[FT]バイデン外交、フランス重視が肝要 独は中ロで難

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『ドイツのメルケル首相が欧州各国は自身の安全保障のためにさらに多くを負担すると米国に保証する狙いは、欧州に駐留する米軍を維持するよう説得することにほかならない。フランスのマクロン大統領が欧州連合(EU)に「戦略的な自治」を呼びかけるのは、欧州が米国に別れを告げられる日を心待ちにしているからだ。

ドゴール主義と大西洋主義

昔からのこうした紋切り型の言い回しには、今もなお一片の真実以上のものが含まれてい…

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昔からのこうした紋切り型の言い回しには、今もなお一片の真実以上のものが含まれている。ドイツは第2次大戦後の西ドイツから東西統合を経た現在まで、国家としての立場と安全を欧州統合と、北大西洋条約機構(NATO)のリーダーである米国が提供する安全保障に依存してきた。

一方、マクロン氏は独自外交を志向したドゴール元大統領の「ドゴール主義」を受け継いでいる。米国の台頭と英仏両国の衰退を印象づけた1956年のスエズ危機後の欧州は、米国から自立するか米国に窒息させられるかの2つの選択肢しかないという世界観によって国を治めてきた。

ここでバイデン米大統領は惑わされてはならない。ドイツは米国との関係を重視する「大西洋主義」を覆すこともなければ、フランスがドゴール主義を捨て去ることもない。だが、これはメルケル氏とマクロン氏の両方を不快にさせる見方ではあるが、バイデン氏が欧州において信頼できるパートナーを得たいのであれば、ベルリンの首相府よりもパリのエリゼ宮(大統領府)に向かうのが得策であるのは間違いない。

独仏のいずれかを選択せねばならない状況は、以前なら回避することが可能だった。米政府は米国と欧州大陸との忠実な仲介者として英国を当てにできたからだ。だが、英国がEUを離脱したことで、米英のいわゆる「特別な関係」は機能しなくなった。

ジョンソン英首相はトランプ前大統領と仲良しではあったが、英国は今やEU内での政治的な議論の蚊帳の外に置かれているというのが地政学上の厳然たる事実だ。独仏両政府のジョンソン氏への評価もおよそ高いとは言えない。

マクロン氏はEUで言うところの「欧州の主権」や「戦略的な自治」を追求しているがために、ともするとバイデン氏の最良のパートナーになる資格がないとみえるかもしれない。この2つのフレーズは、フランスや欧州にはワシントンにお伺いを立てることなく自らあらゆる決断を下す自由があるという考え方に根ざしている。これは、米国から独立したフランスの核戦力に具現化されている。

だが、こうした建前と国際政治の現実は別物だ。欧州が自ら決定を下す権利を守ることは、必ずしも米政権との決裂を意味するわけではない。マクロン氏の戦略では、それは米国とも協調して行動することを意味するかもしれない。たしかにマクロン氏は、米国との対立を深めるロシアのプーチン大統領とも政治的な関与を続ける必要性をかたくなに主張している。

レトリックと裏腹の良好な関係

だが、欧州が完全に自らの力で防衛できるようになるのは、はるか遠い先の話だということをフランスの政策決定者たちも重々承知している。マクロン氏もバイデン氏と同様、建前の理想論を超えた一歩を踏み出す覚悟がある同盟国を必要としている。

米仏関係は長年にわたって、フランスの国家的プライドが公然と認められる以上に良好な状態にある。79年、当時のヘンダーソン駐仏英国大使は本国への報告で、フランスは「露骨な反米政策」を続けているにもかかわらずワシントンでの影響力を増大させているとの恨み節をつづった。

かつてドゴール大統領のもとで米国が主導するNATOの軍事機構から脱退したフランスは09年、さしたる騒ぎも華々しい宣伝もなく復帰した。トランプ政権の外交専門家は、アフリカのイスラム教徒によるテロとの戦いで流血と多額の出費をいとわないフランスの姿勢を称賛した。

マクロン氏は有言実行を貫く構えだ。どんな信念や世界観を持っていようが、フランスには米国とともに行動する政治的意志があり、必要な際には使える軍事力もある。マクロン氏はEU各国が今後の米軍の欧州駐留を当然視すればするほど自らの安全保障のための財政負担を渋ると考えるが、この判断も正しい。

人権よりも経済的利益

一方、メルケル氏は米国の関与を重視する大西洋主義を提唱しており、内心では欧州による「戦略的な自治」に否定的だ。メルケル氏の側近は、EUがこうした表現はフランス政府をなだめるために使っているにすぎないと一笑に付す。メルケル氏に関しては、民主主義の擁護や多国間ルールの順守、人権の尊重についての大胆な言説で他に並ぶ者はいない。

しかし、このどれも中国やロシアとのビジネス上の取り引きを含めたドイツの経済的利益を脅かすことは許されていない。ドイツ政府では、例えばフォルクスワーゲン(VW)やBMW、メルセデス・ベンツの海外での販売台数は、人権問題とてんびんにかけられるものだと想定されていない。

メルケル氏はEUと中国の新たな投資協定を巡って、バイデン氏が大統領に就任する前の20年12月に(人権問題の取り組みが不十分な)中国と大筋合意するよう交渉を急がせた。ロシアからバルト海経由でドイツへ直接天然ガスを運ぶプーチン政権肝煎りのガスパイプライン計画「ノルドストリーム2」についても、メルケル氏は建設継続を支持する姿勢を崩さない。

この計画で一番損をするのは、独ロをつなぐ既存のパイプラインが通っているウクライナだ。ウクライナは領土の一部であるクリミア半島をロシアに一方的に併合され、東部地域の一部は親ロシア派の武装勢力に支配されている。

メルケル氏は態度を変えることはなさそうだ。そして、秋に引退するまでこのまま任期を全うするだろう。後任の首相はメルケル氏ほど経済や産業を重視しない立場を取る可能性がある。人権を重視する「緑の党」が連立政権に加われば、その公算はさらに大きくなる。それでも、バイデン氏が信頼できる欧州のパートナーを求めるのであれば、独立戦争以来の最も古い同盟国であるフランスに目を向けるべきだろう。

By Philip Stephens

(2021年2月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/

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