「ネットは痛みではない」米名門紙復活させたベゾス流

「ネットは痛みではない」米名門紙復活させたベゾス流
ワシントン・ポスト前編集主幹、バロン氏に聞く
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN08C7I0Y1A300C2000000/

 ※ 「報道の自由」と、「表現の自由」は、ちょっと違う…。

 ※ 「表現の自由」は、「考えたり、思ったりしたことを、自由に表現できること」…。「報道の自由」は、「世の中に起きたり、生じたりしていること(事実)を、自由に伝えることができること」だ…。

 ※ 例えば、クーデターが生じたとする…。「生じたということ(事実)」を伝えるのが、「報道の自由」で、それに対して「自分の見解を述べたり、論評を加えたりする」のが、「表現の自由」だ…。

 ※ どちらも、「民主主義」にとっては、その「基盤」となる…。

 ※ 「民主主義」ってのは、被統治者である「国民」が、統治する側に参画していく、統治する任務を担う者を選択していくというシステムだ…。

 ※ そういうシステムがちゃんと機能するためには、自らが統治に参画する資格があること、統治する任務を担います…と手を挙げた者(立候補者)がふさわしい者なのか、見抜く「眼力」を備えている必要がある…。

 ※ そういう「資格」や、「眼力」の形成のためには、世の中に流通している「事実」や「見解・論説」から、的確に「取捨選択」して、「自分なりの判断」を培っていく必要がある…。

 ※ 逆に、報道機関や論者は、そういう「人々の判断形成」に「役に立っているのか」を、「自らに、問いかける」必要がある…。

 ※ SNSやIT機器の発達は、情報の「伝達手段・経路」を大分変えたが、「ことの本質」は変わらない…。

 ※ 基本的には、上記のような「構造」だ…。

『米名門紙ワシントン・ポストを編集トップとして8年間率いたマーティン・バロン編集主幹が2月末で退任した。任期中に同紙の電子版有料読者は約300万人に達し、編集部員数は2倍近い1000人規模に拡大した。2013年10月に同紙を買収したアマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏とともに名門紙を復活させたバロン氏に、ベゾス氏の影響やデジタル化の取り組みなどについて聞いた。(聞き手はニューヨーク=清水石…

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(聞き手はニューヨーク=清水石珠実)

ーー就任から約半年で、ベゾス氏がワシントン・ポストを買収しました。どのような影響がありましたか。

「(ベゾス氏は)買収してすぐにワシントン・ポストは戦略を変えるべきだと指摘した。首都ワシントンや近隣州の住民を意識した記事作りは今までは正しかったかもしれないが、デジタル時代には全米、さらには世界で読まれる媒体を目指さなくてはいけないと語った。ワシントン・ポストは米国政治の中心を取材し、全米で知名度があり、ウォーターゲート事件以来、知られていない真実を掘り起こす報道機関というアイデンティティーがある。(ベゾス氏は)全国の読者に受け入れられる下地があるし、読んでもらえるはずだから、迅速に戦略を変えるべきだと考えていた」

「(ベゾス氏は)インターネットがもたらす『痛み』は受けているのに、なぜ『ギフト(贈り物)』のほうは受け取らないのかと指摘した。ネットは確かに広告という収入の柱を奪った。だが、同時に世界中に追加費用なしで記事を配れるというギフトをもたらす存在でもある。(ベゾス氏が)もう紙の新聞を物理的に届ける必要はないのだから、ワシントン・ポストが全国紙に転換する好機だと気がつかせてくれた」 

ーー就任した時はベゾス氏による買収は想定していませんでした。当初、どのように編集部を変革しようと思っていたのですか。

「業界他紙と同様、ワシントン・ポストの編集部も縮小傾向にあった。軍隊に例えて、規模の大きな米国軍にはなれないが、少数精鋭の特殊部隊になればいいと考えていた。(前職の)ボストン・グローブでもそうした考え方で編集部を運営していた。精密に戦略を立て、正確に実行し、全力を尽くして、あとは結果が出てから考えればいいと思っていた。だが、結果として(ベゾス氏が)買収したことで、こうした縮小型の発想から脱却できた」

