中銀デジタル通貨 米中競争激化の兆し

中銀デジタル通貨 米中競争激化の兆し 
編集委員 西村博之
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『中央銀行が発行するデジタル通貨をめぐり、バイデン米政権下で米中の競争が本格化する兆しが出てきた。中国は国内外でのデジタル人民元の利用をにらみ実験のアクセルを踏む。静観してきた米国も重い腰を上げつつある。世界の中銀の対応にも影響するのは必至だ。

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「今年は重要な年だ。国民と活発に対話する」。2月24日の米下院金融サービス委員会。パウエル米連…

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パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長はかつてない前向きな表現でデジタルドルに言及した。前日の上院銀行委員会でも「非常に優先順位の高いプロジェクトだ」と発言。慎重姿勢を転換させた。

直前、香港の中銀にあたる金融管理局などの発表文が、金融関係者の注目を集めていた。中銀デジタル通貨の越境取引に関して香港とタイの中銀が進める実験に、中国人民銀行とアラブ首長国連邦(UAE)の中銀が加わるとの内容。「デジタル人民元を一帯一路に広げる布石か」(日銀OB)との声が上がった。

中国から西は中東、南は東南アジアをつなぎ、他の中銀も加えるというから確かに中国主導の広域経済圏構想と重なる。ブロックチェーン(分散型台帳)技術を使った企業間決済や資本取引の可能性をさぐるという。

中銀デジタル通貨は今回の実験のようなホールセール(大口)向けと一般消費者が使うリテール(小口)向けがある。

小口向けでも中国は2月の春節(旧正月)前後に北京市などの住人にデジタル人民元を配り使ってもらう実験を行った。2022年の実用化を視野に入れる。

北京市内でのデジタル人民元の実証実験(2月)

ただ小口向けは国内利用を想定した設計とされ、そのまま国外に広がるとみる専門家は少ない。一方、大口の越境取引は研究こそ初期段階だが、実現すれば元の国際化に弾みをつける。ここで中国は攻勢を強めている。

1月には人民銀が傘下のデジタル通貨研究所や人民元の国際銀行間決済システム(CIPS)とともに、送金情報を仲介する民間組織、国際銀行間通信協会(SWIFT)と合弁会社を設立。データや技術で協力する。

SWIFTはドル覇権の要で、米国が敵対国の資金源を断つ金融制裁にも使う。これを嫌い中国が15年に立ち上げたのがCIPSだ。なのに、なぜ手を組んだのか。

CIPSに参加する金融機関は足元で約100カ国の1000社ほど。SWIFTの約200カ国、1万社強に遠く及ばず、SWIFTがCIPSを補っているのが実情だ。中国はデジタル人民元の普及をにらみ、まずはSWIFTと組むのが有利と踏んだのだろう。

中国は似たような布石を随所で打っている。1月、モーリシャスとの間で発効させたアフリカ諸国との初の自由貿易協定(FTA)。そこにはデジタル金融の協力と「モーリシャス領内への人民元の清算・決済機関の設置」が盛られた。

むろん人民元の普及には資本規制や中国政府への信頼など課題も多く、ドルの地位が揺らぐ状況にはない。だが経済規模の米中逆転が迫るなか、基軸通貨国の米国は技術革新も踏まえた骨太な戦略が求められている。

イエレン米財務長官も中銀デジタル通貨構想を後押しする=AP

「デジタルドルは迅速で安全、安価な支払いに役立つ」。イエレン米財務長官は2月、国内の弱者対策の観点からFRBの背中を押した。

バイデン政権とその周辺にはほかにもデジタルドルの支持者が多い。大統領が米証券取引委員会(SEC)委員長への起用を決めたゲンスラー氏は、FRBと米マサチューセッツ工科大(MIT)が昨夏始めたデジタルドルの共同研究で窓口をつとめた。

FRBで中銀デジタル通貨の検討を主導するブレイナード理事は民主党に近く、次期FRB議長の有力候補。夫で新設の「インド太平洋調整官」に起用されたキャンベル氏は中国の台頭を警戒し、国務次官補(東アジア・太平洋担当)を務めたオバマ政権で「アジア回帰」を進めた立役者だ。

バイデン政権は国内と国外、政治と経済を通じ一貫性のある政策をめざしている。デジタルドルの検討が大きく前進する兆しを中国は察知しているのだろう。

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