米個人の乱と「日本化」リスク

米個人の乱と「日本化」リスク
証券部副部長 山下茂行
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『米国で「個人投資家の乱」が引き続き話題を呼んでいる。SNS(交流サイト)でつながった無数の個人が米ゲーム専門店、ゲームストップ株を買い上げた一件だ。「デジタル時代の新たな現象」との声も聞かれるが、日本ではネット証券の台頭後、似たような風景が繰り返されており、目新しさは感じない。むしろ、その背後にある経済の変化にこそ気を配るべきだ。

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思い出すのは2006年の「ライブドア・ショック」だ。1万1000~…

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1万1000~1万2000円前後で推移していた日経平均株価は、05年8月の「郵政解散」をきっかけに騰勢を強め、同年末には1万6000円台に達した。個人の人気を集めていたライブドアに06年1月、粉飾決算疑惑から強制捜査が入り、株式市場は大混乱に陥った。

2006年1月18日。「ライブドアショック」で売り注文が殺到した東京証券取引所は、システムの処理能力が限界に近いと判断し通常の終了より20分早い午後2時40分に株式の全銘柄の取引を停止した。

当時、株価急騰から「バブル再来か」といった声も聞かれていたのとは裏腹に、日本経済はデフレに苦しんでいた。日銀は量的緩和の目標の引き上げを繰り返し、短期金利は「消えた」状態が続いていた。

これが株式相場に熱気をもたらしていた。金利が極端に低くなれば、株式から得られるリターンの価値は相対的に高くなり、割高な株価が正当化されやすくなる。その一方、デフレなら株式は長い目でみれば下落するリスクが高くなるので、いきおい短期売買に賭けざるを得なくなる。景気悪化・デフレ局面で強い金融緩和策が採られると、株価と投資家はバブル的な動きをしやすくなるのだ。

これはそのまま今の米国に当てはまる。新型コロナウイルスはワクチンの接種がようやく始まったものの、変異株も多く見つかっており、いつになれば経済活動を正常化できるかは見通せない。また、米国ではリーマン・ショック後、潜在成長率の下方屈折という根の深い問題が盛んに議論されていたことも忘れてはいけない。

だからこそ、米バイデン政権が予定する経済対策は1.9兆ドル(約200兆円)という巨大さだ。中国がリーマン・ショック後に実施した「4兆元対策(当時のレートで約57兆円)」の4倍近い規模だといえば、その規模感をイメージしやすくなるだろう。

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この影響でインフレ圧力が強まる恐れがあるとして、米長期金利が急上昇しているのに、米連邦準備理事会のパウエル議長は「物価上昇は一時的」とそっけない。長期の景気低迷とデフレで金融政策が効かなくなる「日本化現象」の恐ろしさを考えると、多少の副作用なら覚悟のうえで金融緩和を続ける以外の選択肢はないのだろう。

「米個人の乱」の目新しさは、SNSの利用など道具立ての面にある。しかし、その本質はといえば、いつかみた「デフレのあだ花」と同じような臭いが感じられてならない。

[日経ヴェリタス2021年2月28日号]