韓国、通貨危機以来の就職難 雇用創出「官」頼みに限界

韓国、通貨危機以来の就職難 雇用創出「官」頼みに限界
ソウル支局長 鈴木壮太郎
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM17BVX0X10C21A2000000/

『新型コロナウイルス禍の長期化が韓国の雇用を直撃している。1月の就業者は前年同月比で100万人近くも減った。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は15日、「(1997年の)通貨危機以降、最も深刻な雇用危機だ。あらゆる手段を動員して総力挙げて対応する」と語った。だが、「官」頼みの雇用創出は手詰まり感が色濃い。

夢絶たれる若者
大学の航空学科で学んだグ・ソジンさん(25)は客室乗務員になる夢が絶たれた。航空会…

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航空会社に就職する準備を進めてきたが、昨春の卒業直後にコロナ感染が爆発。試験を受ける機会を失った。採用再開を待ちわびたが、コロナはますます猛威を振るい、航空会社の経営もさらに悪化した。年明けになんとか非正規職で金融機関の受付の職を得たが、夢は諦められない。「コロナが落ち着いたら、また挑戦したい」と語る。

大学で舞踊を専攻したキム・スンアさん(23)もコロナで人生設計が狂った。舞踊やピラティスの指導者をめざしたが、コロナで教室が閉鎖され、就職できなくなった。現在は食堂でアルバイトをしながら、ピラティスのインストラクターの資格を取るのに必要な資金をためている。

ふたりは仕事があるだけ、まだましな方かもしれない。韓国の就職難はコロナ以前からの現象だ。最低賃金の大幅な引き上げや残業規制の強化で人件費負担が重くなった企業や自営業者は採用を抑制した。そこにコロナが追い打ちをかけた。飲食店や娯楽施設、スポーツ施設の営業が制限され、廃業に追い込まれた店も多い。アルバイトの求人はさらに減り、バイト先すら見つからない人も多い。

飲食店も自動化が進み、雇用が減る一因に(ソウルの軽食店に設置されたキオスク端末)

雇用対策の「からくり」

統計庁が10日発表した1月の雇用動向は、こんな厳しい現状がくっきりと浮き彫りになった。就業者数は2582万人と、前年同月比で98万人減った。11カ月連続の減少で、落ち込み幅は通貨危機後の1998年12月に同128万人減となって以来の大きさだ。失業者は同42万人増え、失業率も同1.6ポイント悪化の5.7%となった。

就業者の減少幅がいちばん大きいのが15~29歳の若者で、同31万人の減少だった。飲食店や宿泊施設など、若者を多く雇用する業種の業況が悪化したためだ。若者の失業率は9.5%と、同1.8ポイント悪化した。

注目すべきは、60歳以上の高齢者の就業者が減少に転じたことだ。昨年12月は同25万人増だったが、1月は一転して同1万5000人減った。2017年の文政権発足後、50歳未満の就業者が減り続ける一方、60歳以上の就業者は増え続けた。少子高齢化による人口構成の変化の影響が大きいが、それだけが理由ではない。高齢者の雇用が1月に減少に転じた理由を探ると、4年間で100兆ウォン(約9兆6000億円)を投じた韓国政府の雇用対策のからくりが浮かび上がる。

高齢者の雇用の多くは、公共機関が賃金を払って地域の清掃や交通整理、軽食づくりなどを委託するパートタイムの「財政雇用事業」だ。1月に高齢者の就業者が減ったのは昨年度の事業が年末で終了したことや、大寒波や豪雪で高齢者の公共就労事業が中断されたことが要因だ。

「税金バイト」

「若者と若年層の雇用悪化が続いている。雇用の二極化は収入の二極化につながる。政府はこうした雇用状況を厳重に認識し、非常対策を直ちに講じるように」

「雇用機会を大幅に拡大するため、まずは公共部門の呼び水の役割を強化する。第1四半期までに90万以上の直接雇用を創出する計画を履行する」

文氏は16日、居並ぶ閣僚にこんな指示を飛ばした。だが政府の計画をみると、90万の半分は前述した高齢者雇用だ。保守系大手紙の朝鮮日報は社説で「大統領の『特段の対策』とは結局『税金バイト』だ。小遣い配りが『雇用創出』だという。こんなニセの数字で雇用が増えたと自慢するのだろう」と、痛烈に批判した。

韓国では高齢者の貧困が深刻な社会問題だ。税金で高齢者の働き口をつくることが一概に悪いとはいえない。だが、より重視されるべきは若者や女性に「良質な雇用」を提供することだろう。政府は韓国電力や韓国土地住宅公社、国民健康保険公団など公共機関の今期採用を前年比で45%以上増やすというが、公共部門の肥大化は行政の効率を低下させ、好ましいとはいえない。

カギ握る民間

カギを握るのは民間だ。韓国政府は限定的な範囲で規制を適用する「サンドボックス制度」の対象を研究開発やモビリティー分野にも広げるほか、ベンチャー企業への支援強化、雇用を維持・拡大する企業への税控除などで民間部門の雇用拡大を促す。ただ、政府の対策には企業が求める「規制緩和」という文言はない。

全国経済人連合会傘下のシンクタンク、韓国経済研究院は「雇用改善には公共部門だけでは限界がある。規制緩和や経営環境の改善など、民間経済の活力向上で持続可能な雇用創出がなされなければならない」と提言する。

鈴木壮太郎(すずき・そうたろう)
1993年日本経済新聞社入社。産業記者として機械、自動車、鉄鋼、情報技術(IT)などの分野を担当。2005年から4年間、ソウルに駐在し韓国経済と産業界を取材した。国際アジア部次長を経て、2018年からソウル支局長。