強権国家、親中にあらず 対ミャンマーの視点

強権国家、親中にあらず 対ミャンマーの視点
本社コメンテーター 秋田浩之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH128IT0S1A210C2000000/

『軍事クーデターが起きたミャンマーで、抗議デモが燃え広がっている。西側諸国はこの問題をめぐって一見、矛盾する2つの目標を追求しなければならない。

まずはミャンマー国軍に圧力を強め、軍政への逆戻りを認めない姿勢を示すこと。もう一つは同国を過度に孤立させ、中国側に追いやらないことだ。

相反するようにみえるが、両立は必ずしも無理ではない。今のところ、バイデン米政権も2つの目標を同時に追求している。2月11…

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2月11日に国軍幹部などへの制裁を発表したが、クーデターから約10日間も待った。

この間、米政権はミャンマー国軍と水面下でやり取りした形跡がうかがえる。米政府筋によると、国軍にパイプを持つ日本やインドを介して米側の立場を伝え、軍政に戻らないよう重ねて迫った。

バイデン大統領はミャンマーを過度に追い込めば、中国側に押しやる危険があると理解している。内情を知る外交筋によると、第1弾の制裁対象を軍幹部などに絞ったのも、このためだ。

ミャンマーは中印の間に位置し、インド洋に面する。中国との戦略対立が深まるなか、米政権としては東南アジアの要所が紅色に染まるのは防ぎたい。

むろん、情勢は刻々と変わる。抗議デモで多くの死傷者が出れば、米国は重い制裁に動かざるを得ない。

民主主義と地政学上の利益がぶつかり合うとき、どちらを優先すべきなのか。国際社会に、ミャンマー情勢は古くて新しい難題を突きつけている。

そこでまず踏まえるべきなのは、人権外交は正義の衣をまといながらも、偽善や二重基準(ダブルスタンダード)と無縁ではないということだ。

米国は長年、絶対王制のサウジアラビアを同盟国として扱い、最新鋭の兵器を売ってきた。中国への対抗上、共産党支配のベトナムとも軍事交流を増やしている。米兵が訴追される危険を嫌い、国際刑事裁判所(ICC)にも加盟していない。

だからといってミャンマーのクーデターを黙認していいという話ではない。強権主義の台頭を阻むため、米国がミャンマー国軍に制裁するのは正しいし、日欧も密に連携すべきだ。ただ、その正当性が完全無欠ではないことも、謙虚に認めるべきだろう。

制裁の効果となると、さらに大きな疑問符がつく。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、ミャンマーは2019年、輸出入の両方で中国の比率が3割を超えた。東南アジア諸国では中国への依存度が高い国の一つだ。

10年までの軍政下で、ミャンマーは米欧から制裁を浴びせられた。中国どっぷりの経済体質はその結果であり、今後の制裁は中国の影響力を一段と高めかねない。

ミャンマー国内では中国政府への批判も出ている(13日、ヤンゴンの中国大使館前で抗議する市民)=共同

では、そのような展開を防ぐにはどうしたらよいのか。短期の妙案は見当たらないが、中長期でみれば、希望がないわけではない。東南アジア諸国連合(ASEAN)のうち、中国の「属国」になりたいと思っている国は一つもないからである。

ミャンマーも同じだ。同国軍とパイプを持つアジアの政府当局者は「ミャンマー国軍幹部は内心、中国の影響力が国内に浸透するのを極めて警戒している」と話す。私的な会話では、そうした懸念を漏らすこともあるという。

1960年代から70年代半ばにかけ、中国は反政府武装勢力「ビルマ共産党」をあからさまに支援し、ミャンマーに介入した。同国軍の怒りは消えてはいない。

他の強権国も親中とはかぎらない。ベトナムは海洋問題で、対中強硬の筆頭だ。軍の影響が強いタイ政権もほぼ毎年、東南アジア最大の多国間演習を米軍と開く。

さらに最も親中的とされるカンボジアですら3月に中国と予定していた軍事演習を中止した。新型コロナウイルスへの対応が表向きの理由だが、バイデン政権への配慮との見方もある。

シンガポールのビラハリ・カウシカン元外務次官は指摘する。「強権国家は中国に接近するという見方は、経験則ではなく、イデオロギーにもとづく誤りだ。強権国家が中国に近づくとすれば、米欧や日本から相手にされず、他の選択肢がないときだ」

こうした視点に立つと、米欧日がミャンマーにとるべき対応もおのずとみえてくる。クーデターの代価を国軍に払わせるのに十分な制裁を科す一方で、経済封鎖に近いような制裁は少なくとも現時点では控えることだ。

そのうえで、中国への抵抗力を東南アジア側が強めるのを、助けるべきである。

具体的には「ASEAN諸国が中国への依存を減らせるよう、外交、経済上の選択肢を提供していくことが肝心だ。メコン川流域と、南シナ海で領有権を主張している国々にとっては、特にそうした支援が大切になる」(カウシカン氏)。

タイとラオスの国境となっているメコン川(2019年10月)=ロイター

メコン川では上流の中国が治水や開発の主導権を握ろうと、さまざまな協力構想を東南アジア側に投げる。南シナ海では軍事圧力を強める一方で、ASEAN側と行動規範づくりも進める。

メコン川流域開発には、日米も関与しているが、中国の影響力を中和するにはまだ足りない。ミャンマー制裁というブレーキを踏みながら、協力のアクセルも完全には止めないバランス感覚が必要になる。

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秋田 浩之
長年、外交・安全保障を取材してきた。東京を拠点とし、北京とワシントンの駐在経験も。北京では鄧小平氏死去、ワシントンではイラク戦争などに遭遇した。著書に「暗流 米中日外交三国志」「乱流 米中日安全保障三国志」。

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