米サウジ、切るに切れぬ戦略同盟

米サウジ、切るに切れぬ戦略同盟 記者殺害に皇太子関与
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『【ドバイ=岐部秀光】サウジアラビアの政府批判の著名記者殺害事件をめぐり、ムハンマド皇太子の関与を指摘した米政府の報告書は、米国とサウジの戦略的な同盟関係が抱える根深い矛盾をあらためて浮き彫りにした。サウジの不安定さは、米国の影響力が衰退する中東に広がるリスクの大きさを印象づける。

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米国とサウジの特別な関係は、第2次大戦末期、当時のルーズベルト米大統領が、ヤルタ会談の帰路、スエズ運河の洋上にアブドル…

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第2次大戦末期、当時のルーズベルト米大統領が、ヤルタ会談の帰路、スエズ運河の洋上にアブドルアジズ初代国王を招き会談して以来続く戦略的な同盟だ。しかし、そこには常に大きな矛盾があった。

サウジは男女同権や同性愛をみとめないなど、きわめて厳格なイスラム法を維持し、王室による絶対的支配をつづけた。民主主義や自由をかかげる米国の価値観と本来はなじむはずもない。1962年にケネディ大統領の説得で廃止するまでサウジは奴隷制度を維持していた。

人権重視のバイデン米大統領はいま「ふたつのサウジ」に直面している。ひとつは社会の近代化や経済開放を進める新しいサウジ。もうひとつは権威主義的な支配のグリップを強める古いサウジだ。

サウジの首都リヤドに1月、ドライブインシアターが開設された。ほんの数年前まで映画館も女性の運転も認められていなかった。皇太子が進める社会改革が進む新しいサウジの一側面だ。

ショッピングモールのカフェでは家族でない男女が談笑する。かつては泣く子も黙る「ムタワ」(勧善懲悪委員会)が、飛んできて取り締まった。もはや若者たちが宗教警察の影におびえることはない。

皇太子が進める脱石油の経済改革や社会の近代化は、サウジだけでなく地域の長期的発展にとってきわめて重大なものだ。すでに各国がサウジをモデルとする改革に着手している。

一方で皇太子は、アラブ伝統の家父長主義的なリーダーでもある。政敵を排除し強権支配のグリップを強めた。女性の運転解禁を主張した女性活動家ルジャイン・ハズルール氏は今月、約1000日の拘束から解放された。記者殺害事件は古いサウジの象徴といえるかもしれない。

サウジ・ウオッチャーは皇太子が中国流の「民主主義なき発展」をめざす方向に一段と傾斜していると分析する。短期間のうちにこれほど絶大な権力を手にした指導者は珍しい。トランプ前大統領は皇太子に露骨に肩入れし、強権主義や冒険主義的な外交を後押しした。

皇太子はイエメン内戦への介入や隣国カタールとの断交、国内の政敵の強引な排除などを通じて、不必要な難題と敵を増やした。一見すると効率的で安定してみえる強権的な支配には限界がある。10年前、「アラブの春」でもろさを露呈した。

トランプ時代、蜜月の外見とは裏腹にサウジの対米不信は実は深まった。国営石油会社サウジアラムコの重大な石油施設が2019年、イランによるとみられる攻撃を受けたのに、米国は動かなかった。米国とサウジの関係はきわめて危うい状況にある。

人権重視のバイデン政権は対サウジ関係の一定の修正を進めざるを得ない。バイデン氏が事実上のリーダーである皇太子ではなくサルマン国王との電話協議を最初の接触に選んだことには、手続きの正当性を強調するねらいがあった。トランプ氏の娘婿のクシュナー氏と皇太子の個人的な関係で2国間の重要政策が決められた状況と一線を画す。

いまやエジプトに代わるアラブの盟主となり、イスラム教の二大聖地をかかえ、石油市場の最重要プレーヤーでもあるサウジとの関係は米国にとって戦略的に切っても切れないものだ。

皇太子の改革を正しい方向に導くには、米国の指導力と国際社会の協力が不可欠だ。サウジはいま「普通の国」への生まれ変わる重大な過渡期にある。改革が失敗しサウド家の支配が揺らげば、極端な宗教戒律をとなえる勢力や過激派が勢力を取り戻す恐れがある。

サウジの不安定さは、米国による拙速な中東からの撤退が引き起こしかねないリスクの大きさも示している。