内モンゴルで勤務した首相候補の憂鬱 北京ダイアリー

内モンゴルで勤務した首相候補の憂鬱 北京ダイアリー
中国総局長 高橋哲史
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM150YS0V10C21A3000000/

『11日に閉幕した今年の全国人民代表大会(全人代)で、最も注目を集めた会議だったかもしれない。内モンゴル自治区の代表団が開幕日の5日に開いた分科会である。

習近平(シー・ジンピン)国家主席が自ら出席した。「国家の共通言語と文字の普及に真剣に取り組まなければならない」。習氏は少数民族がそれぞれ独自の言語だけでなく、標準の中国語も話すべきだと訴えた。

公の場でモンゴル語を話すな、と言っているに等しい。同…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

残り1280文字

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

有料会員に登録する
https://www.nikkei.com/r123/?ak=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXZQOGM010QT001022021000000&n_cid=DSPRM1AR07

無料会員に登録する
https://www.nikkei.com/r123/?ak=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXZQOGM010QT001022021000000&n_cid=DSPRM1AR07#free

ログインする
https://www.nikkei.com/login

同自治区では昨秋、小中学校で授業の一部をモンゴル語から標準の中国語に切り替え、保護者らの抗議運動にまで発展した。習氏の発言はこうした動きを許さないというメッセージだった。

習氏は形式上、内モンゴル自治区から選出された代表(議員)として全人代に出席している。初日に同自治区の分科会に顔を出すのは慣例だ。そこでの発言は中国共産党の重要政策を映し、必ずしも内モンゴルだけに向けたものではない。

しかし、今年は明らかに内モンゴルを標的にした言説が目立った。次のひと言もそうだ。「このつけは必ず払わせる!」。党機関紙の人民日報によると、習氏がこの言葉を発したとたん、会場はしーんと静まりかえった。

同自治区で起きた石炭業界の汚職に対する叱責だったからだ。習氏は不正に絡んだ関係者を何代にもさかのぼって洗い出し、徹底的に処罰すると表明した。

いまの党トップ25にあたる中央政治局には、かつて内モンゴル自治区の党委員会書記を務めた人物がいる。胡春華(フー・チュンホア)副首相だ。習氏の厳しい叱責は、実は胡氏に向けられていたのではないか。そんな臆測が広がったのもむりはない。

1963年生まれの胡氏は、2023年3月で任期が切れる李克強(リー・クォーチャン)首相の後継レースで先頭を走ってきた。

湖北省の農家に生まれ、16歳で北京大学に合格した秀才だ。李氏や胡錦濤(フー・ジンタオ)前国家主席と同じ共産主義青年団(共青団)の中枢を歩み、大学卒業後はチベット自治区でおよそ20年間も勤務した。

内モンゴル自治区のトップを務めたのは2009年から12年までだ。私は11年に同自治区のフフホトで、胡春華氏と立ち話をしたことがある。名刺を出すと「私も昔、チベットで地元紙の記者をしていたんですよ」とにこやかに答えてくれたのを覚えている。

胡氏は次の首相になれるのか。雲行きは怪しい。習氏が最高指導者に就いてから、「団派」と呼ばれる共青団の出身者が「貴族化、娯楽化」を批判され、人事で冷遇されてきたのは周知の事実だ。内モンゴルの一件で、胡氏には一段と強い逆風が吹く。

全人代は最終日に「全人代組織法」の改正を可決した。副首相をいまより機動的に任免できるようにする内容だ。22年秋の党大会で3期目入りをめざす習氏は、側近を次の首相候補として副首相に引き上げようとしているのではないか。そんな観測が広がる。

30年代をにらんだ習氏の長期政権に向けた体制固めが、さらに進む。
高橋哲史が執筆するニューズレターを隔週で配信しています。ワシントン支局長の菅野幹雄と「往復書簡」の形で、米中の「今」と「これから」を考えます。登録はこちら。
https://regist.nikkei.com/ds/setup/briefing.do?me=B001&n_cid=BREFT032
高橋哲史 (たかはし・てつし)

1993年日本経済新聞社入社。返還直前の香港での2年間の駐在を含め、中華圏での取材は10年に及ぶ。2017年から2度目の北京駐在で、現在は中国総局長として変わりゆく中国の姿の取材を続けている。

これまでの記事はこちら
北京ダイアリーをNikkei Asiaで読む https://asia.nikkei.com/Spotlight/Beijing-Diary?n_cid=DSBNNAR
Nikkei Asia