緩和縮小の議論はいつ? FRBのジレンマ

緩和縮小の議論はいつ? FRBのジレンマ
金融政策・市場エディター 大塚節雄
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODB154SH0V10C21A2000000/

『金利を占う上で最も注目されるのは、米連邦準備理事会(FRB)の政策動向だ。しかし、パウエル議長は超金融緩和の出口論を封印している。拙速な緩和縮小のメッセージが、目先の市場混乱を呼び込むことへの警戒も強い。ただ本来なら、長い目でみた市場安定には正常化議論を早めに始める必要がある。過熱する株式市場と強まる米長期金利の上昇圧力のなか、薄氷を踏むような政策運営が続く。…

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過熱する株式市場と強まる米長期金利の上昇圧力のなか、薄氷を踏むような政策運営が続く。

「出口論」封印も 消えぬテーパリング議論
「(新型コロナウイルスの)パンデミックを乗り切ったと確認するまで政策の変更には動き出さないし、撤退を考えることさえしない」。パウエル氏は10日の講演の後、専門家との質疑応答でこう断言した。

昨年末以降、ワクチン普及や大規模な財政政策の進展から米景気の回復期待が高まり、米長期金利の上昇の勢いも強まっている。ここであえて「粘り強い金融緩和姿勢」を貫くことで市場を安定させ、経済正常化への道筋を確かなものにしたい思惑がある。

1月上旬。アトランタ連銀のボスティック総裁をはじめ、複数の連銀総裁らから量的緩和の縮小(テーパリング)への言及が相次いだ。市場が早期縮小を意識し始めると、パウエル氏らはすかさず火消しに回った。2月17日に公表した1月下旬開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨では、参加者の総意として緩和縮小の条件が整うには「しばらく時間がかかる」との判断を記し、一枚岩を演出した。

正常化シナリオそのものが封印されたわけではない。むしろ経済が回復に向かうほど「コロナ後」の議論を急ぐ必要が生じる。緩和縮小が絵空事とは言えない環境になりそうだからこそ、市場の反応を考えると、軽々には口に出せなくなっているのだ。

13年の悪夢、市場混乱の回避優先
FRBはコロナ危機下の2020年3月、ゼロ金利の復活とともに、米国債などを大量に買う量的緩和を再開した。現在は米国債を月800億ドル(8.5兆円)、住宅ローン担保証券(MBS)を月400億ドルのペースで増やしている。

正常化はどんな手順で進むのか。将来指針(フォワードガイダンス)によると、現行の量的緩和は雇用最大化や物価安定に「顕著な進展があるまで」続ける。利上げには、最大雇用の達成や「2%超のインフレ率の定着に向けた動き」など、より厳しい条件を設けた。利上げはFOMCメンバーの大勢が24年以降を見込む。

最初の関門がテーパリング。13年には当時のバーナンキ議長が市場の意表を突いてテーパリングを予告し市場の混乱「テーパー・タントラム」をもたらした。その再来は絶対に避けなければならない。だから出口論は封じよう――。これが最近のFRBの姿勢だ。

量的緩和→利上げ、十分な時間が必要
ここでジレンマが生じる。当時の混乱の原因を振り返ると、突然の「予告」に市場が驚いたことが大きい。さらに市場関係者が「テーパリング」と「利上げ」を一体的にとらえていたため、予告が利上げ観測に直結した。

とすれば、混乱を避けるには、まずテーパリングの議論を事前に少しずつ市場に織り込ませる必要がある。昨年12月のFOMCでは「検討状況を前もって明確に市場に伝える」方向でおおよその合意を得た。出口論を封じた1月FOMCの議事要旨でも、この方針については改めて堅持した。

緩和縮小と利上げをはっきり区別することも重要だ。将来指針で両者の解除条件に明確な違いを設け、時間差を生むようにした。緩和縮小は「段階的に進める」としており、量的緩和の終了までは少なくとも1年近くかかる。その後、保有残高を一定に保ちつつ、利上げを瀬踏みする時間帯も必要だ。

前回のテーパリング(量的緩和第3弾)では、縮小開始から利上げまで2年かかった。仮に利上げを24年だと想定すれば、22年には緩和縮小を始めないと窮屈だ。議論は年内に着手しないと間に合わない。この状況を意識してか、サンフランシスコ連銀のデイリー総裁は「経済の進展に合わせ22年の購入ペース減速を考える」と発言した。

慎重さがあだに? 市場に疑心暗鬼の恐れ
カギを握るのは雇用情勢だ。パウエル氏は講演で「強い労働市場には遠い」と強調し、目先のインフレ圧力は気にせず、とことん雇用改善を追求する構えだ。失業率は昨年4月の14.8%から21年1月に6.3%まで下げたが、危機前の3.5%や、FRBが雇用安定の目安とする4.1%には遠い。職探しをあきらめる人が急増し、失業率が見かけ上、下がる「質の悪化」も進む。

FRBは21年末の失業率を5.0%と見込む。質の改善を伴いつつ、4%台が見通せるかどうか。ここがテーパリング議論開始の1つの目安になりそうだが、FRB高官からヒントはない。

パウエル氏の雇用重視の姿勢は、国際舞台で「ゴー・ビッグ(大胆な財政出動を)」と唱えた前任のイエレン米財務長官と重なる。財政と金融の両輪で労働市場を過熱し、経済の基礎体力を強める「高圧経済」だ。今は「パウエル・イエレンドクトリン(原則)」に沸く市場だが、FRBが市場との対話を怠ると、次の一手に疑心暗鬼となる恐れもある。慎重さがかえって13年の再来を招くリスクを背負い込んでいないか。それが気がかりだ。

[日経ヴェリタス2021年2月21日号より抜粋]

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永浜利広
第一生命経済研究所 首席エコノミスト
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分析・考察 米国ではリーマンショック後に量的緩和に突入し、大幅に株価は戻りましたが、2013年5月に当時のバーナンキFRB議長が突然テーパリングを予告し、株価が急落しました。
これが俗にいうバーナンキショックですから、恐らく今回も株価上昇にとどめを刺すのはFRBによるテーパリング予告になるでしょう。
今回はリーマン時以上の量的緩和で株式市場にもより大量の資金が流入してますから、調整もより大きくなるような気がします。
2021年2月22日 8:15いいね
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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
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ひとこと解説 中央銀行が経済の中心になって久しい。次の最大の関心事は、合理的バブルを後押しした金融政策と財政政策について、いつ「正常化」できるのか。だが、パウエルFRBはマーケットと対話をする、と宣言し、イエレンはガンガンお金を出す、という。株価だけを見てそろそろ怖い、と思っても、金融政策と財政政策へのど真ん中の意思を確認できた以上、当面合理的バブルは続く、と考えるのが自然なのではないか。
2021年2月22日 8:39いいね
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