東日本大震災時も自衛隊は「有事」を意識していた

東日本大震災時も自衛隊は「有事」を意識していた
「想定外」の災害にも“揺るがぬ”国をつくるには
吉田哲 (Wedge編集部員)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/22362

『編集部(以下、── )東日本大震災ではどのような形で出動させたか。

【折木良一(Ryouichi Oriki)】
元統合幕僚長
1950年、熊本県生まれ。72年防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。陸上幕僚長を経て、09年第3代統合幕僚長。12年に退官後、防衛省顧問、防衛大臣補佐官などを歴任した。著書に『自衛隊元最高幹部が教える経営学では学べない戦略の本質』(KADOKAWA)など。
(写真=井上智幸 Noriyuki Inoue)

折木 発災直後、北澤俊美防衛大臣(当時)から「自衛隊は最大何人出せるのか」と問われ、防衛警備上の観点から「12万~13万人」と答えた(当時の自衛隊総数は約24万人)。

 まず航空自衛隊はスクランブル(対領空侵犯措置)、海上自衛隊は警戒監視活動のため、少なくとも一定数の要員は確保しておかなければならない。次に陸上自衛隊は、緊張状態が続いていた南西諸島を担任する西部方面隊第8師団と第15旅団は動かせない。そして関西と関東の政経中枢や、北海道でも防衛警備の観点から1~2の師団、旅団は残しておかなければならないと計算した。』

『── 災害発生時にも、国防上重要な地域の部隊は外せないということか。

折木 大災害があっても、自衛隊の任務は国防。常に頭に防衛警備があり、いざとなれば 優先しないといけない。

 東日本大震災の時も、3月20日過ぎになると、東シナ海において海自護衛艦に対する中国公船からのヘリや小型機による異常接近や、ロシアの電子偵察機や戦闘機の東北沖での活発な活動などもあり、空自のスクランブル件数も大幅に増加するなど警戒監視活動の強化を余儀なくされた。中国もロシアも震災の支援はしてくれたが、国際関係は厳しいものがある。』

『── 自衛隊にとって災害派遣は有事や紛争への対応に役立つのか。

折木 大規模災害対応は、政府、関係省庁はもとより関係機関、自治体、企業、そして国民との連携や協働があって初めてうまくいく。それは専守防衛を国是とする日本国内において、自衛隊を運用するために求められることでもある。すべては自衛隊だけではできない。関係部署との連携が必須だ。

── 自治体との連携はどのような形で進んでいると考えているか。

折木 現在(2020年3月末)、退職した自衛官575人が自治体の防災関係部局に勤務している。自衛隊での知見を生かした避難計画作成や、災害発生時に自衛隊との調整窓口になっている。彼らは自衛隊に何ができて、何を頼めばいいのか、わかっている。

── 民間との連携は何ができるのか。

折木 民間企業は最近、事業継続計画(BCP)を真剣に取り組んでいる。災害などが起きた時に事業計画をどうするかが主体。危機管理への取り組みとして良い動きと言える。自衛隊も教訓を踏まえ、全国の高速道路会社や電力会社などと連携を深めている。災害時の高速道路の優先使用や自衛隊ヘリによる電力会社の発電機の輸送など相互に協力態勢を整えつつある。特に重要インフラについては、今後もリスクを見極めた官民の備えが必要である。』

『── 首都直下地震や南海トラフ地震に対し、いかなる対策をすべきか。

折木 東日本大震災での経験や調整は今後の大災害でも役立つはずだ。ただ、地震は全て態様が違い、被害も異なる。阪神・淡路は直下型で死者6434人、けが人4万3792人。対して、東日本は津波被害が大きく死者1万9729人、けが人6233人だった。

 首都直下地震は阪神・淡路に近いが、東京に国家機能があり、企業や通信インフラも集中している。国家機能をどう早期に復活させるかの観点が必要になる。南海トラフは津波で多くの自治体が機能しなくなる恐れがある。超広域になるので、自衛隊の部隊もすぐに全域で活動するのは不可能に近い。発災直後は部隊近傍での集中的な人命救助になるかもしれない。

 このように、態様が違う中で計画を立て、訓練しておく必要がある。対応にあたっては、全般を指揮統制する司令塔が最も重要だ。』

『── 具体的な司令塔の役割とは。

折木 危機管理は備えと対応の二面ある。備えは平時から人、モノ、組織を整え訓練しておくこと。対応は発災後、速やかに方針を示すこと。その中心が司令塔である組織のリーダーである。どう備えても実際は計画通りにならない可能性が高い。まず人命救助が最優先だが、リーダーにとって重要なのは、全体を見渡して、今、手を打たないといけない所を判断する、優先順位をつけて対応することだ。これは大変厳しい。そうした司令塔の判断についても日頃から訓練しないといけない。』