[FT]英特別ビザだけでは満たされぬ香港市民の脱出

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『昨年、香港で弾圧姿勢を強める中国に対する激しい抗議活動が起きた時、ウィンさんは何としても活動に身を投じたいという衝動に駆られ、会社近くでの抗議デモに参加した。

だが、デモの常連に対する警察の残虐行為を目の当たりにして怖くなり、先月、英国に脱出した数千人の同胞の列に加わった。彼女は報復を避けるため、ウィンという広東語の名字だけ明かした。

「香港国家安全維持法の施行後、何が起こるか分からなくなり恐ろし…

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「香港国家安全維持法の施行後、何が起こるか分からなくなり恐ろしくなってロンドンに逃れてきた」。ウィンさんはあらゆる抗議活動を違法とする過酷な新法を挙げてそう語った。

香港から英国へ新たにやってきた人々のほとんどは英政府が昨年提供を約束した特別ビザ(査証)を利用している。「英国海外市民(BNO)旅券」を保持または受給資格を持つ300万人の香港市民が対象で、英市民権を取得しやすい仕組みになっている。

中国政府発行の旅券では難しい永住権取得

しかし香港の地域団体によると、20代の若者をはじめ数千人の香港市民は中国政府発行のパスポートを使って6カ月間の英観光ビザを取得し、英国入りしてから難民申請しているという。こうした人々が永住資格を取得するにはBNO旅券保持者よりも複雑で時間がかかるなど様々な負担を強いられる可能性が高い。

27歳のウィンさんは1997年7月1日の英国から中国への香港返還以前に生まれているため、両親が返還前に手続きさえしていればBNO 旅券を得る権利があった。しかし、両親が登録を怠っていた。

昨年9月、香港定住援助コミュニティ(ARC)をロンドンに開設した代表のフレッド・ウォン氏は、国家安全法の下では難民申請するほかに道はないと多くの住民が感じていると話す。同法についてウォン氏は世界中で「最も理不尽な制度だ」と断じた。

香港市民の受け入れ国はごく少数

同氏によると、台湾やオーストラリアなど他国が移住を認めてくれるまで英国で観光ビザを延長しながら「時間稼ぎ」をする人もいるという。現在、香港市民を受け入れているのは英国などごく少数の国に限られている。

ウォン氏は香港市民が英国を選んだ理由について「多くを失うことになっても純粋に身の安全と安定を優先した」と述べ、「彼らがいかに切羽詰まっているかがわかる」と指摘した。

ウィンさんはロンドン東部にあるビクトリア公園付近の友人宅に滞在し、難民認可の決定を待つ人々を対象にした支援金を申請する準備をしていた。受理されれば週37.75ポンド(5540円)の生活費が支給される。

「ここに来た時には貯金があったので申請しなかったけど、長いこと決定を待たされて貯金はほぼ底をついてしまった」とウィンさんは話した。

英内務省によると、BNO旅券の所持者を対象にした特別ビザの申請受け付けを正式に始めた1月31日までに、昨夏以降すでに約7000人の香港市民が英国に移住したという。

英政府は今後5年間で約30万人が特別ビザを利用して移住するとみている。特別ビザの手数料は通常より安く、他のビザより永住権や市民権を取得しやすい。通常より広範囲の扶養家族の同行も認めている。

フォスター英移民担当相はBNO旅券所持者を対象とした特別ビザの新設について、政府として「誇りに思う」と強調し、BNO旅券を所持する親と同居し同時に申請すれば1997年以降に生まれた子供も発給対象に含まれると説明した。

さらに「BNO旅券を所持していない場合、現状の入国規定に従って申請すれば英国への移住、就労、就学が可能になる」と述べた。

難民申請件数も急増

香港市民が大挙して流入したとみられる2020年10~12月の難民申請件数は現時点で発表されていない。一方、6~9月の申請件数は34件で、19年通年の13件から急増した。

ウォン氏は難民申請する見込みの香港市民が英国内に500人ほどいるとみているが、多くはまだ申請書を提出していない。BNO旅券を所持しないまま英国へ入国する可能性のある人も2万人いるという。

英保守党で「中国研究グループ」を主宰するトム・トゥーゲンハット下院議員はBNO旅券所持者への特別ビザ発給を「歓迎」する一方で、香港市民を援助するため「もっと踏み込む必要がある」と力説。「恐怖から逃れ生活を立て直そうとしているすべての人に移住の機会を与えるべきだ」と述べた。

ウォン氏も香港からの移民は裕福で支援も不要だと考えるのは間違いだと警告した。「多くが中流階級や裕福層だという見方もあるが、そんなことはない」

BNO旅券所持者にも厳しい生活環境

9月に香港からロンドンに逃れてきた元教師のヤンさん(29)によれば、彼女のようにBNO旅券を持っている人でも状況は厳しいという。

広東語の名字だけを明かしたヤンさんは景気悪化で求人がほとんどなく、新型コロナウイルスの流行で行政手続きも遅れていると不安を口にした。

BNO旅券所持者への特別ビザを申請した場合、5年後に永住権を取得するまで社会保障など国の支援を受けられない。

ヤンさんは「自活するために仕事を探しているが、半年近くたつのに見つからない」と気をもむ。

一方、香港から来た写真家のジムさんとエンジニアのピーター・チャンさんはやや楽観的だ。

ファーストネームのみ明らかにしたジムさん(29)はBNO旅券を所持しているのに難民申請した。抗議デモに参加した民主活動家が受けた不当な扱いを英国当局に正しく理解してほしいと考えているからだ。

ジムさんは19年8月31日に香港地下鉄の太子(プリンス・エドワード)駅で起きた警察の暴力的な襲撃事件で逮捕された65人のうちの1人で、最初に受けた嫌疑に加え、検察側がさらに8つの重罪で追訴したのを受けて、香港を脱出した。

ジムさんは「難民申請することで、英内務省に香港で何が起きたのかを理解してもらいたい」と話した。

偽名を名のる20代後半のチャンさんもBNO旅券保持者だ。チャンさんが支援する抗議活動に共に参加した友人たちが逮捕され、香港を離れた。香港脱出を認めない家族に理由を偽って家を出たため、特に孤立感が深い。

チャンさんは「家族が知っているのは私がここで仕事を得たことだけだが、すでに英国で新生活のスタートを切った。共産主義者が支配する香港に帰るつもりはない」と決意を示した。

By Robert Wright

(2021年2月16日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

(c) The Financial Times Limited 2021. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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