[FT]WHO武漢調査団、コロナ発生源の解明に高い壁

[FT]WHO武漢調査団、コロナ発生源の解明に高い壁
WHOの調査チームを中国政府が厳重管理
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『武漢ウイルス研究所の前の歩道には、ガードマンと私服警官が列をなしていた。微生物・病原体の研究で中国最高の安全性を誇る実験室を持つこの施設に、世界保健機関(WHO)の調査団を乗せた公用車の一群が到着した。

先週、世界のメディアが見守る中で繰り広げられたこの場面は、科学者たちが1月に中国入りして以来、チームに付いて回ってきた中国外務省高官や地元政府機関の職員にとって緊張の一瞬だった。WHO調査団の一員…

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WHO調査団の一員であるピーター・ダスザック氏が自分を乗せた車が記者団の前に差し掛かると、車の窓ガラスを開けた。同氏は取り囲む記者たちに「調査団は聞かなければならないことは全て尋ねている」とコメントした。

中国当局は、WHOチームによる新型コロナウイルス「Sars-Cov-2」の発生源調査に全面的に協力していると主張している。しかし、調査団の訪問は中国政府に厳しく管理されており、実地調査の時間は制限されている。武漢でウイルスが発見されてから調査が開始されるまでに1年以上掛かっている。政治色が深まり、科学的にも難しいこの問いにWHOのチームが答えを出せるのか、疑問視する見方が広がっている。

国際連合(UN)生物兵器禁止条約のための支援機関の元副長官、ピアス・ミレット氏はWHO調査団に大きな期待をかけるべきではないと断言する。エボラ出血熱のウイルス発生源がいまだに解明されていないことを引き合いに出し、「多くの場合、こうした(ウイルスの)発生源を特定するのはほぼ不可能だ」と述べた。

調査団の訪問は今週終了するが、米ラトガーズ大学ケミカルバイオロジー学部のリチャード・エブライト教授はこの訪問を「茶番」だと言い切った。同教授は「有意義なアクセス」や「有意義な調査」が許されていないと主張する。

中国政府は、ウイルスの世界的流行が同国のせいではなく、それに伴うあらゆる世界経済の混乱の責任がないことを世界に認めさせようと必死になっている。世界の政治家の一部が、中国に責任を負わせようとするなかで、異なる見解が対立する事態になっている。

WHO調査団のメンバーのピーター・ダスザック氏は記者団に「調査団は聞かなければならないことは全て尋ねている」と語った=ロイター

トランプ前米政権下で国務長官だったマイク・ポンペオ氏は、ウイルスが武漢ウイルス研究所から漏れたという証拠のない説を主張した。一方で、中国政府高官は、病原菌が米軍の訓練を通して武漢に入り込んだと根拠もなく主張した。中国の国営メディアはウイルスは輸入冷凍食品によってもたらされた可能性があるとも伝えている。

米コンサルティング会社、クローム・バイオセイフティ・アンド・バイオセキュリティ・コンサルティングの共同創始者で、イラクでの国連武器査察官を務めたティム・トレバン氏は、「一部の大国が自分自身で真実を作り出せるという秩序の世界ならば、あまねく受け入れられる真実が存在する状況はあり得ない」と話す。「中国と米国は異なる結論を導き出そうとしている」

こうした議論の裏で、そもそも、武漢ウイルス研究所のようなところで実施される実験では、危険を上回る恩恵が得られるのか、また、次のウイルス流行を防ぐために政府はどのような研究に資金を注ぐべきか、科学的な論争が繰り広げられている。

武漢ウイルス研究所がコロナウイルスに関する実験を進めていたことから、ウイルスの「研究所からの漏出」説に火が付いた。同研究所のコロナウイルス研究の第一人者である石正麗氏は漏出説を否定する。同氏は実験室で新型コロナのようなウイルスを研究していたが、研究対象のウイルスのほとんどは「Sars-Cov-2」とは遺伝子的に違いが大きく、現在流行しているウイルスの近い祖先とは考えられない主張する。

ウイルス学者の間で主流となっている説は、「Sars-Cov-2」の前身がコウモリの体内で生まれ、おそらく別の動物が仲介となって、さらに危険なウイルスに変異したというものだ。ダスザック氏と石氏は緊密に共同研究に取り組んできた関係にあり、2013年にこうした病原体は人間にも感染する可能性があると警告している。

両氏は、新しい動物ウイルスを見つけて解析することが、人類が次のウイルス流行を防ぐために最も有効な手段であると主張している。トランプ政権が昨年、米国立衛生研究所(NIH)経由で提供されていた武漢ウイルス研究所のコウモリのコロナウイルス研究への資金援助を打ち切った際、ダスザック氏は失望をあらわにした。

英グラスゴー大学ウイルス研究センターでバイオインフォマティクス部門を率いるデビッド・ロバートソン氏は、「重症急性呼吸器症候群(SARS)を起こしたようなウイルスが拡散するという、既に良く知られている自然の出来事に対して、世界がなぜこれほど無防備であったのか? 同様のことが過去に起こり、今後も起こると言われていたのに」と問い、大勢の声を代弁した。

野生動物から病原体を捕えて実験室で培養することには危険が伴うという見方は広く受け入れられている。オバマ政権は14年、実験室での事故が相次いだのを受けてNIHにこうした研究への資金提供の停止を命じた。これは、17年には再開されている。ミレット氏は「ずいぶん前から、世界で最先端の高い技術を持つ実験室でもウイルス流出事故が起きていた」と話す。

研究に対する中国の厳しい管理や、階層性の構造が安全の実現を難しくしていると指摘する向きもある。

トレバン氏は「中国は生物学的リスクが高い実験室を持つべきでないという議論は間違っている。中国はバイオテクノロジーで素晴らしい発展を遂げており、(遺伝子を調べる)ゲノミクスでは世界をリードしている」と話す。

一方で、同氏は、計画やプロトコル(手順)だけで事故は防げないと指摘する。「ラーニング・オーガニゼーション(学習する組織)にならなければならない。一点を中心にした学びや上意下達ではなく、皆が声を上げることが許され、あらゆる事柄に疑問を投げかけられる組織作りが必要だ」という。新型コロナ流行の初期、中国政府は科学者に対し、コロナウイルスに関連して発言が許されることと許されないこと、あるいは、どのような研究が許され、許されないか、に関して厳しい規制を徹底した。

武漢のホテルのベランダに立つWHO調査団のメンバー=ロイター

中国では、ウイルスの発生源については公の場で議論されない。地元メディアはWHO調査団の訪問のことはほとんど報道していないし、調査団自身、ホテルに特別に設けられた立ち入り禁止の200室の棟に隔離された状態だ。

WHO調査団の訪問の数週間前から、インターネット検索大手の百度(バイドゥ)の地図から武漢ウイルス研究所の位置標識が消えた。競合する地図サービス大手の高徳地図(Autonavi)には載っている。バイドゥは消えた理由を説明していない。

武漢市の住人で新型コロナが最初に同市を襲った際、ボランティアとして働いたエバン・ゾウ氏はこう語った。「ほとんどの武漢市民はWHOの訪問に興味がない。我々は、毎日を前向きに生きたいだけだ」

By Yuan Yang

(2021年2月9日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/

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