「日韓関係修復」の仲介に乗り出したバイデン外交

「日韓関係修復」の仲介に乗り出したバイデン外交
斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/22449

 ※ 安全保障の観点から、米日韓がからむ「有事」は、二つあるような気がする…。

 1、朝鮮戦争の時のように、北が韓国に向かって南進する。
 2、某国が某地域を併吞しようとして、戦略的要衝である島(候補は、2つある)を占領しようとする(あるいは、占領してしまう)…。
 3、これのコンボ

 1の場合→陸軍が中心となり、日本国は空・海軍の後方支援活動に回る
 2の場合→米日海兵隊や、空挺部隊、某地域全軍が中心となり、韓国は、北の南進に備えることになる
 3の場合→これが、最も厄介。おそらく、明確な「戦略」は、確立されてはいないような感じがする…。

 ※ いずれの事態においても、戦闘は「軍隊」間でのみ行われるのでは無く、「ミサイル合戦」や「工作員の破壊工作合戦」も生じるだろう…。

 ※ 「戦術核」が、使われる可能性だって、ある…。

 ※ 「民間人」も、多くが「巻き込まれる」ことは、必定だ…。

 ※ いずれ、南進に備えるためには、米韓の実戦的な「軍事演習」が不可欠だが、これも「コンピューター上のみの」机上演習にとどまってしまっている…。

 ※ そういうこともあって、米日は、そっちの方は、「放っておいて」、2の事態への備え・対策を、着々と打っていくことにしたように、見受けられる…。

 ※ ただし、いずれの「有事」も、それぞれ「単独」の事象として発生する確率は、低いと思われる…。

 ※ 1の有事にしても、過去の朝鮮戦争は、米+韓+日vs.ソ連+中共+北…、という構図の上に生じたものだった…。

 ※ 今回、危惧される「有事」も、結局は、大国間の「力比べ」の「派生」として生じる可能性が高い…。

 ※ よって、事態は、その時々の「世界の地政学的情勢」(欧州の状況、中東の状況、中東周辺(アフガン、中央アジアなど)の状況、東南アジアの状況、オセアニア・南太平洋島嶼国の状況などによることになり、流動的で、あらかじめ「こうなる」と確定することは、できない…。

 ※ ミャンマー事態も、そういう東南アジアにおける「力比べ」の一つの表れ…、とも見ることが、できる…。

 ※ 米韓間の2プラス2も、こういう「構図」の上に行われるものと、思う…。

『今回、米国務省詰めの米人ジャーナリストの多くは、ブリンケン長官が就任早々に、日韓両国訪問を決めたことを「大きな驚きと意外感」を持って受け止めた。なぜなら、これまで平時において歴代政権発足後、国務長官の最初の歴訪先は歴史的、地理的にも密接な関係にあるNATO(北大西洋条約機構)諸国が最優先とされてきたからだ。今回も、国務省が日程を正式発表する直前まで、ほとんどの米メディアが「国務長官が3月中にも欧州歴訪、その後にアジア諸国か」といった観測記事を流していた。

 従って、いきなり「日韓両国訪問」はアメリカの外交常識を破るものと言ってもいい。

 さらに加藤官房長官は12日、菅首相が「来月上旬、ワシントンを訪問、日米首脳会談を行う」と発表した。バイデン大統領が就任以来、直接対面の形で世界の指導者の中では、最初に日本の首相との会談に応じるのも異例中の異例だ。』

『米国務省報道官は去る10日、ブリンケン長官の外遊について声明を発表、「今月15-18日にかけて日韓両国を訪問」を確認した上で、その目的について「両国との同盟関係強化に向けてのアメリカのコミットメントを再確認するとともに、インド太平洋地域及び世界全体の平和、安全保障そして繁栄促進の意義を強調するため」と述べた。そしてより具体的に「茂木外相とは、2国間およびグローバルな諸問題を協議するほか、長官が司会役となりリモート形式で日本のジャーナリストたちとの座談会を行い、『日米同盟の将来』について討論する。韓国では鄭外相と2国間およびグローバルな諸問題を協議するほか、長官が司会役でリーモート形式で韓国のジャーナリストたちとインド太平洋および世界における平和、安全保障、繁栄促進に向けた『米韓同盟の重要性』について意見交換する」と付け加えた。

