ロシア「TikTok世代」の乱 反プーチンは希望か幻想か

ロシア「TikTok世代」の乱 反プーチンは希望か幻想か 
編集委員 坂井光
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH053EO0V00C21A2000000/

『ロシアの何の変哲もない高校の教室。1人の生徒が壁にかけられたプーチン大統領の肖像写真に手を伸ばし外した。新たにかけられたのは反体制指導者ナワリヌイ氏の写真だ。これは同国で広がった動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」での映像だ。

Nikkei Views
編集委員が日々のニュースを取り上げ、独自の切り口で分析します。

しばらくすると、同じような行為をする投稿が相次いだ。SNS(交流サイト)上で「ナワリヌイ」「デモ」…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

残り1377文字

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

有料会員に登録する
https://www.nikkei.com/r123/?ak=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXZQOGM010QT001022021000000&n_cid=DSPRM1AR07

無料会員に登録する
https://www.nikkei.com/r123/?ak=https%3A%2F%2Fwww.nikkei.com%2Farticle%2FDGXZQOGM010QT001022021000000&n_cid=DSPRM1AR07#free

ログインする
https://www.nikkei.com/login

SNS(交流サイト)上で「ナワリヌイ」「デモ」が話題の上位になり、政権を批判したり、抗議運動への参加を呼びかけたりする動画が目立つようになった。

2011年に中東で始まった「アラブの春」ではフェイスブックやツイッターが民主化運動の起爆剤となった。ロシアではTikTokが若い世代の抗議活動への関心をかき立てるツールとなっている。

ナワリヌイ氏は20年にロシア国内で毒殺されかかったが、ドイツでの療養を経て今年1月に帰国。その直後に拘束され、裁判所は過去の有罪判決の執行猶予を取り消し、3年半の実刑に切り替える決定を下した。

同氏の解放や政権打倒を訴えるデモは1月23日と31日に全国規模で発生した。プーチン政権下では最大規模だ。特徴は参加者の中心が25~35歳という若い世代で、さらに未成年や学生も目立ったことだ。

プーチン氏は治安機関を使い、締め付けを強化している(2月4日、デモの報告を受ける大統領)=AP

ロシアのティーンエージャーにも人気のTikTokが反プーチン運動の道具になったのは政権側には予想外だったに違いない。しかも、SNS上とはいえ、プーチン氏が皮肉を込めたからかいの対象になるようなことは、政権基盤が強くなかった2000年の大統領就任の初期以外では珍しい。

これは何を意味をするのか。

30年前のソ連崩壊を経験した世代は、政争で再び混乱に陥るのを恐れている人が多い。これまでプーチン打倒を声高に唱えた人物は、不慮の死を遂げるか、刑務所に送られるか、国外に逃亡した。このほかは関心がないか、不満があっても抵抗しても無駄と諦めた人々だ。

若い世代は違う。大半のデモ参加者はソ連崩壊を体感していない。そのうえ記憶の大半は「プーチン時代」なのだ。

ここ10年は経済が低迷し、貧困家庭が増えている。産業構造は硬直化し、有力大学に通う学生の人気職業は公務員か政府系企業。汚職や癒着が横行しており、起業の環境も整っていない。展望が描けない若者が変化を求め始めたのだ。

ナワリヌイ氏はそれらの声にこたえられるのか。

同氏は反体制派の指導者だが、議員経験はなく、行政機関や企業での実績もない。巨大な体制に立ち向かった指導者としては、ソ連を壊したエリツィン元大統領があげられるが、格の違いは明らかだ。実際、ナワリヌイ氏はプーチン体制に対抗するには力不足とみなされていた。

ナワリヌイ氏はプーチン体制を揺るがす存在になりうるのか(2月2日、モスクワの裁判所で実刑を言い渡された)=AP

しかし、毒殺未遂事件で世界的注目を集めたことが転機となった。1月にはナワリヌイ陣営がロシア南部にある豪華な「宮殿」がプーチン氏の所有物とする映像をインターネット上に公開。プーチン氏の盟友が自らのものと主張したが、プーチン体制での癒着や利益供与の疑惑は拭えない。若者らはナワリヌイ氏の主張や政策を支持すると同時に、同氏を「反プーチン」「変化」の象徴として位置づけ始めている。

政権側は封じ込めに躍起だ。人権団体によると、政権が拘束したデモ参加者は計1万人に達したという。親や先生らに子どもをデモに参加させないよう脅し、ナワリヌイ陣営に対しては未成年をデモに巻き込んだと非難。さらには大量の若者を動員し、プーチン氏を礼賛するダンス映像などもネット上に公開。その様子はまるで親衛隊のようだ。

ナワリヌイ陣営は春までデモを休止し、秋の下院選に向け態勢を整えるという。一方で治安機関のプーチン氏への忠誠心は高く、締め付けを緩める気配はない。

怖いもの知らずのTikTok世代も、いずれ親たちと同じように「抵抗は無駄」と思い知らされるかもしれない。だが、変化を求める彼らの破壊力と持続力を、まだだれも正確には計れていない。

編集委員が独自の切り口で分析「Nikkei Views」一覧へNikkei Views
https://www.nikkei.com/opinion/nikkei-views/

坂井 光
ロシア「TikTok世代」の乱 反プーチンは希望か幻想か (11:00)
中ロ利する新START延長 求められる米国の覚悟(1月29日)