欧州軍、侮れぬ対中圧力 「砲艦外交」で揺さぶり

欧州軍、侮れぬ対中圧力 「砲艦外交」で揺さぶり
本社コメンテーター 秋田浩之
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『<訂正>4日2時に配信した記事中の写真説明に「仏首相」とあるのは「仏大統領」の誤りでした。

国際ルールを乱すような行動を続ける国に対し、主要な国々がとりうる対抗策にはいくつかの段階がある。

まず記者会見や声明で非難する。効き目がなければ経済制裁を科す。さらに必要なら、軍艦派遣などで軍事的な圧力をかける。このうち3つ目の選択肢を欧州の主要国が中国に取り始めた。

中国による香港やウイグル族の人権弾圧や南シナ海などでの強硬な行動に、欧州内でも反発が広がっている。2020年10月に公表された世論…

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2020年10月に公表された世論調査では、中国に否定的な見方の割合が英仏独でいずれも7割以上にのぼった。

そこで、いわば「砲艦外交」によって、中国に欧州の不満と懸念を伝えようというわけだ。欧州各軍は第2次世界大戦後、もっぱらロシア正面への対応に注力してきただけに興味深い変化だ。

特に目立つのが南太平洋にニューカレドニアなどの領土を持ち、数千人の兵力と艦船、航空機を駐留させるフランスの動きだ。2月19日にはフリゲート艦を日本近海に送り、日米と共同訓練をした。

仏は2月8日、攻撃型原子力潜水艦を南シナ海に送ったとも明らかにした。「秘匿性が高い原潜の行動を公表するのは極めて異例だ」(アジアの安保当局者)

攻撃型原潜は「ハンター・キラー」と呼ばれ、敵の潜水艦をみつけ、沈めるのが任務だ。南シナ海には中国が核ミサイル搭載の原潜を配備しているとの見方もあり、対中けん制の狙いは明らかだ。

今夏までには水陸両用艦を派遣し、離島防衛を念頭においた演習も初めて日米と開く方向だ。

仏以外では、英国が年内に最新鋭空母「クイーン・エリザベス」をインド太平洋に送る。今回の派遣期間は数カ月だが、将来的にはほぼ通年、空母をインド太平洋に展開する案が浮上している。

英空母「クイーン・エリザベス」はインド太平洋に派遣されることになった(2017年11月、英南部ポーツマス)=ゲッティ・共同

英仏より海軍力は劣るものの、ドイツも今年、フリゲート艦をこの海域に送る見通しだ。

英仏独の動きについて欧州外交官はこう解説する。「軍艦の派遣は中国への警戒の高まりを示すものだ。対中観はすでに冷えていたが、新型コロナウイルスで多数の死者が出たほか、香港やウイグル族への弾圧で昨年来、大きく悪化している」

中国の軍拡は、欧州の経済権益も脅かしかねない。南シナ海は英仏独の全貿易量の10%前後の物資が行き来する動脈だ。

では中国軍の強硬な行動を抑えるうえで、英仏独の動きはどの程度、効果があるのだろうか。

中国軍の艦船は約350隻に達し、数の上では米軍を超える。欧州から軍艦数隻を派遣したところで、物量でみれば、中国優位の軍事バランスはびくともしない。

しかし、アジアや欧州の安保当局者らによると、英仏独の行動は軍事上、決して無意味ではない。中国軍をけん制するうえで、少なくとも2つの効果を見込める。

第1に英仏独の各海軍がインド太平洋に関与する能力と意思を示せば、中国軍は台湾や南シナ海をにらんだ作戦計画を修正せざるを得なくなる。

万が一、紛争になったとき、日本やオーストラリアに加え、英仏独が何らかの形で米軍を支援することも想定しなければならないからだ。その分、中国が軍事行動に出るハードルは上がる。

具体的には英仏独が直接、戦闘に参加することはないにしても、米軍を間接的に支援することはあり得る。

19年まで仏国防省でアジア戦略などを担ったニコラ・ルゴー仏軍事学校戦略研究所(IRSEM)主任研究員は語る。

「台湾海峡などのインド太平洋で中国が軍事行動を起こし、米国が関与した場合、欧州がただ静観し、何もしないことは考えづらい。たとえば仏英独は大西洋や地中海、中東湾岸で米海軍の活動を肩代わりできる。情報提供や民間人の避難支援など、米軍を支援する選択肢はほかにもある」

第2に英仏が艦船派遣を続ければ、米国主導の新たな海軍協力体制がインド太平洋に生まれることにもつながる。英仏と米日豪などが海上演習を重ね、チームワークを強められるからだ。

そもそも英空母「クイーン・エリザベス」は米軍とのハイブリッド型だ。英国軍だけでなく米海兵隊の艦載機も積み、米駆逐艦が護衛に加わる。

英仏独による軍艦派遣は中国の反発を招き、新たな緊張を招く恐れがある。それでも中国軍が過度に強気になり、台湾海峡や南シナ海で紛争を招くのを防ぐうえで、プラス効果の方が大きい。

対中政策をめぐり欧州が一枚岩というわけではない。ハンガリーやポーランドは政権が強権色を帯び、仏独と距離を置く。欧州連合(EU)は昨年末、中国と投資協定で大筋合意し、対中ビジネスを手放すつもりはない。

EU首脳らは昨年12月30日、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席(左上)とビデオ会議を開いた=ロイター

だが長い目でみれば、欧州の中国への対応は厳しくなっていくだろう。米欧軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)は20年12月1日に報告書を公表し、中国をロシアと並ぶ脅威に位置づけた。

欧州がインド太平洋への軍事的関与を深めるとすれば、日本の役割も増える。空母が寄港し、本格的な整備を受けられる港があるのは、アジアでは日本だけだ。

日本としては英仏独の艦船が定期的にやってくることも想定すべきだ。港の受け入れ体制や共同訓練の計画を整え、欧州の関与を息切れさせない協力が大切になる。

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秋田 浩之
長年、外交・安全保障を取材してきた。東京を拠点とし、北京とワシントンの駐在経験も。北京では鄧小平氏死去、ワシントンではイラク戦争などに遭遇した。著書に「暗流 米中日外交三国志」「乱流 米中日安全保障三国志」。

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