ゆがむ大地、宇宙の目で監視 将来の地震予測に期待

ゆがむ大地、宇宙の目で監視 将来の地震予測に期待
防災フロンティア
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『私たちがその上で暮らしている大地は常に動いている。移動によって各所に蓄積したひずみはあるとき限界に達し、地震を引き起こす。国土地理院は人工衛星の画像を活用して地表のずれや隆起などの変化を精密に監視し、地殻の変動や内部のひずみの状況をつかもうとしている。(矢野摂士)

断層を境に東西にずれ

2016年4月に発生し、熊本県益城町などで最大震度7を記録した熊本地震は、阿蘇山付近から八代海に至る布田川・日奈…

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2016年4月に発生し、熊本県益城町などで最大震度7を記録した熊本地震は、阿蘇山付近から八代海に至る布田川・日奈久断層帯の一部がずれ動いて起きた。だいち2号の観測では、断層を境に震源域の北側の地面が最大1メートル以上沈み込んで東に1.5メートル移動し、南側は30センチ以上隆起して西向きに50センチ以上動いたことが判明した。

国土地理院の地殻変動研究室の宗包浩志室長は「こうした地表面に起きた変化を解析することで、地震のメカニズムや今後の余震域などを推定することができる」と説明する。

こうした研究に使われているのが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が14年に打ち上げた地球観測衛星「だいち2号」だ。

センチ単位で地表観測

だいち2号は地上628キロメートルの高さで地球を南北に周回している。2週間に1回、ほぼ同じ地点の上空を通り、「定点観測」で地表面に生じた変化をとらえる。

搭載されている「合成開口レーダー」はマイクロ波を地表に向かって照射し、反射して戻ってくる電波の強弱によって地表面の形状などを3次元、センチメートル単位で観測できる。

ひとたび大きな地震が起きると、地殻には複雑な力が働き、地表面は隆起・沈下したり、ずれ動いたりする。他にも地面が隆起する火山活動や、地盤沈下などでも活用ができる。

15年に火山活動が活発化した箱根山(神奈川県)の大涌谷では、直径約200メートルの範囲の複数地点で数~十数センチの隆起を確認した。この分析結果は、気象庁が地表に設置した傾斜計のデータと傾向が一致していたという。

活断層、国内に2000

だいち2号のレーダーで地球表面の様子を探る=JAXA提供

地球の表面を覆う硬い岩板(プレート)には、過去の地震などで大小さまざまなひびが入っている。このひびが「活断層」と呼ばれるものだ。

プレートの移動で引っ張られたり押されたりして活断層付近にたまるひずみは大きくなる。ひずみに耐えきれずに活断層が割れ、動くことで起きるのが「活断層型地震」だ。

政府の地震調査研究推進本部によると、日本の陸域には約2000の活断層があると考えられている。それぞれの活断層は、幅や長さ、過去の地震の記録などから、ひずみのエネルギーが解放されると、どれくらいの地殻変動を引き起こすかをおおよそ予想できる。

宗包室長によると、地震によって実際に動いた幅と、活断層が持つポテンシャル(潜在能力)を比べることで断層の割れ残りなどを見極められる。「どれくらい割れ残りがあるかによって、今後の余震や次の地震を予測できる可能性がある」と宗包室長は話している。

人工震動で地下構造探る

名古屋大学や静岡大学などの研究チームは、地上から人工的な震動を地中に送り、岩板(プレート)内で蓄積しているひずみを推測するシステムを開発している。

微小震動を地中に送り、地殻の変動を探る=山岡耕春名古屋大教授提供

精密制御震源ACROSS(アクロス)と呼ばれる装置は、携帯電話のバイブレーション機能のように、重りを高速で回転させることで震動を起こす。地震と同様にたて波(P波)と横波(S波)を同時に発生させることができ、P波とS波の伝わり方の違いによって、地下の構造を探る。

「特にS波は、岩板内の割れ目や地下水の変動があると伝わり方が変化する」。開発に携わっている名大の山岡耕春教授は説明する。

2003年に岐阜県土岐市に装置を設置し、東海地震を引き起こすと考えられている震源域のプレートを観測している。山岡教授によると、観測開始からひずみはたまり続けている。11年の東日本大震災によって一部でひずみが解消したが、全体的にはその後も蓄積が続いており「地震が起きる確率は日々高まっている」(山岡教授)。

地中の観測は地震以外にも有効だ。桜島(鹿児島市)では火山内部のマグマの様子を震動で探る実験にも取り組んだ。山岡教授は「地震も火山の観測も、人工衛星での観測などと組み合わせることで精度を高めることができる」と期待を寄せる。

地震発生の謎、解明の端緒は「パンゲア」

2億年前のパンゲア大陸は、今の大陸がひとかたまりになっていたと考えられている=海洋研究開発機構提供

地震はなぜ起きるのか。その疑問への答えは、約100年前にドイツの気象学者アルフレッド・ウェゲナーが提唱した大陸移動説から導き出された。かつて地球上にあった巨大大陸「パンゲア」が分かれて移動し、現在の複数の大陸が形成されたという学説だ。

地球の表面は十数枚の岩板(プレート)に覆われており、その下では高温で軟らかい岩石(マントル)が対流を起こしている。マントルは海嶺(かいれい)と呼ばれる海底山脈海嶺の下で上昇し、冷えて固まったのがプレートだ。

マントルは海底のプレートの下を通りながら、海溝付近で下降している。このマントルの対流に引きずられてプレートも年数センチの速度で移動している。プレートの移動によってプレート同士の境界などに生じたひずみが地震を引き起こしている。

日本付近では①北米プレート②ユーラシアプレート③太平洋プレート④フィリピン海プレート――の4つのプレートが接し合っており、それぞれの境界を中心にいくつもの地震が起きてきた。

ウェゲナーは大陸の海岸線の形や動物化石の分布、氷河の痕跡などの手掛かりをもとにパンゲアの存在を唱えた。プレートやマントルの存在を予測することまではできなかったが、大陸移動説はプレートが移動しているという「プレートテクトニクス」と呼ばれる学説の基礎となっている。

「防災フロンティア」は今回で終わりです。地震や防災技術の研究はどこまで進んでいるのか。最前線の動きをシリーズで伝えてきました。

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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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ひとこと解説 合成開口レーダー(SAR)の画像は地層の歪みだけでなく、高さの変化も数センチメートルの単位で見ることができる。関西空港のような人工島が沈み込む状態や火山の活動を示す隆起を発見することもできる。衛星画像は既に防災に用いられているが、より多くの解析者が育ち、多くの場所での地震や火山活動などを把握出来るようになることが望ましい。
2021年3月1日 8:25いいね
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