 しかし、この公式発表文を読む限り、今回ブリンケン長官訪日、訪韓のいずれにおいても、世界のどの国よりも最優先させた緊急性は見受けられない。

 では、真意はどこにあるのか?』

『結論から先に言えば、米国が今後「最も深刻なライバル」と位置付ける中国と向き合うため、バイデン大統領自身が、いずれも米国の同盟国でありながら冷却状態にある日韓両国間の関係修復を急務とみなしているからにほかならない。ブリンケン長官が日韓両国のジャーナリストたちとの座談会を通じ「日米同盟の将来」「米韓同盟の重要性」について意見交換することにしたのは、まさにその糸口を探ろうとするものだ。

 そしてこれを受けた形で、大統領は来月上旬、間髪を入れず、菅首相をホワイトハウスに招き入れることにしたのも、安倍首相時代に悪化した日韓関係について、菅首相に交代したのを機会に、率直に意見交換し、日韓関係仕切り直しの可能性を探る意図があるとみられる。この首脳会談の場で、菅首相と文在寅韓国大統領との直接会談を促すことも十分考えられる。』

『実は、外交問題を得意とするバイデン氏は副大統領時代から、困難な状況にある諸外国間の関係改善のためには首脳同士が直接向き合うことが不可欠であり、そのために必要であればホワイトハウスも後押しするとの信念を個人的に抱いてきた。いわゆる「バイデン・ドクトリン」の一角をなすものだ。(この「バイデン・ドクトリン」については、すでに本欄1月21日付、拙稿「『バイデン・ドクトリン』とは何か」で述べた)

 そしてバイデン氏は具体的に、2016年8月、米有力誌「The Atlantic」との独占インタビューの中で、①オバマ政権下の副大統領として自らが当時、険悪な関係にあったイスラエルのネタニヤフ、トルコのエルドアン両国首脳に直接働きかけ、その後両国関係が好転した②冷え込んだ関係にあった日韓関係でも両国首脳に改善を呼びかけた③イラク、ウクライナなどの関係においても直接首脳に働きかけ、局面打開を図った―などの具体例を挙げ、仲介役としての意義を強調してきた。』

『このうち、「日韓関係改善」については、バイデン氏は去る2013年10月、インドネシア・バリ島で開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議の場で、安倍首相、朴槿恵韓国大統領(いずれも当時)の日韓両首脳が30秒足らず言葉を交わしただけでその後口も利かないまま別れるという冷え切った関係だったことを懸念「(バイデン氏が後押しした結果)その後は、安倍首相が訪韓し、朴槿恵大統領も訪日に向けて動き出した」ことにも言及している。』

『もうひとつ、バイデン大統領が,日韓関係修復を急ぐ背景には、切迫した北朝鮮の核開発問題がある。

 金正恩朝鮮労働党委員長は、バイデン政権誕生以来、これまでのところ、核実験再開、ミサイル発射実験など挑発的な動きを一切見せておらず、米側の今後の対応を慎重に見極めているとみられる。トランプ前政権下では、政権発足直後の2017年2月12日に「北極星2号」ミサイル発射実験に踏み切ったのを皮切りに、同年3月6日、3月22日、4月4日、4月16日、4月29日と、ほとんど毎月のように各種ミサイル実験を繰り返し、同年だけで16回にも及んだ。ところが、バイデン大統領が就任した1月以来、ぴたりと鳴りを潜めた状態が続いており、今のところ、前政権時と好対照をなしている。

