[FT]変異ウイルス対策の最前線で闘う南アの科学者

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『英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカが共同開発した新型コロナウイルスワクチンは南アフリカで広がる変異ウイルスへの効果が限定的だとの研究結果を受け、南アは同ワクチンの接種開始を一時見合わせた。このことは世界的な議論を引き起こすとともに、新型コロナのパンデミック(世界的大流行)の今後を占う上で、南アの科学研究が重要な鍵を握っていることを浮き彫りにした。

南アで最初に発見された変異ウイルス「…

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南アで最初に発見された変異ウイルス「501.V2」による軽症から中程度の感染に対してアストラゼネカ製ワクチンの効果が薄いことを示した初期の研究結果を受け、南ア政府は先週、同社製ワクチンの接種の開始を延期した。南アは現在、米日用品・製薬大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製ワクチンに切り替えて接種を開始する予定だ。

南ア政府による一時停止の判断は、国内で実施された比較的小規模なアストラゼネカ製ワクチンの臨床試験(治験)に基づく。ただし、この治験では重症化や死亡に対する効果は検証されていない。

501.V2によるものも含めて、重症化の予防効果が高いことが示されている他社製のワクチンは複数ある。またアストラゼネカは、自社のワクチンにも同様の効果があることを確信していると主張している。

全世界にとって重要

だが今回の南ア政府の決定は、「南アだけでなく全世界にとって重要」な「(抗体の)中和作用が抑制されるという一連の証拠」に基づくものだと、南アの専門家による共同体のメンバー、トゥリオ・デオリベイラ氏は話す。南アでの感染拡大第2波の最中に同氏らが501.V2を発見したことで、ゲノム解析を用いて変異ウイルスを探す動きが世界に広まった。

南アの専門家チームは、抗体を無効化する「E484K」という重要な変異を501.V2が持つことも発見した。この変異は世界各地で出現した別の変異ウイルスでも見つかっている。このことはパンデミック対策の最前線として浮上している次世代のワクチンやブースター(免疫の維持・増強のための薬)の開発に影響を与えている。

南アフリカでのコロナワクチンの治験で集められた血液サンプル=AP

「迅速に変異ウイルスを特定し、その結果を今回の治験に反映させることができる南アの研究者がいなければ、世界は今もこの変異ウイルスに対するワクチンの効果について知らなかっただろう」と米ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団のマーク・サズマン最高経営責任者(CEO)は語る。

こうした貢献には、アフリカで最も工業化が進んだ南アに、高度な技術を備えた研究施設群と学術ネットワークが存在していることが背景にある。南アに健康被害をもたらしている2大要因であるエイズウイルス(HIV)と結核菌の研究を目的とした施設だったが、今回のパンデミックでは新型コロナ研究にすばやく転用できた。

建設費1億ドル(約106億円)のビル1棟に、危険な病原体を扱うバイオセーフティーレベル(BSL)3〜4の実験室を9つも備えた施設がある。こうした設備は国立の研究組織の一部でもあり、先行する英国に倣ったウイルスのゲノム監視ネットワークとして統合することが比較的容易だった。

「(南アの科学者が)それまで研究していたのが結核かHIVか臨床研究かゲノム学かは関係ない。皆すばやく行動したからこそ、これほど力強く対応できているのだ」と英オックスフォード大グローバル保健ネットワークを率いるトルーディ・ラング氏は評価する。

変異ウイルス培養に新手法

南ア東部ダーバンにあるアフリカ保健研究所(AHRI)の32歳の研究者サンディル・セレ氏は、501.V2を実験室で培養する新手法を発見した。501.V2が抗体を逃れることができ、再感染を引き起こすおそれがあることを示した研究につながる重要なブレイクスルーだった。

セレ氏のような「昨年、協力的なアプローチで懸命に研究を進めた南アの研究者」にとって次の優先課題となるのは、ワクチンや世界中から集めたワクチン接種済みの人の血漿(けっしょう)のサンプルを用いて501.V2に対する効果を検証することと、他国で行われる同様の研究を支援することだとデオリベイラ氏は言う。「我々は余ったウイルスを世界各国の主要な病原体保管施設に送り、我々が手掛けない場合でもできるだけ科学が進歩するように努力している」

501.V2などの変異ウイルスに対するワクチンの効果をさらに解明することは「間違いなく現時点で最も重要な研究課題」であり、実験室の中だけでは解決できない問題だと、AHRIの所長で501.V2を研究する科学者共同体の共同代表も務めるウィレム・ハネコム氏は指摘する。

J&Jと米バイオ製薬ノババックスの両ワクチンが501.V2による感染の重症化に対して高い予防効果があることが示されたのは、ひとえに南アがこうしたワクチンの治験に参加していたおかげだ。「(治験に)地理的な多様性を持たせることがいかに重要かを示す啓発的な事例だ」とハネコム氏は話す。

アフリカで実施される治験は最大でも世界全体の2%ほどでしかない。アフリカ疾病対策センター(CDC)は2020年、「アフリカで実施されるワクチンの後期治験がなるべく早期に10回を超えるようにする」ことを行動目標に掲げたが、まだ実現には程遠い。

南アの科学者は20年、治験結果に多様性を確保するため、アストラゼネカが同国で実施する治験に自らが関与できるよう熱心に働きかけた。

アフリカCDCは今週、変異ウイルスがまん延する地域におけるワクチン接種の指針を発表した際、アフリカでの治験の実施を増やすこととともに、ウイルスのゲノム監視の拡大も改めて求めた。

アフリカCDCのジョン・ヌケンガソン所長によると、アフリカではこれまでに約2500件の新型コロナウイルスのゲノム解析が行われており、多くは南アで実施されているものの、ナイジェリア、セネガル、コンゴ民主共和国の科学者も貢献している。その上で同氏は、501.V2や他の変異ウイルスを追跡するには、解析件数を今後半年で5万件まで大幅に増やす必要があると指摘する。オックスフォード大のラング氏は「ゲノム変異はあらゆる場所で見つかるだろう。変異が見つかるのは、そこできちんと科学が行われている証拠だ」と話している。

By Joseph Cotterill and David Pilling

(2021年2月15日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/

(c) The Financial Times Limited 2021. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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