高学歴は賃金2倍に 格差埋める教育アップデート

高学歴は賃金2倍に 格差埋める教育アップデート
パクスなき世界 夜明け前(4)
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『教育は万人に開かれていますか――。

「もうログインしたくない」。米西海岸シアトル市のアドリエン・マックイアンさんの娘、アリアさん(9)は2020年9月、学校のオンライン授業初日で打ちのめされた。生徒同士のあいさつもなく朝から画面を見続ける6時間は苦痛でしかなかった。マックイアンさんは私的な学習活動「ポッド」の利用を決めた。

【前回記事】
中国買い、通貨覇権揺らす 膨張続く「戦時財政」

信頼の置ける隣人や友達同士で教師を雇い、超少人数の授業を受ける。新型コロナウイルスの感染拡大で対面授業が規制された米国で台頭し、情報交換のためのフェイスブックページの参加者は4万人に達した。

アリアさんは午前7時40分から午後2時半まで授業を受けている。教師1人を雇う1家庭あたりの費用は月800ドル。マックイアンさんの家計では食費や光熱費を上回る出費だが、「成長には大事な時期。勉強の質と友人関係を考えれば払う価値がある」。

コロナ禍は各国で一般市民の教育への不安を増幅させた。所得に余裕がある層は教育への支出をためらわない。

米マサチューセッツ工科大の分析では、1963年からの54年間で大学院卒男性の実質賃金は約2倍となる一方、学歴が低いほど賃金も伸びなか…

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米マサチューセッツ工科大の分析では、1963年からの54年間で大学院卒男性の実質賃金は約2倍となる一方、学歴が低いほど賃金も伸びなかった。同大のデービッド・オーター教授はIT(情報技術)産業など「技術の進歩の恩恵は高度教育を受けた者に偏った」と指摘する。

米国の哲学者ジョン・デューイは「教育は社会の進歩と改革の基本的な方法」だと説いた。社会が求める人材は時代とともに変わる。デジタル化の急速な進展に既存の教育システムは追いつかない。高度な教育の裾野をどう広げるか。模索する動きが出始めている。

全米科学財団(NSF)は大手IT企業などと組んで、中高生の段階から次世代テクノロジーの量子技術に触れる人材「量子ネーティブ」の育成を始めた。通常、量子技術にかかわる専門知識は大学で学ぶが、若い世代にも先端の教育機会を広げ、「将来の労働参加の幅を広げる」と意義を強調する。

米IBMは多くの黒人が通う大学で100億円超を投じて量子教育などを充実させる。デジタル時代に続く「量子時代」の到来を見据え、スキルを持つ高度人材育成での格差縮小を狙う。

世界経済フォーラム(WEF)は25年までに自動化で8500万人の雇用が機械に置き換わる一方、9700万人分の新たな仕事が創出されると分析する。日々進歩する技術に対応するには、学び直しができる環境の整備も急務だ。

「必要なスキルを身につけ、より良い仕事を」ロックダウン(都市封鎖)で1億人以上の出稼ぎ労働者の雇用が危機にひんしたインドで、主に低所得者層に職業訓練などを行う施策「スキル・インディア」に人々の関心が集まっている。

オンラインで職業訓練を施し、地域別の労働需要を細かく分析するなどして就労を促す。都市で廃棄物処理の仕事を失った20代の若者は訓練を受け、郊外の地元で携帯電話の修理店を開いた。

より豊かな生活への希望を諦めなければ学びの活力となる。コロナの空白を断絶とするか、新たなスタート地点として転換点とするかは私たち次第だ。

「パクスなき世界」第4部 記事一覧
(1)世界裂く「K字」の傷 民主主義・資本主義の修復挑む

世界は転機にある。20世紀の繁栄の礎となった民主主義と資本主義という価値の両輪は深く傷つき、新型コロナウイルスの危機は超大国・米国の衰えに拍車…続きを読む

(2)コロナが迫る国際協調 反グローバリズムの限界

ブレグジットという保護主義がかえって自由貿易を要求する声を増幅させ、分断がさらなる分断を招く。米ソ冷戦の終結から30年たった世界で「国際協調疲れ」…続きを読む
(3)中国買い、通貨覇権揺らす 膨張続く「戦時財政」

カネ余りとSNSが「狂乱」を生む。コロナ禍で政府の借金は積み上がった。米政府債務は2020年に国内総生産(GDP)比で100%を超し、第2次大戦時に並ぶ…続きを読む
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鈴木一人のアバター
鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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別の視点 日本では大学院を出ても学部生と一緒に就職活動をすることになり、初任給こそ多少の違いはあるが、人事で大きな格差が生まれるわけではないという「格差の解消」がなされている。大学院を出た人ほど昇進するようにできていれば、教育格差が所得の格差につながるが、それがないため、積極的に高等教育を受けるインセンティブになっていないという側面もある。格差を認めれば階級の固定化が進み、格差を縮めればインセンティブが低くなる。そのバランスをどうとるかは各国の社会事情や雇用慣行などを含めて考えていくしかないのだろう。
2021年2月24日 12:35いいね
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山本康正のアバター
山本康正
DNX Ventures インダストリーパートナー
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別の視点 ハーバード等では家庭の所得が一定水準以下であれば奨学金を出すなど教育機会の格差を無くそうという動きが出てきています。大学院卒のところの賃金の格差は大学院での専攻と就職先の業界で見た方が良いかと思います。賃金が上昇しているのは、業界の利益が上昇しているわけですから。また、米国ではそもそも上昇志向の人が奨学金を使ってでも大学院に行く傾向があるため、擬似相関の可能性も否定できないかと思います。日本のデータを見たいです。日本では大学院=モラトリアムの様に扱われていますが、変化が激しい時代では、リスキリングという働きながら学ぶ機会を増やさなければ対応しづらくなります。今ならリモートで大学院に通えますし。
2021年2月24日 14:29いいね
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高井宏章のアバター
高井宏章
日本経済新聞社 編集委員
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分析・考察 「教育は原則、すべて無償に」が長年の持論です。

学歴による所得格差自体は本来、公平性の観点から望ましいもののはずです。出自や人種、性別などで生じる格差と違い、本人の努力と能力で「上」を目指せる。人材配置の最適化で経済全体の成長も促される。

それはあくまで「機会の平等」が確保された上での話ですが、現状はそこからほど遠い。
親の所得が子供の学歴と強い相関を示しているのは、学歴と社会階層の固定化を招きます。すでにその傾向はがっしりと社会に根を下ろしています。

教育は、働き手としてだけでなく、「良き市民」を育む土壌でもあります。長期では社会に大きなリターンをもたらす最高の投資です。
2021年2月24日 12:22 (2021年2月24日 13:33更新)
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