国務長官慰安婦発言に見るバイデン政権の日米韓連携

国務長官慰安婦発言に見るバイデン政権の日米韓連携
澤田克己 (毎日新聞記者、元ソウル支局長)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/22537

 ※ ウイグル問題で、「性暴力」をも言い立てて、圧迫しよう…、と考えているわけだ…。

 ※ そういう文脈から、「免責される」ということは、まず無い…、と考えておいた方がいい…。

『米国のブリンケン国務長官とオースティン国防長官が日本と韓国を訪問し、それぞれとの外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)に臨んだ。中国の人権問題や北朝鮮の核開発問題への対応で日韓の温度差が目立つ結果となったが、米国は一貫して日米韓連携の重要性を強調した。ブリンケン氏が韓国メディアとのインタビューで慰安婦問題について語った言葉からは、日韓対立の中で微妙なバランスを取ろうとする姿勢がうかがえた。

「甚だしい人権侵害」と断じつつ…
 ブリンケン氏は日韓でそれぞれテレビ局2社ずつのインタビューに応じた。日本はテレビ朝日と日本テレビ、韓国は公営放送KBSと民放SBSである。

 韓国の2局は慰安婦問題に関する質問をぶつけた。ブリンケン氏は、日韓慰安婦合意のあった2015年にオバマ政権の国務副長官だった。日韓対立に業を煮やしたオバマ政権が合意を後押ししたのは周知の事実なので、現状をどう見ているか聞くのは自然なことだろう。

 ブリンケン氏はKBSのインタビューで、慰安婦問題について「第2次大戦中の日本軍によるものを含め、女性に対する性的搾取は甚だしい人権侵害だ」と語った。

 韓国側の立場に配慮し、日本には厳しい態度だ。他のイシューで韓国が押し込まれたという印象があるからでもあろう。文在寅政権に好意的な韓国メディアでは、この発言が一定の注目を集めた。

 ただ、私が確認した当日夜のKBSニュースではここまでしか放送されなかったのだが、ブリンケン氏の話には続きがある。国務省が公表した発言録によると、ブリンケン氏は「私たちは、過去に関する難しい諸問題があることを知っている。私たちは、それに取り組むよう(日本と韓国の)友人たちを後押しし、(日韓の取り組みを)期待している。この問題については、過去に重要な進展が確かにあった。私は、これからもそうなることを願っている」と続けた。「重要な進展」は、オバマ政権が高く評価した慰安婦合意のことだろう。

 ブリンケン氏はさらに自らの経験として、日米韓が協力すれば北朝鮮問題だけでなく、パンデミックや気候変動を含む多くの問題で有益な変化をもたらすことができると指摘した。

 SBSとのインタビューでは、日韓が「和解の精神」を持って解決に当たる必要性を指摘した。日本テレビでは、米国が日韓関係の仲裁に乗り出すかと聞かれた。これには直接答えずに、歴史問題があったとしても緊密な協力をすることが日韓両国の国益につながると強調した。テレビ朝日は日韓関係について聞かなかった。

 発言を通して整理すると、▽慰安婦制度は甚だしい人権侵害だ、▽日韓が「和解の精神」を持って歴史問題に取り組むことを期待している、▽「重要な進展」を再現させてほしい、▽日米韓が協力すれば多くのメリットを得られるーーということになる。政治的な解決策だったはずの慰安婦合意の現状への失望感を示唆し、日韓に新たな取り組みを期待するというところだろう。慰安婦問題が深刻な人権侵害だったという認識を表明することで、一定のバランスを取った形だ。

 韓国では最近、慰安婦が業者と高額の契約を結んでいたと主張する米ハーバード大教授の論文に批判が集まっている。KBSはこの論文についての見解も聞いたが、「その論文は知らない」と軽くあしらわれた。日韓歴訪前に韓国メディアが大々的に批判報道を展開していた問題であり、事前準備で騒ぎの概要くらいは聞いていてもおかしくないので、日韓どちらかに肩入れする姿勢になるのを嫌った可能性がありそうだ。

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日本側が注意すべき点は、バイデン政権が同盟と人権の両方を重視しているということだ。政治的解決策として慰安婦合意を評価する一方で、慰安婦問題そのものに対する米国の認識は極めて厳しい。ブリンケン氏が語った「甚だしい人権侵害」という認識は、オバマ大統領(当時)が2014年に訪韓した際の記者会見での発言を踏襲したものだ。オバマ氏はこの時、「戦争中のことであったとしても極めて衝撃的で、甚だしい人権侵害だ」と指摘し、「過去を正直かつ公正に認識しなければならない。安倍晋三首相や日本国民もそのことを分かっているはずだ」と述べている。オバマ政権下では2012年に、国務長官だったヒラリー・クリントン氏が慰安婦問題についての省内ブリーフィングで高官に「性奴隷」という言葉を使うよう求めたと報じられもした。

