ワクチン供給、EUに焦り 製薬大手は域外に本社

ワクチン供給、EUに焦り 製薬大手は域外に本社
編集委員 安藤淳
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『新型コロナウイルスのワクチンをめぐり、欧州連合(EU)が必要量の確保に苦戦している。米国と並び欧州メーカーはワクチン開発で先行するのに、なぜうまくいかないのか。実は製薬大手の多くは本社がEUの外にあり、欧州委員会の意向が働きにくい。域内の産業育成が進んでいない結果でもあり、日本にとっても他人ごとではない。

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欧州で米ファイザーとドイツのバイオ企業、ビオンテックのグループに続き、新型コロナワクチンの承認を早い段階で得たのは英国のアストラゼネカだ。循環器系や呼吸器系の疾患、炎症、がんの治療薬などで知られ、本社のあるケンブリッジに巨大な研究開発センターを建設中だ。ワクチンは高齢者への効果が不確かなどの指摘が出ているが、研究開発力では定評がある。

アジュバントというワクチン強化剤で強みをもつグラクソ・スミスクライン(GSK)も英国に本社を置く。ロンドンとケンブリッジの中間に位置するスティーブニッジの研究拠点は広大で、細胞薬などの公的な研究・生産施設に隣接する。GSKはフランスのサノフィと組み、ワクチンの治験にも参加している。

アストラゼネカ、GSKともに、EUの代表的な製薬企業と考えられてきた。だが英国のEU離脱を受けて、欧州委員会よりも英政府の意向が及びやすくなるのは当然だ。アストラゼネカが英政府といち早く、ワクチン供給契約を結んだのは理解できる。

 英アストラゼネカとオックスフォード大が共同開発した新型コロナワクチン(同社提供)=共同

同社が生産能力の問題から供給計画を遅らせる方針を示すと、EU向けがしわ寄せを受けそうになった。欧州委は同社がEU域内の拠点で生産するワクチンの輸出を規制して域内向けの供給に回す意向を示し、国際的な批判を浴びた。

GSKもワクチン事業拠点がベルギーにある。開発中のワクチンが承認取得ずみだったら、アストラゼネカのように輸出規制の対象とされ対応に苦慮したかもしれない。

欧州企業ではあるが、本社はEU域外という製薬大手はほかにもある。医薬品売上高でファイザーとともに例年、世界のトップ3に入るノバルティスとロシュは、社員の意識も事業の実態も「グローバル」だがスイスに本社を構える。

ノバルティスはスイスの生産拠点で、ファイザーとビオンテックの新型コロナワクチンの受託生産を決めた。ファイザーはベルギーにも生産拠点をもつ。ここで作ったワクチンはEUの輸出規制対象と見なされたが、スイスなら事業の制約を受けにくい。

人々の命に直結する医薬品の研究開発力と生産力の保持が域内に不可欠だという認識は、コロナ禍の前からEU内にあった。フランスのサノフィ・サンテラボとドイツ・フランス資本のアベンティスとの大型合併による、2004年のサノフィ・アベンティス(現サノフィ)の発足をフランス政府が歓迎したのもそのためだ。

医薬の産官学連携プロジェクトも複数始めたが、結果的にファイザーを追い抜くほどの力は持てず、サノフィに続く有力製薬企業も誕生していない。EUは複数の生産拠点をベルギーなどに誘致したが、それだけでは不十分なことはワクチン供給をめぐる今回の騒動で浮き彫りになった。

日本はどうか。アイルランドのシャイアーを19年に買収した武田薬品工業が医薬品売上高で唯一、世界10位以内に入ったが、それ以外は存在感が薄い。新型コロナのワクチンも治療薬もまだ世に出たものはなく、力不足だ。日本のワクチン開発や治験は明らかに出遅れた。政府はファイザーやアストラゼネカと次々にワクチン供給を受ける契約を結んだが、すべて予定通りにいくとは限らない。

00年代初期まではファイザー、ノバルティス、GSKなど外資系の製薬大手は日本に研究拠点を置いていた。しかし、事業再編や日本の研究水準の低下が重なり、ほぼすべてが撤退した。今後も日本勢が新たな感染症など手ごわい病気に単独で立ち向かうのは難しい。EUのような政治力もない。海外勢との研究段階からの協力を再び強め、治験にも共同で臨んでいち早く製品を入手できる関係を築くことが大切だ。

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詫摩佳代
東京都立大学 法学部教授
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今後の展望 今はまさにどの国にとっても緊急時であり、自国優先の動きはある意味、仕方ないと言えます。他方、現状のままでよいはずがなく、ワクチン確保の確実性を高めていく努力が必要です。WHOはワクチン増産のために、製薬会社は他社工場で自社技術を用いたワクチン製造を広く許可すべきだと促しています。新型コロナワクチンに関しても、既にアストラゼネカ製ワクチンがインドで製造され、新たにサノフィが、自社工場でファイザーのワクチン製造を行うと発表しています。このほか、非欧米産ワクチンについても、国際的な審査を経た上で活用する道を開くなどして、ワクチン確保の確実性を高めていく工夫と努力が必要でしょう。
2021年2月10日 12:23いいね
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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察 ワクチン開発は単に製薬会社が国内にあれば良いというわけではなく、いつ来るかわからない感染症に備えて基礎的な研究や設備、人材を備えておかなければならないが、日本の研究開発体制はそうした余裕を持てない状況にある。アメリカなどはBARDAなどの機関でその基盤を支えている。そこまでの覚悟がなければ、新興感染症のワクチンを作ることは難しい。厚労省の審査のやり方や手順も見直されるべきだろう。
2021年2月10日 12:36いいね
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