[FT]中国恒大のEV、資金調達も追いつかぬ不動産負債

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『巨額の負債を抱える中国不動産大手、中国恒大集団は電気自動車(EV)業界への野心を抱いて子会社を設立し、マカオで有罪判決を受けたギャンブル好きの億万長者の妻からも資金調達したのに、いまだに1台のEVも販売していない。
中国恒大の創業者、許家印氏は中国の富豪ランキングでトップになったこともある。趣味のポーカーを通じ香港不動産業界の大物たちとの人脈を築いた=ロイター

香港株式市場に上場しているEV子会社、中国恒大新能源汽車集団の株価は今年に入って81%上昇し、時価総額は630億ドル(約6兆7000億円)を超えた。新製品の発売に四苦八苦しているにもかかわらず、米フォード・モーターなど実績あるライバルの時価総額を上回った。

だが、この株価高騰は世界の株式市場に広がる投資家のEV熱を反映したわけではない。親会社の中国恒大が中国当局から1200億ドル(約13兆円)を超える負債を削減するよう求められる中で、影響力のある複数の投資家が中国恒大とその子会社の支援を継続するとの情報が市場に流れたからだ。

クイディティ・アドバイザーズのアナリスト、デービッド・ブレナーハセット氏は同社の株価急騰について「これがバブルでなかったら何をバブルと呼べばよいのか」と首をかしげた。

恒大汽車は1月末、中国恒大および創業者の許家印氏と関わりのある複数の人物を引受先として新株を発行し、34億ドル(約3600億円)を調達すると発表した。これを受けて同社株はその日の取引だけで50%以上急騰した。
戦略的協力関係築く香港不動産業界の大物たち

許氏は中国恒大株の過半数を保有し、中国の富豪ランキングでトップになったこともある。趣味の中国版ポーカーを通じて香港不動産業界の大物たちとの人脈を築いた。その1人、華人置業のトップを務めた劉鑾雄(ジョゼフ・ラウ)氏は2014年に贈賄とマネーロンダリング(資金洗浄)の罪でマカオで有罪判決を受けたものの、香港とマカオの間に犯罪人引き渡し条約がないため香港で自由に活動している。20年1月に中国恒大が発行したドル建て債券に投資したと香港のメディアによって報じられた。
2014年3月、妻の陳凱韻氏㊧とレストランを後にする劉鑾雄氏=ロイター

香港証券取引所の発表によると、1月末の恒大汽車による資金調達では劉氏の妻の陳凱韻氏が4億ドル(約430億円)を出資した。陳氏は民主派として知られる香港の大衆紙、蘋果日報(アップル・デイリー)の元芸能記者で、中国恒大の株式も20年6月末時点で2.4%保有しており、不動産サービス子会社が20年11月に上場する以前から出資していた。

中国恒大への出資者には中国の不動産会社、中渝置地を率いる張松橋氏が関係する企業もある。20年1月にロンドンで最も高額な住宅を購入したことで話題になった張氏も許家印氏のポーカー仲間で、同年9月に中国恒大の社債が下落した時にはこれを買い支えた。

劉鑾雄氏、陳凱韻氏、張松橋氏の代理人にそれぞれコメントを求めたが応じなかった。

香港中文大学(CUHK)で不動産と金融を専門とする胡荣助教授は「香港不動産業界の大物たちは長年、(中国恒大との)戦略的な協力関係を築いている。ビジネス上の利益を共有し合うため密接に共同歩調を取っている」と指摘する。
新たな成長の原動力求め事業多角化

専門家によると、中国恒大は中国不動産市場の成長が鈍化する中で、業務を多角化するために恒大汽車を立ち上げたという。

中国のビジネススクール、長江商学院で会計財務学教授を務める劉勁氏は次のように語った。「中国不動産価格は高騰しすぎたため経済に甚大なリスクをもたらしている。だからこそ不動産大手は新たな成長の原動力を求めている」

中国恒大はサッカーの国内トップチーム「広州恒大」を子会社に持つなど異業種に事業を広げている。恒大汽車も前身は病院経営などを手掛ける「恒大健康」で、スウェーデンのEVメーカーなどを買収後、20年8月に社名変更した。

だが、香港の調査会社GMTリサーチのアナリスト、ナイジェル・スティーブンソン氏によれば、恒大汽車の主要業務は不動産開発だという。恒大汽車のキャッシュフロー計算書をみると同社は高額の不動産投資を継続しており、EV工場にはわずかな資金しか回っていないからだ。

親会社に設定した与信枠からもEV子会社へ資金が流れており、中国恒大が財務健全化に向け資産売却を進めている時に恒大汽車は調達した資金を何に充てるつもりなのかとアナリストらは疑念を深めている。
細る資金調達

20年9月には中国恒大が地元の広東省政府に支援を求める請願書を提出したと一部で報じられ、同社の株価と社債が大量に売られた。同社はこの報道を否定した。

中国恒大は20年10月に増資したが、目標の10億ドル(約1100億円)に対し5億5500万ドル(約600億円)しか調達できなかった。一方、中国当局が同年12月末に銀行の不動産への融資規制を発表し、同社は銀行からの資金調達も制限されることになった。

「外部からの資金調達が厳しい環境で、中国恒大が中国の銀行から融資を受けるのは一層困難になった」とCUHKの胡氏は言う。「より多くの資金を調達して巨額の有利子負債を軽減するには、子会社を経由して資金を得る手もある」

恒大汽車は1月24日付の声明で、新たに調達した資金は「世界最大かつ最強の新エネルギー車グループ」になるという目標達成のために使うとする一方、「債務返済」にも充てると述べた。別の声明では、調達した資金の「大半」を研究開発と製造拠点の建設に投じると強調した。

財務諸表によると、恒大汽車は20年6月時点で中国恒大に対し340億人民元(約5600億円)の負債を抱える。さらに310億人民元(約5100億円)の借入金に中国恒大が保証を付けている。つまり、恒大汽車が自らの負債を軽減すればグループ全体のバランスシートも改善する。恒大汽車は上海の新興企業向け市場「科創板」への上場を計画しており、実現すれば親会社の負債はさらに軽減できる。

一部の投資家は恒大汽車がEVメーカーとしての成功すると期待しているようだ。2月に株価が高騰したのは試作車のテストドライブ動画がオンライン公開されたことがきっかけだった。だが、恒大汽車の成否を左右するのはEVメーカーとしての技術躍進というより、親会社の動向だと投資家の多くはみている。

ブレナーハセット氏は「現状では恒大汽車は実質的に収益を親会社に還流させるための道具のようにみえる」と言う一方で、恒大汽車がいくら資金調達しても「中国恒大集団の負債の大きさを考えれば、大海の一滴にすぎない」と断じた。

By Thomas Hale and Christian Shepherd

(2021年3月4日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/

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