 私が当時取材した米外交問題評議会(CFR)のジェイムス・リンゼイ上級副会長は、米国で慰安婦問題への批判が強い背景にあるのは「女性への性暴力が大きな政治的関心を呼ぶようになった世界的な流れだ」と話した。冷戦終結後に発生した1990年代の旧ユーゴスラビア内戦で「民族浄化」として集団レイプが起きたことなどで、紛争下の性的被害に対する国際世論の関心が高まった。それが慰安婦問題への欧米の認識に大きな影響を与えている。制度そのものが許されないという認識だから、「強制連行はなかった」などという主張は反発を呼ぶだけだ。日本側の立場を説明するにしても、相手に耳を傾けさせる説得力のある論理でなければならないのは当然だろう。

クアッドと同様に重要な日米韓

 日韓歴訪で強調された日米韓連携についても考えておきたい。最近は対北朝鮮政策に限定して語られているが、もともとは冷戦体制下での東アジアの安全保障を考えた枠組みだ。1965年の日韓国交正常化が実現したのも、こうした側面が大きい。

 米国は当時、ベトナム戦争への泥沼の介入を始めていた。ブッシュ(子)政権で国家安全保障会議(NSC)アジア部長を務めたビクター・チャ氏は日米韓関係を「疑似同盟」と評した著作で、日韓国交正常化の背景を次のように説明する。「最も重要なのは、米国がベトナムへの介入の度を深めていたために、東アジアに反共の前線を築くためには両同盟国の間を早急に和解させることが最優先とされたことである。つまり、両国間に歴史的反目があろうと、両国あるいはリーダーシップが否定的、肯定的な姿勢をとろうと、この時期に条約は妥結していたのである」(ヴィクター・D・チャ『米日韓 反目を超えた提携』)。

 日本にとっては、北朝鮮とその背後のソ連に対する緩衝地帯として韓国の存在はありがたかった。1969年の日米首脳会談で発表された共同声明には、「(佐藤栄作首相は)韓国の安全は日本自身の安全にとって緊要であると述べた」と盛り込まれた。「韓国条項」と呼ばれた一文で、70年代には日米首脳会談での発表文にたびたび盛り込まれたものだ。

 1961年のクーデターで朴正煕が政権を握ったばかりの韓国にとっては、経済的なメリットが大きかった。チャ氏は、外相(外務部長官)として交渉を妥結させた李東元からの聞き取りに基づいて「朴正煕は、李東元を外務部長官に指名するにあたって、日本との国交正常化を最優先課題とし、この政策の目的は日本から過去への陳謝を引き出すことではなく、国家経済を成長させることだと指示していた」と記している(前掲書)。国交正常化によって日本から5億ドルの資金供与を得た朴正煕は、民主化より経済発展を優先させる開発独裁によって「漢江の奇跡」と呼ばれる高度経済成長を実現させた。

 ただ冷戦終結とともに、韓国の対外認識は大きく変容した。振れ幅は、日米と比較にならないほど大きい。それは、この半世紀に経験した変化の大きさを考えれば当然だ。日米両国は半世紀前にも先進国だったが、当時の韓国は世界最貧国の状態から抜け出したばかりだった。これほど大きな社会的変化を遂げた国で、人々の意識が変わらない方がおかしい。

 対北朝鮮では、21世紀の韓国は圧倒的な優越感を背景に北朝鮮を見るようになった。冷戦下では南北が国力を競っていたのだが、今ではそんなことを覚えている人は少ない。自分たちの方が上だという感覚が強いから、北朝鮮の脅威と言われてもピンとこない人が増えているように見える。一方で、いったん豊かになってしまったが故に、経済的負担の大きさを考えて統一には尻込みする人が多くなった。世論調査で早期統一を望むという回答は1割程度にすぎなくなった。

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冷戦中は「敵側」として没交渉だった中国と再び向き合うようになったのも、韓国にとって大きな変化だった。特に2000年代以降、韓国経済は中国への依存度を高め、貿易額に占める中国のシェアは日米両国の合計を上回るようになった。ただし、韓国の対中配慮は経済的要因だけに起因するものではないだろう。地理的な近さだけでなく、歴史的な背景も、韓国が中国からの圧迫感を強く意識する要因になっている。中国との間に海をはさむ日本とは違うのである。

新冷戦下でも大きいメリット

 そうした状況変化にもかかわらず、日米韓という枠組みは依然として有用だ。冷戦終結後に核・ミサイル開発を加速させた北朝鮮は現実的な脅威であり、日本にとって日米韓という枠組みのメリットは大きい。米国にとっても、世界有数のデジタル関連技術を持つようになった韓国の動向は中国と向き合う上で無視できない。そもそも同盟の力を結集して中国に対抗するというのが、バイデン政権の基本路線である。

 韓国にとっても、本来はメリットの大きな枠組みだ。中国からの圧力を考えると日米豪印(通称クアッド)のような新たな枠組みに参加するのは難しいが、既存の枠組みの活性化なら問題は少ないはずだ。ブリンケン氏は韓国で、日米豪印という4カ国(通称クアッド)と日米韓という両方の枠組みの重要性を強調した。それは、中国や北朝鮮に対する韓国の立ち位置を理解した上で、対中政策に必要な包括的連携の強化を図ろうとするものだろう。日韓の間でバランスを取りつつ慰安婦問題の解決を促そうとするのも、同盟ネットワークを強化するためと言えそうだ。』