[FT]レバノン 通貨危機で台所から消えた食料品

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM223EK0S1A220C2000000/

『貧困に苦しむ中東レバノンの第2の都市トリポリで路上カフェを営むサミール・ヒーメイダンさん(55)は、大金持ちになれるとはみじんも思っていない。それどころか今や日々の稼ぎは2ドルほどで、生きていくのも精いっぱいだ。

ヒーメイダンさんは「2万レバノンポンドを稼ぐには70~80杯のコーヒーを売らなくてはならない」と話す。これは2年前なら約13米ドルに相当したが、今では闇相場で2ドル20セントにしかならな…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

残り2407文字

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

有料会員に登録する
https://www.nikkei.com/r123/?ak=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXZQOGM010QT001022021000000&n_cid=DSPRM1AR07

無料会員に登録する
https://www.nikkei.com/r123/?ak=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXZQOGM010QT001022021000000&n_cid=DSPRM1AR07#free

ログインする
https://www.nikkei.com/login

これは2年前なら約13米ドルに相当したが、今では闇相場で2ドル20セントにしかならない。このため「子どもと自分の朝食もままならない」うえに、息子2人に加えて両親と妹も支えなくてはならないとため息をつく。

経済危機に新型コロナが追い打ち
1年余りに及ぶ経済危機に、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が重なり、レバノン経済はハイパーインフレ、失業、貧困の急増にあえいでいる。2020年の民間部門のフルタイムの雇用者数は前年比4分の1減り、国内総生産(GDP)は5分の1近く縮小した。

一方、金融危機により預金者はドル口座から自由に資金を引き出せず、20年8月に起きたベイルートの港湾地区の大爆発が追い打ちとなり、内閣は総辞職に追い込まれた。

もっとも、貧困地区に最も大きな打撃を及ぼしているのは「ドル危機」だ。通貨レバノンポンドは24年にわたりドルに固定されてきたが、暴落しつつある。

レバノンポンドは1997年以降、1ドル=約1500ポンドで固定されてきた。レバノン中央銀行は国民の購買力を保ち、食品の8割など海外からの輸入に大きく依存するレバノンで輸入品の価格を維持するために、固定相場制の堅持に努めた。だが2019年半ばに国内銀行のドルの流動性が枯渇し始めると、固定相場制は崩れだした。公定レートはなお残るが、ごくわずかな生活必需品の輸入業者以外は利用できない。先週の闇相場では一時1ドル=9500ポンドとなった。

インフレも加速している。レバノン中央統計局によると、20年12月の食品とノンアルコール飲料の平均価格は前年同月比402%増えた。

政権は20年8月の総辞職までに国際通貨基金(IMF)からの支援条件で折り合えなかった。後を継いだのは暫定政権にすぎず、IMFとの協議は進んでいない。世界銀行はレバノン国民の5分の1以上が「極度の貧困」状態にあるとしている。

飢えは国内の混乱を再燃させるとみられている。反政府デモは新型コロナの感染拡大で沈静化したにすぎない。

市民の我慢は爆発寸前
トリポリの社会運動家サラ・アル・シャリフ氏は、トリポリでは「数十年に及び軽視されてきたうっぷんが近く爆発するだろう」と予測する。緊張は既に再び表面化しつつある。1月には新型コロナの規制に反対する抗議デモのさなかに、一部が暴徒化しトリポリ市庁舎に火を放った。

中銀は事実上の通貨切り下げに見舞われても、基本的な食品の価格を維持している。

だが、輸入品は闇市場のドルで支払わなくてはならない。ベイルートの貧困地区で肉屋を営むムハンマド・アリさんは、食肉価格は19年から約3倍に跳ね上がったと話す。「全ての肉が輸入品だ」と述べ、フックでつるした肉の塊を「これはブラジル産だ」と指さした。

「政府は経済危機の主因であるドル問題を解決すべきだ」。アリさんは訴える。「以前は1日5万レバノンポンドで家族を養えたが、今では15万ポンド以上かかる」と嘆いた。利益はすぐに蒸発するため、4人いた従業員を解雇し、今では1人で店を切り盛りしている。

中銀のサラメ総裁は外貨準備率が低迷しており、中銀は補助金の打ち切りを迫られると繰り返し警告している。物価は既に上昇し始めている。政府は2月、ピタパン1袋の価格を40%引き上げ、1750レバノンポンドとした。

地中海沿いの街でも魚は口にできず
ヒーメイダンさんが息子と暮らす1間の家のがらんとした冷蔵庫の中で、ピタパンは最もおなかにたまる食べ物だ。他には数少ない国産品であるジャガイモ、卵、オリーブ、皿半分のヨーグルトに加え、輸入品のレンズ豆しか入っていない。地中海に面したトリポリは魚介類で有名だが、ヒーメイダンさんは20年春の断食月(ラマダン)以来、魚を口にしていない。それでも食料品店にはツケがたまっている。

ヒーメイダンさんは「下の息子のことが心配だ」と打ち明ける。10歳になるヤヒヤ君の年齢の時には、ヒーメイダンさんは既に学校に通っていなかった。ヤヒヤ君の教科書を買う余裕はなく、19歳の兄イーハブ君は職に就いていない。

仕事がないことでヒーメイダンさんは既に息子を1人失っている。シリアの反政府勢力は21歳の息子に、戦闘員になれば月500ドルの報酬を払うと約束した。ヒーメイダンさんは自分の携帯電話を開き、息子の写真を見せてくれた。「ここで仕事があれば、シリアで命を落とさずに済んだ」と話し、画面にキスした。

ヒーメイダンさんは老朽化した10階建てのビルの屋上にある自宅から、近くの丘を見つめた。丘の上には城のように広大な地元の政治家の豪邸がそびえ立つ。

「彼は丘の上に豪邸を建てたが、私たちにはパンを買うお金もない。レバノンは天国のような場所であるはずなのに、多くの政治家とその取り巻きのせいで市民は貧しい暮らしを強いられている」

By Chloe Cornish

(2021年2月21日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/

(c) The Financial Times Limited 2021. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

英フィナンシャル・タイムズ(FT)と日経新聞の記者が、アジアのテクノロジー業界の「いま」を読み解くニュースレター「#techAsia」の日本語版をお届けします。配信は原則、毎週金曜。登録はこちら。
https://regist.nikkei.com/ds/setup/briefing.do?me=B009&n_cid=BREFT053