酷寒アラスカ米中会談、まず「戦略対話」の呼び名で衝突

酷寒アラスカ米中会談、まず「戦略対話」の呼び名で衝突
編集委員 中沢克二
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK151S40V10C21A3000000/

※ 10年前のバイデン、習両氏だ…。若々しいな…。

※ 劉鶴氏、さっぱり動静を聞かなくなったな…。

※ この人は、初耳だ…。

※ 『既に71歳。半ば引退した印象がある「老将」が再び表舞台に立つ。』ということだ…。

『米国主導の同盟による中国包囲網を現実化させたのは、トランプ共和党政権ではなく、バイデン民主党政権だった。国家主席の習近平(シー・ジンピン)としては、当てが外れた感があるだろう。「古い友人」である米大統領のバイデンにいささか期待していたのだから。そのバイデン政権発足以来、初めて対面式で開く18日の米中外交トップ会談は異例ずくめである。

まず中国側から出席するのが、外交を統括する共産党政治局委員の楊潔…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

残り3034文字

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料』

まず中国側から出席するのが、外交を統括する共産党政治局委員の楊潔篪(ヤン・ジエチー)と、国務委員兼外相の王毅(ワン・イー)という組み合わせになることだ。これに連動して中国側は会談の枠組みを一方的に米中の「ハイレベル戦略対話」と名付けた。しかも会談場所は米アラスカ州アンカレジという酷寒の地である。

 2011年8月、訪中したバイデン米副大統領(当時、左)と北京での会合に臨む中国の習近平国家副主席(当時)=共同

楊潔篪と王毅のコンビはありそうにみえるが、実は2人が共に主役級として訪米する対米外交の枠組みは初めてだ。過去は楊潔篪の単独訪米か、米中首脳会談や戦略対話などの多くの代表団メンバーとして2人が加わっていただけである。

打診していた楊潔篪、劉鶴の訪米

昨年6月には楊潔篪がハワイで当時、トランプ政権の国務長官だったポンペオに会っている。今年2月、習近平とバイデンが初めて電話協議するのに先立つ地ならしも楊潔篪と米国務長官のブリンケンの電話協議だ。従来、中国にとって最重要の対米外交は、全外交政策を仕切る党中央外事工作委員会の弁公室主任でもある楊潔篪の牙城だった。
中国の外交担当トップである楊潔篪・共産党政治局委員(18年11月、米ワシントンで)=AP

今回、同盟国である日本と韓国を初訪問するブリンケンが北京に寄る選択肢はない。中国を念頭に置いた同盟の再構築が主要テーマなのだから当然である。それを知る中国側はとにかく帰路につかまえようとした。なんとしても深刻な米中分断のイメージが世界に拡散していくのは避けたい。それが本音だった。

その際、中国から出向くのが王毅だけでは単なる外相会談になってしまう。中国側としては、どうしてもバイデン米政権との間で新たなハイレベル協議が始まったという名目が欲しい。それには16、17両日の日米、米韓の外務・防衛担当相の枠組みである「2+2」と一見、類似した米中の「2+2」の立ち上げが望ましかった。

そこで昨年11月の米大統領選挙でバイデンが当選した後、長い間、中国側が訪米を打診してきた楊潔篪の登場となる。中国が望んでいたのは楊潔篪の訪米ばかりではない。経済担当の副首相(党政治局委員)である劉鶴(リュウ・ハァ)訪米にも期待があった。
政治協商会議の閉幕式に臨む、習近平国家主席と劉鶴・副首相(左)=2019年3月13日、北京(横沢太郎撮影)

1年余り前の2020年1月、当時のトランプ政権との貿易協議で「第1段階合意」にこぎ着けた立役者、劉鶴は習近平の側近でもある。劉鶴が訪米できればトランプ時代の厳しい対中制裁関税見直しに少しずつ道が開ける。楊潔篪の訪米も可能なら、いずれ外交と経済がセットになったオバマ時代の米中戦略・経済対話のような枠組みへ進めるかもしれない。

しかし、バイデン政権が時機を見ながら、何らかの形で応じようとしていたのは楊潔篪の訪米だけだった。対中経済・貿易関係は、政権内部での調整に時間がかかる。中国側に主導権を渡さないためにも政権発足の直後、劉鶴訪米を受け入れる環境にはなかった。そこで双方が折り合ったのが、ブリンケンが日韓歴訪から戻る帰路を利用したタイミングの米中外交トップ会談である。
中国側による「追っかけ」

これで中国側は楊潔篪と王毅が組んだ縮小版の「ハイレベル戦略対話」という呼び名を作り出すことができる。楊潔篪なら習近平が書いたバイデン宛て親書を持参する特使の役割も担いやすい。もし、受け渡しがあれば、米中融和を演出する材料にできる。

