中国と対峙するための条件(The Economist)

中国と対峙するための条件(The Economist)
今後数十年続く対立で意識すべきこと
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM210EH0R20C21A3000000/

『中国の全国人民代表大会(全人代)は11日、香港の選挙制度を見直す決定を採択し、香港の民主主義をたたきつぶした。中国の厳しい統制が香港に及ぶことは、香港市民750万人の悲劇にとどまらない。それは、中国政府が主義主張を貫くのに一切の妥協を許さないとする決意表明でもある。

中国全人代が香港の選挙制度を見直しを決めたのは、中国政府が自らの主張を貫くのに一切の妥協を許さない決意表明でもあるとされる=ロイター

自由主義の価値観はソ連崩壊を機に世界で優勢を誇ったが、中国の揺さぶりを受け今、米ソ冷戦初期以来の試練に直面している。しかも香港経済が示す通り、ソ連とは異なり中国は西側諸国と緊密に結び付いている。この事実は自由主義世界に大きな難問を突きつけている。中国の台頭に伴い、経済的繁栄を維持し、戦争のリスクを抑え、同時に自由社会を守る最善の策とは何かという問いだ。

香港の現状は、この難問への解答が容易にはみつからないことを示している。中国は香港の有権者が投票できる直接選挙枠を立法会(議会)定数の50%から22%に減らし、選挙前にその候補者が「愛国者」かを審査することも決めた。香港の民主化抑圧の動きが究極に達した格好だ。

それでも対中投資は増える一方

域外から10兆ドル(約1090兆円)もの投資資金が流入する香港で自由主義が幕を閉じれば恐慌や資本流出、企業流出が起きると思うだろう。だが香港の金融市場は活況を呈している。中国主要企業が次々に香港取引所で新規株式公開(IPO)を実施、それに伴う欧米企業の動きも活発だ。引受件数上位には米モルガン・スタンレーや米ゴールドマン・サックスが入る。香港は基軸通貨の決済ハブでもあり、昨年のドル決済額は過去最高の11兆ドルだった。

政治の抑圧と経済の活況が共存する状況は中国本土も同じだ。中国は新疆ウイグル自治区の人権侵害、サイバー攻撃、近隣諸国への威嚇、習近平(シー・ジンピン)国家主席の人格崇拝をエスカレートさせている。それでもグローバル企業は株主には中国の現状を覆い隠し、中国事業について「非常に満足」(独シーメンス)、「目を見張るばかり」(米アップル)、「素晴らしい」(米スターバックス)と満足げに語る。

多国籍企業による2020年の中国本土への新規投資額は1630億ドルと、どの国よりも多かった。資本、金融市場の外資開放を進めていることもあり、外資金融機関の対中投資は累計9000億ドルに達し、世界の資金の流れは大きく変わろうとしている。

今や規模だけが中国の強みではない
世界の域内総生産(GDP)に占める中国の比率は今や18%だが、吸引力はもう規模だけではない。中国は企業が新しい消費動向や革新的技術を見いだす場でもあり、中国が商品価格や資本コストも決めるようになってきている。

世界の経済界は、中国政府は強権的で香港と中国本土では独立した司法や言論の自由さえ認めていないが、ビジネス分野での海外企業との契約内容は守られるとみている。

だがこうした状況は全て西側諸国の過去数十年の対中政策がいかに間違っていたかを示している。西側指導者の多くは中国の世界貿易機関(WTO)加盟を歓迎し、豊かになれば自然と民主化すると考えたが、そうはならなかった。そのため米国のトランプ前政権は中国に強硬姿勢で臨み、追加関税と制裁を科したが、それも効果はなかった。

米政権が効果を上げられなかったのは香港だけではない。米政権は通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)がスパイ行為をしているとして3年前から同社の機器を使用しないよう各国に働きかけたが、同社機器を使う170カ国で使用を禁じた国は十数カ国にとどまる。一方、企業価値が500億ドルを超える中国テック企業は7社から15社に増えた。

