【中国ウォッチ】故華国鋒主席を利用、習氏への忠誠要求

【中国ウォッチ】故華国鋒主席を利用、習氏への忠誠要求 生誕100年座談会の党指導者演説
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『かつて中国共産党主席や首相を務めた故華国鋒氏(2008年死去)は、ポスト毛沢東の最高指導者に就任したものの、トウ小平氏によって失脚に追い込まれた人物として知られる。党指導部はこのほど、華氏の生誕100年を記念する座談会を開き、出席した指導者が華氏の党に対する忠誠心を礼賛することにより習近平国家主席(党総書記)への忠誠を要求。政権トップの終身制廃止、香港の「高度な自治」否定などトウ路線を次々と修正している現政権が習氏個人の権力基盤を固めるため、トウ氏のライバルだった華氏を利用した形だ。(解説委員・西村哲也)

◇出席者は格落ち

 座談会は2月20日に北京の人民大会堂で開催され、党最高指導部の政治局常務委員会(7人)からナンバー5の地位にある党中央書記局筆頭書記の王滬寧氏とナンバー7の韓正筆頭副首相が出席して、王氏が演説した。
 中国では、亡くなった党・国家・軍指導者の生誕100年を記念して、党指導部が座談会を開くのが慣例となっており、今回の座談会もそれに沿った行事。ただ、これまで故胡耀邦元総書記を含め政治局常務委員経験者の生誕100年座談会は現職の総書記(同常務委員の筆頭格)が参加してきたので、華氏のケースは格落ちだ。「改革・開放の総設計師」とされるトウ氏に追い落とされた指導者だからであろう。
 なお、胡耀邦氏もトウ氏によって総書記辞任を強いられたが、華氏と違って政治局員のポストは維持し、死去するまで形式上は党指導部の一員だった。また、同じ改革派として、習近平氏の父である故習仲勲氏(元副首相、中央書記局書記)と協力関係にあったといわれる。

◇党内の派閥活動に警告

 この種の座談会での演説は故人の功績を紹介した上で、故人に学ぶべき点を列挙するが、王氏は演説で華氏に学ぶべき点として最初に以下のように述べた。

 一、「党性」(党員としての正しい考え)がしっかりしており、党に忠実な政治的品格があった点を学ばなくてはならない。華国鋒同志は党性の原則を重んじた。
 一、文化大革命(1966~76年)の困難な状況下でも「党内では党性を重んじる必要があり、派閥性(党全体より自分の派閥を優先する考え)を重んじてはならない。党支部内で派閥性によって動くことは許さない」という立場を堅持した。
 一、(華氏による四人組打倒で)歴史の転換が終わった後、彼は自覚的に団結を擁護し、大局に心を配り、個人の得失を考えなかった。
 一、時代がいかに発展しても、条件がいかに変化しても、党に対する忠誠は一貫して第一の要求である。党員、幹部は習近平総書記の要求に従って、「二つの擁護」をきちんと行い、思想、政治、行動の面で終始、習近平同志を核心とする党中央と高度の一致を保たねばならない。

 「二つの擁護」とは、習氏の党中央の核心、全党の核心としての地位を断固として擁護し、党中央の権威と集中的、統一的指導を断固として擁護することを指す。党内では「『二つの擁護』は本質的には一体だ」と公式に説明されているので、「習氏個人に忠誠を誓え」ということに等しい。

 王氏は、絶対的な最高指導者だった毛沢東主席から後継者に指名された華氏がいかに「党性」を重視し、党の団結維持を考えて行動したかを強調することで、習氏への服従を求めた。習氏の意向を受け、イデオロギー・宣伝担当の王氏がひねり出した理屈だろう。

◇トウ小平氏の華氏批判否定

 王氏の演説の華氏に対する評価は「中国共産党の優秀な党員、長い試練を経た忠実な共産主義戦士、プロレタリア階級革命家」で、08年の死去時に発表された公式の訃報と変わらなかった。他の政治局常務委員経験者たちと違って、プロレタリア階級革命家に「偉大な」もしくは「傑出した」という形容詞は付かず、「卓越した指導者」という言葉も使われていない。

 だが、訃報にはなかった「中国革命、建設、改革に終生精力をささげた」という一文が加わったほか、文革後に「科学技術の学習、経営管理の経験学習を含め、外国の良い経験を必ず学んで、広範な経済協力を進める必要がある」と考えていたことも指摘された。全体として「華氏は改革・開放に貢献した」という意味にも読める。

 いずれの表現も、生誕90年記念の時に当時の党中央党史研究室が発表した論文から流用したものだが、政治局常務委員の公式演説に盛り込まれたことで党指導部認定の評価となった。

 少なくとも、華氏が文革後に党主席兼首相として外国からの設備・技術導入を本格的に開始し、後の対外開放政策の先駆となったのは事実。性急な導入で問題が生じたからといって「洋躍進」として全否定せず、先見の明をたたえるのは公正な評価と言える。

 トウ氏は華氏について、左寄りの毛沢東路線を引き継いだだけの過渡的人物で、「独立したものは一つもない」と断じたが、今回追加された評価はそれを否定した。毛時代への回帰志向がある習政権は華氏にも好意的なようだ。こうした姿勢には、トウ氏に対する政治的評価をなるべく相対化したいという思惑もあるとみられる。 』