「戦略対話」について米側は明確に否定している。ブリンケンは「これは戦略対話ではない」と説明し、現時点では継続的な開催を想定していないと明言した。だがバイデン政権が2対2の枠組みを承諾し、ホワイトハウスから米大統領補佐官のサリバン(国家安全保障担当)がアラスカに出向く以上、中国側の宣伝を止めることはできない。

では、なぜアラスカなのか。アンカレジは北京とワシントンからほぼ等距離だという。しかし米国領である。その意味では中国側が「招待された」と発表したのは正しい。招待がなければ入国できない。とはいえ日米、米韓協議の直後、ブリンケンの経由地であるアラスカにわざわざ出かけるのだから、実態は中国側による「追っかけ」である。現時点でのワシントン訪問は拒まれたということだ。

米中の「ハイレベル戦略対話」開催決定を伝えた一部中国メディアの記事にも「どうして氷と雪に閉ざされたアラスカで?」という見出しが付くほどだ。酷寒のイメージが先行するアラスカは3月でも最低気温がマイナス10度を下回る。
オンライン方式で記者会見する中国の王毅国務委員兼外相(7日、北京)=共同

注目したいのは、多くの中国発の記事が、中身でアラスカという開催地に積極的なイメージを見いだそうと努力している点だ。典型的なのは習近平を引き合いに出したものである。17年4月、米フロリダ州での米中首脳会談後に帰国する途中、アンカレジに立ち寄り、州知事と会談した「よい思い出」を紹介している。習にもゆかりがある地だと宣伝したいのだ。

このほかアンカレジが中国大陸からの飛行距離が最も近い米国の都市であること。新型コロナウイルス感染症が比較的よく抑えられ、ワクチン接種率も高いことなども挙げられている。とはいえ、どれもアンカレジが選ばれた決定的な理由にはなっていない。
中国の対米外交占う変化

一方、今回の楊潔篪と王毅のコンビ結成には「中国外交の今後を占う手がかりもある」という見方も出ている。中国側のいう米中ハイレベル戦略対話という名称がどういう思惑から出てきたものであれ、楊と王が2人とも主役級で交渉の場に立つことになる。米側カウンターパートのサリバンとブリンケンが共に主役であるのと対をなすからだ。

そもそも楊潔篪はあらゆる重要決定に関わる党トップ25人の1人であり、その外にいる王毅の身分とは雲泥の差がある。「その2人が手を携えてということなら、王毅が楊潔篪の役割を継承する可能性が残されているのではないか」。一部ではこういう観測が広がりつつある。

これは22年の党大会人事の話につながる。王毅は1953年生まれの67歳で、習近平と同年齢だ。これまでの年齢制限の慣例が適用されるなら引退するしかない。ただ習政権では国家副主席の王岐山(ワン・チーシャン)のように年齢にかかわりなく起用された例もある。

2月下旬、中国の気候変動問題を担う特使に任命された解振華氏

年齢を巡っては最近、対米関係に絡む人事でも目を引く例があった。先の全国人民代表大会の直前だった2月下旬、解振華が気候変動問題担当の特使に任命されたのだ。既に71歳。半ば引退した印象がある「老将」が再び表舞台に立つ。

それには理由がある。2015年のパリ協定の採択の際に当時、米国務長官だったケリーとの間で最後の調整に一役買ったとされるのが解振華だ。気候変動問題担当の特別代表を務めていた。今回、習近平の意向を反映しやすい特使という肩書にあえてしたのは、バイデンから直接、指示を受ける気候変動問題担当の大統領特使にケリーが就いたからだ。

「6年前のパイプを生かせ」というのが習指導部の指令だろう。中国側は既に解振華がケリー側と連絡をとっていることを明かしている。今回の米中協議でも気候変動を巡る今後の米中協力は一つの焦点だ。

気候変動問題担当の大統領特使であるケリー氏(3月10日、パリで)=AP

香港問題、新疆ウイグル自治区の人権問題、台湾問題、そして南シナ海や沖縄県の尖閣諸島の問題……。課題山積の米中外交トップ会談は、前段から戦略対話かどうかという呼称問題で衝突し、危うい空気が流れた。とはいえ完全な米中分断は双方の本意ではない。何らかの新しい展開があるのか。注目したい。(敬称略)

中沢克二(なかざわ・かつじ)
1987年日本経済新聞社入社。98年から3年間、北京駐在。首相官邸キャップ、政治部次長、東日本大震災特別取材班総括デスクなど歴任。2012年から中国総局長として北京へ。現在、編集委員兼論説委員。14年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

クリックすると習近平指導部データへ https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/chinese-communist-party-leaders/