「日銀離れ」探る株式市場 ETF減額、正常化へ一歩

「日銀離れ」探る株式市場 ETF減額、正常化へ一歩
編集委員 川崎健
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH2578I0V20C21A2000000/

『日経平均株価3万円達成後の日本株市場で、ひとつの変化が起きている。日銀の上場投資信託(ETF)の買い入れがぱったり止まったのだ。下げ相場の日にも「音なし」の日銀をみて、市場は「テーパリング(購入額の減額)」を織り込み始めた。開始から10年を経過した異形の金融政策は、正常化に向けた最初のターニングポイントにさしかかった。

午前の東証株価指数(TOPIX)の下落率が0.5%を超えた日は、午後に日銀がETF…

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午前の東証株価指数(TOPIX)の下落率が0.5%を超えた日は、午後に日銀がETFを必ず買い入れに動く――。2016年以降は100%の確率で的中してきた「0.5%ルール」の経験則が崩れたのは、2月に入ってからだ。

日銀が最後にETFを買ったのは1月28日(TOPIXの午前下落率は0.86%)。今月に入り、18日(同0.54%)、19日(同0.76%)、24日(同0.89%)と午前の下落率が0.5%を超えた日は3日あったが、いずれも日銀は動かなかった(企業の設備・人材投資に着目した通称「賃上げETF」は除く)。

「日銀が購入額を落とそうとしているのは間違いない。『点検』の公表を前にして、布石を打っているのだろう」。野村証券の池田雄之輔チーフ・エクイティ・ストラテジストは話す。

日銀は3月18~19日の政策決定会合で政策運営の点検結果を公表する予定だ。現行の量的緩和策の効果や持続性を高めるために、長短金利の幅を操作する「イールドカーブ・コントロール」や、ETF購入を中心に手法を見直すとみられる。

「日銀は平時は買い入れをできる限り抑え、相場が大きく下がったときには思い切って買うよう買い入れ方針を変えてくるだろう」。日銀のETF購入の「ウオッチャー」として知られるニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストはこう予想する。

このため、たとえば今の購入目標である年6兆円は廃止し、上限の12兆円は残す方法が考えられるという。そうすれば「相場状況をみながら、0~12兆円の範囲で日銀は柔軟に動けるようになる」(井出氏)。

1月、日銀は1回あたり購入額を昨年10~12月の701億円から501億円に減額した。年約6兆円から約4.3兆円へのペースダウンに相当する。さらに2月は16年以来ずっと守ってきた「0.5%ルール」を破って購入を休止したことは、3月の点検を前に市場が動揺しない購入縮小の幅を探っている表れだろう。

日銀が慎重に瀬踏みするまでもなく、市場は「日銀離れ」を探り始めている。日経平均3万円台という株価が歴史的水準にある現状の相場では「(株価の)リスクプレミアムに働きかける」というETF購入の政策意義が薄れているのは、衆目一致するところだ。

そして、市場は「テーパリング」の先も読み始めている。黒田東彦日銀総裁が時期尚早として封印してきたETFの「出口論」が、市場参加者たちの間で盛んに議論され始めたのだ。

口火を切ったのが、元日銀理事の櫛田誠希日本証券金融社長が「証券アナリストジャーナル」の20年11月号に寄せた提言だ。日銀保有のETFを国民に持ってもらう方法を「あり得る」とし、「目指す意味のある出口論」とした。櫛田氏は10年に日銀がETF購入を始めたときの企画局長を務めていた人物だけに、提言は市場で注目を集めた。

国民にETFを幅広く分配する方法は、モデルがある。1998~99年の香港だ。通貨危機に見舞われた香港金融管理局が外貨準備を使って買った株をETFに仕立て直し、1~2年以上の長期保有の個人には割引価格で幅広く販売した。

「当時の香港の株購入額は市場の8%と今の日銀ETF(7%)に近い水準。99年の相場上昇時にタイミング良く売り切り、個人投資家層を広げた香港の成功例は参考になる」。モルガン・スタンレーMUFG証券の山口毅チーフエコノミストはいう。「政府が日銀から簿価で買い取ったうえで割引価格で広く国民に譲渡すれば、リフレ政策の果実を国民に分配できる」

日経平均が30年半ぶりに3万円を回復しても、この間の日本株の主な買い手は海外投資家と日銀だった。多くの国民は、株高の恩恵を実感できていないのが日本の実情だ。そんな偏った日本株の保有構造を是正するためにも、ETFを割引などインセンティブをつけたうえで幅広く国民に譲渡する「香港スキーム」に対する賛同が増えている。

実は日本でも過去に公的部門が買い上げた株を国民に分配した例がある。戦後の財閥解体によって、戦時中に政府が株価維持で買い占めていた株と財閥から接収した株を、国民に小口化して販売した「証券民主化運動」だ。

「当時は高騰する物価上昇を株価上昇が上回り、国民の間に投資ブームが巻き起こった。戦後すぐに市場全体に占める個人の株式保有比率が70%前後に達した」。証券市場の歴史に詳しい東京海上アセットマネジメントの平山賢一執行役員は指摘する。

「第2次・証券民主化運動」は日銀だけでは決して実現できない。政府や民間金融機関だけでなく、国民の合意があってこそ実現できる案だ。

「日銀ETFをうまく活用すれば、長年掛け声倒れに終わってきた『貯蓄から投資へ』を実現させる可能性があるが、何より世論の合意が必要だ。含み益があるうちに早く議論を始めるべきだろう」。ニッセイ基礎研の井出氏は指摘する。

「異例の措置」と断ったうえで日銀が始めたETF購入は10年が経過し、日銀はついに年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を超えて日本株の実質的な筆頭株主になった。いつまでも出口論を封じていては、保有構造が偏った日本株市場の正常化は遠のくばかりだ。「親がなくとも子は育つ」という。市場はすでに覚悟を決めている。(編集委員 川崎健)