世界裂く「K字」の傷 民主主義・資本主義の修復挑む

世界裂く「K字」の傷 民主主義・資本主義の修復挑む
パクスなき世界 夜明け前(1)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL0169D0R00C21A2000000/

『世界は転機にある。20世紀の繁栄の礎となった民主主義と資本主義という価値の両輪は深く傷つき、古代ローマで「パクス」と呼ばれた平和と秩序の女神は消えた。新型コロナウイルスの危機は超大国・米国の衰えに拍車をかけ、世界の重心は力を増す中国に傾く。あなたは歴史の転換を傍観するだけですか――。

【関連記事】
民主主義再生、法の支配を砦に フクヤマ氏
いまは夜明け前 「パクスなき世界」を考える

「『トランプ』はどこにでもいる」。トランプ前米大統領の支持者らによる米連邦議会議事堂の襲撃から一夜明けた1月7日、欧州連合(EU)のトゥスク前大統領は世界に警鐘を鳴らした。

ドイツでは昨夏、極右勢力が国会議事堂に侵入を図った。オランダの地方都市の首長はコロナ下の夜間外出禁止に反発する暴動をみて「内戦になる」とおびえた。トランプ氏本人は権力の座を去る前、イラクで市民殺害に関与し有罪判決を受けた米民間軍事会社の4人を恩赦した。国連の専門家グループは「正義への冒とくだ」と批判する。

古くから「夜明け前が最も暗い」という。私たちはいま内なる敵と外からの脅威を同時に抱えている。世界を内から切り裂くのは「Kの字」の傷だ。米国の上位1%の富裕層は資産全体の3割を握る。コロナ下の財政出動と金融緩和で株価は上がり、持つ者と持たざる者の差はさらに開いた。

力の逆転という外部環境の激変が追い打ちをかける。中国の名目国内総生産(…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

残り1041文字

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

有料会員に登録する
https://www.nikkei.com/r123/?ak=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXZQOGM010QT001022021000000&n_cid=DSPRM1AR07

無料会員に登録する
https://www.nikkei.com/r123/?ak=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXZQOGM010QT001022021000000&n_cid=DSPRM1AR07#free

ログインする
https://www.nikkei.com/login

力の逆転という外部環境の激変が追い打ちをかける。中国の名目国内総生産(GDP)は2028年にも米国を抜く。30年代とみられていた時期がコロナ禍で早まり、35年に中国と香港を合わせたGDPは日米合計を上回る勢いだ。中国は共産党の支配体制を守るためなら自由や人権を犠牲にすることもいとわない。

1カ月前、第46代米大統領に就いたジョー・バイデン氏は「民主主義はもろい」と語る。古代ギリシャ以来、2500年以上の歴史を持つ民主主義は長く衆愚政治に陥ると忌避された。それがこの2世紀ほどで自由や法の支配という価値と結びつき、経済成長に伴って普遍的価値に高まった。

そして今。豊かさが行き渡らず、人の声に耳を傾けない不寛容が広がる。英歴史家エリック・ホブズボームは民主主義を実現する条件の一つに「富と繁栄」を挙げた。民主主義と資本主義を磨き直し、闇のなかで未来を探る挑戦が始まった。

「今こそ大胆に動くべきときだ」。米財務長官に就いたジャネット・イエレン氏は12日、主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁に訴えた。バイデン政権はコロナ禍からの脱却を最優先し、1.9兆ドル(約200兆円)の「米国救済計画」の実現を急ぐ。家計への追加現金給付や失業給付の上乗せなどをめざす。

米製造業の雇用は約40年間で4割弱、700万人減った。バイデン政権は中間層の復活を掲げるが、税制改革などで格差を是正し、中間層に厚みをもたらすのは時間がかかる。「K」の傷を癒やすにはまず底辺を支え、引き上げるしかない。

バイデン、イエレン両氏が胸に刻むのは副大統領、米連邦準備理事会(FRB)幹部として支えたオバマ政権の教訓。リーマン危機後の09年に発足したオバマ政権は医療保険改革に注力して雇用回復が後手に回り、最初の中間選挙で大敗した。

1.9兆ドルの財政出動は米国のGDPの1割近い規模となる。その大盤振る舞いに、同じく民主党政権で財務長官を務めたローレンス・サマーズ氏は「未知の領域だ」と経済の過熱を警戒する。

財政措置が大きすぎ、増税などで資金を吸収できなければ、急激なインフレやバブルの発生・崩壊などの深刻な打撃を経済にもたらしかねない。社会はさらに傷つき、24年の次期米大統領選で「トランプ」に再び取って代わられる――。そんな未来さえ引き寄せるリスクのある賭けにバイデン政権は打って出た。

「私たちの無為や怠惰は次世代に引き継がれる」。1月20日、バイデン大統領の就任式で詩を朗読した22歳のアマンダ・ゴーマンさんは「新たな夜明け」へ行動を呼びかけた。価値の修復への挑戦はあすも続く。

パクスなき世界へ
クリックすると「WE THINK」ページへ
WE THINK

多様な観点からニュースを考える
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

小平龍四郎のアバター
小平龍四郎
日本経済新聞社 編集委員
コメントメニュー

分析・考察 資本主義と民主主義の関係について考えさせられる記事です。
分配の問題を軽んじる資本主義は中間層を痩せ細らせ、文章にあるような「人の声に耳を傾けない不寛容」を産みます。効果的な分配機能を市場経済の中に埋め込む必要があります。「お金持ちの富が滴り落ちて社会全体に行き渡る」と考えるトリクルダウン理論が現実的ではないことを、多くの人は直観的に理解していると思います。
上手に設計されていない分配政策はインフレやバブルのリスクを孕みますが、現状を放置する危うさはさらに大きいと考えます。
2021年2月22日 8:49 (2021年2月22日 8:51更新)
いいね
6

菅野幹雄のアバター
菅野幹雄
日本経済新聞社 ワシントン支局長・本社コメンテーター
コメントメニュー

ひとこと解説 「世界の強権国家は力を拡大して米国と対峙しても、代償を払わなくて済むと分かってきている」。米政治学者フランシス・フクヤマ氏は関連記事でこう語っています。
「忘れられた人たち」に寄り添うと訴えたトランプ前大統領は強権的な手法で共和党を「個人崇拝の政党」(フクヤマ氏)へ変質させ、強固な支持層をつかみました。彼らの怒りの根底にある格差は埋まらず、新型コロナウイルスで米国の死者が50万人に迫る災禍を招いたのはトランプ氏の負の遺産。それでも不満は「正統性を欠いた大統領」と彼らがみなすバイデン氏に向かいます。
「底辺の引き上げ」を目に見える形で達成できるのか。民主主義の再建は険しい道です。
2021年2月22日 8:44いいね
4