9%占める要衝、迂回なら1週間

同庁によると、スエズ運河の通航量は2020年に1万9千隻弱、1日当たり50隻以上にのぼる。特に原油・天然ガスの輸送では戦略的な輸送路だ。ペルシャ湾岸の産油国から欧州の消費国まで北上するタンカーだけでなく、逆に南下してロシア産のエネルギー資源をアジアに運ぶ船も多い。米エネルギー情報局によると、スエズ運河と併設のスメドパイプラインは世界の石油輸送の9%、液化天然ガス(LNG)の8%を担う。

船舶を追跡するサイトによると、スエズ運河の両端で待つ船が滞留する様子が明らかだ。仮に数日の遅れでも正常化には時間がかかるとみられる。復旧が遅れれば、運河の手前で待ち続けるか、南アフリカの喜望峰を大回りするルートを使うかの判断を迫られる。喜望峰回りはコンテナ船の場合、約1週間航海期間が延びるとされる。

スエズ運河をふさぐコンテナ船の衛星写真(23日)=AP
リスク懸念、原油5%高

原油市場は敏感に反応した。国際指標の北海ブレント原油先物は24日、一時前日比3%上昇した。供給が滞ることへの不安が強まった。ニューヨーク原油先物市場の期近5月物は1バレル60ドル台半ばと前日より5%上昇した。デンマークのコンテナ船世界最大手、APモラー・マースクの株価は24日、22日の終値と比べ9%強下落した。一方でカナダドルやオーストラリアドルなど資源国通貨が買われた。

エネルギーや物流といった関連産業や各国の政府機関は、情報収集とダメージの予測に追われている。ロイター通信によると石油市場分析のボルテクサは、座礁で合計1300万バレルの原油を積んだタンカー10隻が影響を受けるとの見方を示した。米国の1日の原油生産量(約1100万バレル)を上回る規模だ。石油の輸送を追跡する調査会社タンカー・トラッカーズ・ドット・コムは「サウジアラビア、ロシア、オマーン、米国の石油を積んだタンカーが(運河の)両端で待機している」とツイッターで指摘した。

エジプト・スエズ運河で座礁したコンテナ船=24日(スエズ運河庁提供・AP)

年明け以降、荷動きが世界的に回復し、海運の価格は大きく上昇していた。総合的な海上輸送の運賃を示すバルチック海運指数は22日に2319と2月末から38%上昇し、19年9月以来の高値を付けていた。昨年から中国発の海上輸送の運賃がコンテナ不足で高騰。米西海岸の港で荷揚げ作業が滞ったことも拍車をかけた。座礁の影響はまだ織り込まれていないが、物流が一段と逼迫し、目先の海運市況が不安定になるおそれがある。

折しも世界のサプライチェーンは半導体不足や米テキサス州の寒波など複合的な要因で不安定さを増している。トヨタ自動車は22日からチェコ工場の操業を14日間止めるほか、米フォード・モーターは米欧の工場休止が営業利益を最大25億ドル(約2700億円)押し下げる可能性があると表明した。スエズ運河の遮断が長引けば、新型コロナウイルス禍からの回復を探る世界経済にとって新たな懸念材料になる可能性がある。

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小山堅
日本エネルギー経済研究所 専務理事 首席研究員
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ひとこと解説 今回の事故は、世界経済が重要物資の円滑な国際輸送に如何に大きく依存しているか、万一の途絶や支障が如何に経済安全保障上の大きな問題になりうるか、を改めて示唆するものとなった。スエズ運河は最も重要な国際航路の一つであり、いわゆるチョークポイントである。しかし、これ以外にも、ホルムズ海峡、マラッカ海峡、パナマ運河等は、国際貿易・エネルギー貿易上の重要なチョークポイントである。チョークポイントも含めたシーレーンの安定確保は今後とも世界経済の安定を左右する要因となる。シーレーン安定確保は国際ガバナンスの重要課題の一つで、従来、米国がそれを守護してが、今後の米国の役割やその変化にも注目すべきである。

2021年3月25日 11:29いいね
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松尾博文
日本経済新聞社 編集委員・論説委員
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分析・考察 エジプトの春は「カムシーン」と呼ばれる砂嵐に包まれます。座礁事故はこれが誘因とみられますが、欧米とアジアを結ぶ国際航路をめぐる大競争の下で起きたことに注目する必要があります。アジアの貿易需要増大とコンテナ船やLNG船の大型化に対応するため、パナマ運河は拡張工事を終え、スエズ運河も一部区間で双方向で航行できるように複線化して運河の通過時間短縮をはかっていました。北極海ルートも開拓されつつあります。しかし、1月のLNG高騰と電力危機の原因のひとつは、パナマ運河のLNG船通過に制限があることでした。サプライチェーンを脅かすリスクとして国際航路のチョークポイントを改めて認識する必要があります。

2021年3月25日 10:03いいね
34

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