西側が取れる強行策に、中国への強硬姿勢をさらに強めて世界から孤立させ方針転換を迫るという選択肢はある。だがその代償は大きい。世界の工場である中国は世界の輸出製品の22%を生産する。その中国から西側の消費者を切り離せば物価が上昇する。米テック産業から独自動車産業、英銀行業、仏高級品産業、豪州の鉱業まで中国に依存する西側の産業各界は大打撃を受ける。中国にドルの使用を禁じれば世界に金融危機を引き起こしかねない。

孤立強いるのではなく関係維持しかない
こうした代償も、成果を出せるなら価値があるかもしれない。だが中国共産党を罰しても、その権力は奪えないと考えるべき理由は多くある。

まず西側と中国のどちらを取るかと問われ、中国を選ぶ国は多いかもしれない。モノの最大の貿易相手国が中国という国が64カ国に対し、米国が最大の国は38カ国にとどまる。中国を孤立させるはずが、米国と同盟国が孤立する事態になりかねない。石油収入に依存したソ連とは違い、中国は巨大で多様性と革新性に富むため、西側に圧力をかけられても新たな事態に応じて対応していくことが可能だ。中国が進めるデジタル通貨は、ドルと並ぶ決済通貨となる可能性があるし、半導体では自給自足を目指している。

中国との禁輸を進めれば、人権尊重を促す一助になるとの見方はある。だが独裁国家は孤立すると強権を強める傾向がある。西側とビジネス面、学術面、文化面で接触を失えば、中国市民は他国の意見や情報からさらに切り離される。中国に進出する外資企業約100万社は日々、中国の顧客や従業員と接触し、海外進出している中国企業4万社も世界とやり取りをしている。こうした交流には、政府の検閲の目も届きづらい。監視社会といえども、それで何百万人にも上る学生や観光客が日々、触れ合う機会を減らしているわけではない。

従って中国との関係を維持するのが唯一の賢明な策だが、融和策に陥らないようにするにはどうすればよいのか。この難題に直面するバイデン米政権は18~19日、中国の外交トップと協議した。英国も16日に外交・安全保障の方針を発表したが、西側各国は現在、中国に擦り寄ることなくどう付き合うか戦略の見直しを進めている。

中国指導者らの考え方がもたらす難題を意識せよ
西側は防衛強化から始めなければならない。中国政府の介入に備え、大学やクラウドシステム、エネルギー体制を含め様々な制度やサプライチェーンの強化も必要だ。様々な条約や決済ネットワーク、技術の標準など米主導で構築し、グローバル化を支えてきたインフラは老朽化している。それらを刷新し、中国が対抗して構築している制度とは異なる選択肢を提供できるようにする必要がある。

平和の維持には、中国が軍事攻撃に出れば大きな痛手を被るようにすべきだ。「Quad(クアッド)」のような日米豪印4カ国の連携強化や台湾の軍事力強化が必要だ。

中国と対峙する力を強化すれば開かれた社会を維持し、人権問題に毅然と臨めるようになる。中国と西側との対立が戦争という悲劇に至らなかったとしても、今後数十年は続く。その中で自由主義を標榜する各国政府が全体主義に代わる思想を説くことは、開かれた社会の活力を維持する手助けとなる。

普遍的価値と人権尊重を訴えることは単に西側が覇権を維持し、中国台頭を抑えるための姑息(こそく)な戦術ではないと示すことも重要だ。つまり企業は自社の供給網から強制労働による供給など非人道的行為を許容することがあってはならない。西側諸国が中国の非人道的行為に目をつぶれば中国の国家主義は脅威を増すことになる。信念に基づいて人権擁護を何年も訴えれば、中国国民が自由を求め立ち上がろうとするのを後押しするかもしれない。

中国の指導者らは独裁としっかり機能する官僚制度、政治の不透明さと開かれた経済、非人道性とビジネス面での確実さを共存させる道をみつけたと考えている。

香港の民主主義が排除された今、自由主義社会は中国指導者らのこうした考え方がもたらす難題を従来以上に意識しなければならない。今後長く続くことになる闘いに向け対策を講じ、守りを固める必要がある。

(c)2021 The Economist Newspaper Limited. March 20, 2021 All rights reserved.

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