香港市民の「脱出」急増 不動産各社、海外移住に商機 ビザ取得や物件管理 資本流出は懸念

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『【香港=木原雄士】香港から海外に移住を希望する人が増え、商機とみた不動産関連などの企業が移住関連サービスに力を入れている。ビザ取得支援や不動産投資の仲介では英国やカナダに加え、日本やアイルランド向けも登場した。2020年の香港国家安全維持法で加速した移住の動きは、香港の不動産価格を下押しするとの見方もある。

「香港の歴史の中で最大の移住ブームだ。老若男女が移住について話している」。香港で30年以上…

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香港で30年以上、移民コンサルティングを営む羅立光氏は驚く。香港人の関心の高さは、中国返還前の1990年代以来という。

不動産仲介大手、美聯物業では傘下の移民コンサル「美聯移民顧問」を通じてビザ取得の手続きなどを支援する。鄭天殷シニアディレクターは「顧客の半分は英国行きを考えている。子どもの教育のため移住をめざし、不動産に関心を持つ人も多い」と話す。美聯では海外不動産の購入を希望する顧客がこの2年で1.5~2倍に増えた。

きっかけは19年に始まった大規模デモだ。その後に移住相談が増え始め、20年の国家安全法で流れが決定的になった。特に今回は子どもを抱える世代で移住希望が多いのが特徴だ。小学校から国家安全教育が実施される見通しとなり、自由な教育を求めて移住先を探っている。中国返還前に生まれた香港市民が取得できる英国海外市民(BNO)旅券の発行件数は20年に約31万件と前年の2倍になった。

香港ではもともと、海外への不動産投資などで居住権を取得する方法が知られる。こうした手続き代行や不動産の仲介業務を手掛ける企業はあった。ただ最近の政治情勢を受けて、香港人が希望するだけでなく、英国やカナダが香港人の受け入れ拡大を発表した。英国が1月、BNO保持者と家族の英市民権取得につながる特別ビザの受け付けを始めたこともあり、移住に向けた動きが活発となった。

関心の高まりを受けて美聯のほか、中原地産や利嘉閣地産といった不動産の仲介大手が移民コンサルに力を入れている。

美聯の海外部門の周定国氏によると、移住者の多くは香港の不動産を手放さない傾向がある。いずれ香港に戻りたいという希望や、不動産価格が上がる期待があるためだ。不動産各社が移民ビジネスに熱心なのは、海外不動産の仲介に加え、香港不動産の賃貸サービスを請け負う需要も狙える側面があるようだ。

移住先の裾野も広がる。バルトラ・ウェルス・アドバイザーズはアイルランド専門の移住コンサルを手掛ける。英国の欧州連合(EU)離脱に伴い、EU加盟国で英語圏であるアイルランドへの需要が高まるとみて、大規模デモのさなかの19年8月に香港に進出した。不動産投資を通じてビザを取得する方法を紹介し、20年末までに50家族から申し込みがあった。

日本も例外ではない。「飯田橋」「北海道二世古(ニセコ)」「天下茶屋」――。香港紙には日本の不動産広告が毎日のように掲載される。

千代日本物業顧問は日本の不動産投資に特化する。以前は月2~3件だった移住相談が足元で30件ほどに増えたという。日本の学習塾をフランチャイズ運営することで、ビザ取得をめざすスキームを提案し、実現した例も出ているという。最高執行責任者(COO)の麦静雯氏は「日本は同じアジアとしてなじみやすく、不動産も安定した収益が見込める」と話す。
香港紙には日本の不動産広告も登場

移住需要を取り込むのは不動産だけではない。19年創業の香港スタートアップ、スペースシップはネット上で国際物流サービスの価格を比べ、申し込みできるサービスなどを手掛ける。ビザ書類の発送も行い、既に5万件以上のBNO申請にかかわった。創業者のチーラム・ラム氏は「面倒な海外引っ越しを簡単にできるように支援したい」と話す。

ただ移住ブームが続けば、香港経済への影響が懸念される。米バンク・オブ・アメリカは21年に15万人が英国にわたり、2800億香港ドル(約3兆9千億円)が域外に流出すると試算する。香港ドルの米ドル連動(ペッグ)制度は維持できるとみるが、資本流出の懸念はくすぶる。

ブルームバーグ・インテリジェンスの不動産アナリスト、黄智亮氏は「海外移住や中国本土からの流入減を背景とする人口減少が住宅市場に打撃となる」と話す。香港の不動産価格指数をみると、売買市場に比べて賃貸市場の下げが目立つ。不動産を売らずに移住する人が多く、賃貸市場の需給が緩んでいるようだ。

黄氏は住宅を所有している香港人の1%が移住すれば、足元4%程度の空室率が年末までに5.3%まで上昇すると試算する。「特に中流層向けの住宅が影響を受けやすい」という。

香港は20年の実質成長率が2年連続でマイナスとなった。中国本土からの観光客がほぼゼロになり、ホテルや外食、小売りなどが影響を受ける。移住者の増加は香港経済のさらなる悪化につながりかねない。

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