周恩来という「偉大なるナンバー2」 北京ダイアリー

周恩来という「偉大なるナンバー2」 北京ダイアリー
中国総局長 高橋哲史
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『北京の人民大会堂で5日開かれた全国人民代表大会(全人代)の開幕式で、政府活動報告を読み上げた李克強(リー・クォーチャン)首相はいつになく早口だった。

「私は国務院(政府)を代表して、みなさんから意見を求めたい」。出だしこそ落ち着いた語り口だったが、終わりが近づくにつれ焦ったような話しぶりに変わった。喉の調子があまりよくなかったのか。声をからし、コップの水を口にする場面も目立った。

1時間を超えない…

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1時間を超えないように言われていたのだろう。「中華民族の偉大な復興という中国の夢を実現するために、たゆまず奮闘していこうではないか」。李氏は原稿の一部を省略し、ちょうど1時間で慌ただしく報告を締めくくった。

その間、ひな壇から李氏を見下ろしていたのが習近平(シー・ジンピン)国家主席である。最高指導者として権威と権力を一身に集める習氏の前で、李氏は少し緊張しているようにみえた。

全人代の開幕日である3月5日は、中華人民共和国の初代首相、周恩来の誕生日でもある。1898年生まれの周は、1976年に亡くなるまで27年間にわたって首相を務めた。李氏の大先輩と言っていい。

建国の父、毛沢東が自身の地位を脅かしそうな人間を次々に失脚させるなかで、周は一度も中国政治の表舞台から消えることがなかった。「偉大なるナンバー2」と呼ばれるゆえんである。

6日午前、周とゆかりのある場所を訪ねてみた。全人代が開かれている人民大会堂から東に少し進んだ場所にある繁華街、王府井の「中国写真館」だ。

37年に上海で創業したこの老舗写真館は、50年代半ばに北京に移転する際、周恩来の指示で王府井に店を開いた。「周総理は56年にふらっと来店し、一般の客と同じように列に並んで写真を撮っていったそうです」。古くからここで働く店員が教えてくれた。

そのときの写真が店頭に飾ってある。ただ、周は真ん中にいない。毛沢東の写真が一段高く据えられ、その横には文化大革命で失脚し、のちに名誉回復した元国家主席の劉少奇の写真もある。店員は「毛主席の写真だけ、別の場所で撮ったものです」と付け加えた。

やはり周恩来は永遠のナンバー2なのだ。毛より高い地位をめざさなかったから、生き延びられたにちがいない。

一方で、毛沢東もこの巨大な国家を舵取りするうえで、実務能力にたけ、庶民から愛された周が必要だとわかっていたのだろう。だからこそ、死ぬまで周をそばに置き続けた。

天安門広場の真ん中に立つ人民英雄記念碑は、そんなふたりの関係を象徴するように思える。正面の題字は毛沢東、その後ろ側に記された碑文は周恩来の筆による。毛を支える周の存在がなければ、新中国はどこかで崩壊していたかもしれない。

ふと思った。習近平氏に周恩来のようなナンバー2はいるのか。2030年代を見据えた長期政権をめざす習氏にとって、いちばんの弱点のような気がする。

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高橋哲史 (たかはし・てつし)
1993年日本経済新聞社入社。返還直前の香港での2年間の駐在を含め、中華圏での取材は10年に及ぶ。2017年から2度目の北京駐在で、現在は中国総局長として変わりゆく中国の姿の取材を続けている。
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北京ダイアリーをNikkei Asiaで読む https://asia.nikkei.com/Spotlight/Beijing-Diary?n_cid=DSBNNAR
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