 一方で、北朝鮮はICBM、 SLBMほか、日本などを射程にした短、中距離ミサイル能力の改善、強化に乗り出してきており、アメリカ側の対応次第では、何が起こるかわからない、まさに一触即発の状態にあると言っても過言ではない。そしてもし、有事となった場合に、アメリカとしては、同盟国である韓国、および日本とともに迅速な共同対処を求められるものの、日韓両国が現在のような冷たい関係のままだった場合、作戦展開上、大きな不安材料となる。ここは早急に、アメリカ主導の下、日韓両国が一体となって日本海における共同作戦を真剣に検討する必要に迫られている。』

『日韓両国関係の現状を見ると、文在寅大統領就任以来、「従軍慰安婦」「徴用工」などの歴史問題めぐり再び悪化の一度をたどり始め、今日に至っている。安保協力面では、有事の際に決定的に重要な役割を果たす「日韓軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)について、文政権は2019年8月、一方的に「終了通告」に踏み切った。この措置には、米国防総省が憤慨し、一時は米韓同盟関係にもひびが入りかねない事態となり、韓国政府は同年11月、あわてて「終了通告」の「効力停止」を発表したが、その後も不安定な状態が続いている。

 この間、安倍政権は国内保守派の強固な支持基盤をバックとして、韓国に対し毅然たる態度をとり続けた一方、文政権も反日感情の強い1960年代生まれの世代を中心とした世論を背景に、対日関係改善に踏み出す姿勢も見せないまま、双方の不信感を増幅させる一方だった。わが国外務省の当局者の間でも今日、両国関係は「1965年関係正常化以来、最悪」との声も聞かれる。』

『このままでは、アメリカの外交・安全保障の基軸をアジアにシフトし、「同盟諸国との関係強化と再構築」を優先課題に掲げたバイデン・ドクトリンも看板倒れに終わりかねない。

 そのために、バイデン大統領としては真っ先に日韓両国の関係修復に着手する必要があったことは間違いない。

 今、冷静にアメリカの立場から見るならば、世界各国とののあらゆる関係の中で、日米韓の関係ほど「いびつな3国関係」はないかもしれない。すなわち、アメリカは日本、および韓国との間で運命共同体的意味合いを持つ密接な「同盟関係」をそれぞれ維持しながら、一衣帯水の国である日韓両国同士はたんなる「友好関係」でしかない。しかもその「友好関係」自体も今日、互いに不信感を募らせた心もとない状態にある。』

『在任中、「アメリカ一国主義」を貫き通し、欧州・アジア同盟諸国との関係を揺さぶったトランプ氏が、この奇妙な日韓関係について1つだけまっとうと思える疑問を呈したことがあった。

 これまでマスコミではあまり報じられたことはなかったが、トランプ大統領は2019年4月、ワシントンを訪問した文在寅大統領との会談の場で、率直にこの“難問”を話題に取り上げた。そのときのやりとりは、会談に同席したジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が辞任後、発刊した回想録の中で暴露している。ボルトン氏はこう記述している:

 「トランプは『韓国は日本と合同軍事演習をやることを欲していないが、(有事の際に)日本とともに戦うつもりがあるのか』と尋ねた。文在寅は率直に『日韓両国は合同演習を行うことはできる、しかし、自衛隊部隊をわが国に入れることは、わが国民に過去の歴史を思い出させることになる』と応じた。トランプは再び『もし、米軍が北朝鮮と戦うことになった場合、どうなるのか、韓国側は日本の作戦参加を認めるのか?』と詰め寄った。文は明確な返事はしたがらなかったが、『この問題は心配していない。いざとなれば、自衛隊がわが国土に踏み入らない限りにおいて、日韓両国は一つになって戦うことができる』とだけ述べた」』

『おそらく今日、バイデン大統領も日韓関係について、同様の懸念を抱いていることは想像に難くない。しかし、同大統領が今後、菅首相、文大統領との間の仲介に乗り出したとしても、根深い国民感情が双方に立ちはだかっている以上、この厄介な3国関係をどこまで前進させられるかは楽観を許さないだろう。』