米国のインフレ率と長期金利 中曽宏氏

米国のインフレ率と長期金利 中曽宏氏
大和総研理事長
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『米国の家計貯蓄残高が急激に積み上がっている。2020年9月まで1年間の預金等の増加額は2.8兆ドル(約290兆円)に達する。コロナ対策の家計向け現金給付や失業給付金支払いの一部が、金融資産や実物投資に向かっていると思われる。各種資産価格の上昇率がコロナ禍後のボトムと比べ、NYダウ平均株価で約70%、S&Pケース・シラー住宅価格指数は約9%、ビットコインが約8倍と、いずれも高い伸びを示しているのはそ…

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各種資産価格の上昇率がコロナ禍後のボトムと比べ、NYダウ平均株価で約70%、S&Pケース・シラー住宅価格指数は約9%、ビットコインが約8倍と、いずれも高い伸びを示しているのはその証左であろう。

バイデン政権の経済対策は1.9兆ドルにのぼる。1人当たり1400ドルで総額5000億ドル近い家計への現金給付や、失業保険増額の期限延長などの追加支援が含まれる。経済が上向けば家計の所得はさらに増え、貯蓄は一段と積み上がるだろう。

中曽宏・大和総研理事長(前日銀副総裁)

問題は、これが米国のインフレ率を押し上げることになるかだ。家計貯蓄の積み上がりは膨大で、仮に3分の1程度が消費に回れば米国の民間消費(約14兆ドル)と比べ十分に大きな金額となる。実際には雇用が回復し、需給ギャップが改善するまでは、物価の感応度が急速に高まることはないかもしれない。

しかし、潜在的な消費需要の大きさを踏まえると、今年後半から来年にかけ、ワクチン接種が進むことで消費者心理が上向き、完全雇用に向かう中で需給ギャップが改善されれば、インフレ率が上昇する可能性は相応にあるだろう。しかも、米連邦準備理事会(FRB)は「平均物価目標」のもとで2%を超えるインフレ率を許容する構えだ。インフレ率は2.5%を超える水準に達することも想定できなくはない。

この場合の米国長期金利への影響はどうか。現在、米国長期金利は緩やかに上昇しているが、依然として低水準にあり、債券市場はこれまでのところ、インフレ率の上昇を十分に織り込んでいないとみられる。しかし、期待インフレ率を示す一部の市場指標やサーベイ結果は20年の半ば以降、着実な上昇傾向をたどっている。インフレ率が予想以上に早く2%を上回る水準まで上昇すれば、市場はFRBの政策調整を視野に入れるので、長期金利への上昇圧力も高まることになるだろう。

米国長期金利の上昇が世界経済に与える影響を考えてみよう。日本経済にとって米国の追加経済対策は、輸出増を通じてプラスに寄与するだろうが、日銀のイールドカーブ(利回り曲線)コントロールで超長期ゾーンを除いて金利は抑え込まれるだろう。結果としてイールドカーブは急勾配化するが、実体経済への影響は大きくなく、むしろ機関投資家にとっての投資機会が提供されるというのがこれまで得られた知見である。

これに対し、ドル建ての債務が積み上がった一部の脆弱な新興諸国は、米国金利の上昇で借り入れコストの上昇や資金流出の問題に直面し、経済にとって逆風となる可能性がある。バイデン政権では増税も検討対象で、米国長期金利の上昇は基本的に一時的と考えられる。しかし、長引けば新興国経済の調整圧力はより大きくなり、世界経済にとってかく乱要因となりうる。