米首都ワシントンに本拠を置くワシントン・ポスト紙=ロイター
ーーベゾス氏による買収なしでもワシントン・ポストは成功できたと思いますか。

「可能性はゼロではないが、成功していなかったと思う。ベゾス氏がいなければ、ほかの地方紙と同じように、人員を削減し読者も減るという悪循環に陥っていたと思う。地方紙から全国紙にカジを切るという戦略もなかったし、デジタル化に投資する資金力もなかったからだ」

ーーワシントン・ポストを「全国紙」にするためにどのような変革を行ったのですか。

「全国のジャーナリストをつなぐネットワークを作り、支局のない場所でのニュースも拾える体制を作った。ローカル紙の弱体化で多くの地方在住のジャーナリストが失業したり、早期引退を余儀なくされたりしている。こうした優れた人材が、必要な時に応じてワシントン・ポスト紙に記事を出稿する仕組みだ」

「過去に新聞社での勤務経験がなく、ネット媒体で活躍してきたような人材も雇用するようになった。ワシントン・ポストではなじみの薄かった『フード』や『ネット文化』といったトピックも扱うようにした。ブログも始めた。また、朝イチで読めるコンテンツを作る夜に働くチームを編集部に置いた。こうした取り組みが現在の編集24時間体制につながっていった」

ーーデジタル時代に対応するために、編集部の人材の入れ替えは必要ですか。

「もちろん、ワシントン・ポストはテクノロジーに精通した人材も雇用した。だが、伝統的なジャーナリストの存在の重要性は変わっていない。(デジタル化にカジを切った13年を境に)人材の入れ替えが進んだわけではない。大半の人材がいまでも編集部で働いている。メディアの形態が変わったことを認め、その状況に対応すればいいだけだ。私も旧来型のジャーナリストだ」

「担当する分野に精通した記者はかけがえのない存在だ。編集部は、いい情報源を持ち、きちんとした記事を書ける記者を必要としている。記者が『自分が1番詳しい。この分野で権威だ』と思うことはいいことだと思っている。だが、その記事を読者に読んでもらうためには、デジタル時代に対応する必要がある。対応した形で届けなかったら、対応した別の記者の記事が先に読者のもとに届いてしまうからだ」

ーーデジタル時代になり、「いい記事」「いい記者」の定義は変わったのでしょうか。

「変わっていない。『質の高いジャーナリズム』の定義に変更はない。届け方が変わっただけだ。今までよりもっと早く、デジタル媒体で見やすいかたちで届けることが重要だ。こうした状況に対応することはそんなに難しいことではなく、ワシントン・ポストでは実行した」

ーー24時間の編集体制実現のためのアジアの編集拠点に、韓国・ソウルを選びました。

「香港は、最近の政治混乱を考慮し、選択肢から外れた。東京、シンガポール、ソウルなどが候補になり、コストや移動の利便性の面などからソウルが一番理にかなっているいうことになった。日本もニュース面で大きな存在だが、最近は韓国のほうがニュースが多いと感じている」

ーー報道への関心を高めたトランプ政権が終わりました。今後も読者を獲得できますか。

「トランプ氏の影響でワシントン・ポストが多くの読者を獲得できたことは否定しない。この4年間で、米国民の意識は変わったと思う。報道の自由が脅かされたり、偽情報が出回ったりする状況を体験し、質の高いジャーナリズムを維持するためには購読料を払って支援する必要があると気がついた。トランプ政権の時よりは報道への関心はやや薄れるかもしれないが、報道機関にお金を払うという習慣は根付いたと思う」

ーーネット社会に対応した24時間の報道体制は、報道の現場が目の前の事案に注意を奪われ、長期的な視点が失われる危険性があります。

「電子版のいいところは、有料読者がどんな記事に関心を示しているのかがはっきりと分かることだ。ワシントン・ポストの読者は、奥の深い記事、分析のある記事、調査報道を求めている。ワシントン・ポストでしか読めない記事にお金を払っているのだから、我々はそこに投資する義務がある」

▼マーティン・バロン 米国のジャーナリズムの現場で45年の経験を持つ。大学卒業後、マイアミ・ヘラルド入社。ロサンゼルス・タイムズ、ニューヨーク・タイムズを経て、01年にボストン・グローブ編集主幹に就任。カトリック教会を舞台とした児童への性的虐待の実態を明らかにした同紙の調査報道チーム「スポットライト」の活躍は、同名の映画にもなった。13年1月、ワシントン・ポストに移籍した。フロリダ州出身、66歳。