バイデン氏、勝負は1年半 「分断」加速のリスクも

バイデン氏、勝負は1年半 「分断」加速のリスクも
本社コメンテーター 菅野幹雄
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 ※ 「分断を癒す、唯一の処方箋」は、一にも二にも、「好調な経済」だ…。

 ※ ワクチン接種が、まあまあ「はかどっている」ように見えることは、朗報だ…。

 ※ しかし、バイデン氏に許されている「時間」は、それほど多くは無いように見受けられる…。

『深夜や早朝もお構いなしの「トランプツイート」の日々が遠ざかりつつある。バイデン米政権発足から約20日、ワシントンの厳戒態勢は占拠事件のあった連邦議会議事堂の周辺を除いて解消した。

「トランプロス」の空気も漂う。トランプ前大統領と敵対した米CNNのプライムタイム(午後8時~10時台)の視聴者数は、就任式の翌週に45%も減ったという。

「9時から5時の大統領」。米紙はバイデン氏をこう呼んだ。混乱もなく…

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混乱もなく勤務をこなす指導者の「予想外」といえば、週末の教会礼拝の帰りにベーグルを買いに車列を止めさせたことくらいだ。

だが、淡々とした日々と裏腹にバイデン氏は先例のない「大転換」を仕掛けている。

地球温暖化防止の「パリ協定」離脱、世界保健機関(WHO)脱退、メキシコ国境の壁建設、イスラム諸国からの移民制限……。トランプ政権の方針をバイデン氏は就任当日から軒並み反転させた。署名した大統領令などの指令文書は50件近い。CNNによると18件は前政権の政策の転換だ。

新型コロナウイルスと経済不振、人種格差などの複合危機が襲う米国。マスク姿の大統領がペン一本で文書を連発しても、根本的な解決はなお遠い。気になるのは、深刻さを増した米国の分断をさらに加速しかねないという点だ。

新型コロナウイルスの封じ込めは、死者が46万に上る米国で最優先の課題だ。バイデン政権は遅れが目立つワクチン接種の加速と、1.9兆ドル(約200兆円)と巨額の追加コロナ対策を急ぐ。

バイデン氏は5日「(長期失業に苦しむ人などに)『心配するな、頑張れ』と言い続けるのか」と野党・共和党の抵抗を批判し、与党・民主党の単独でも対策を可決する姿勢を強めている。党派を超えた結束を呼び掛けた大統領がとる態度なのかと、共和党内で反発の声が出ている。

脱炭素への傾斜も鮮明だ。4月に温暖化ガスの主要排出国による首脳会合を主催し、米国の削減目標づくりも急ぐ。

前政権の方針を覆し、化石燃料への補助金削減やカナダとの原油パイプラインの建設許可の撤回を決めた。90億ドルを投じた事業を中止すれば1万1000人の雇用が消えるといわれる。脱炭素の取り組みで雇用を創出するというのがバイデン政権の説明だが、短期で大量に代替の雇用が生まれると考えるのは非現実的だ。

米国とカナダを結ぶパイプラインの資材置き場(カナダ・アルバータ州)=ロイター

バイデン氏の勝負は実質的に、あと1年半あまりといえる。2022年11月の中間選挙では民主党が薄氷の差で確保した議会両院の多数勢力の維持が課題になる。コロナの封じ込めや経済再建で目に見える実績を残すことができるか、まだ見通せない。

09年に発足したオバマ政権は金融危機後の景気や雇用回復の遅れが響き、10年秋の中間選挙で下院の過半数を失った。バイデン氏の大胆な財政出動や政策転換は過去の経験を踏まえてのことだろう。

だが強引な政策運営が連続すれば、トランプ前大統領の影響力がなお残る共和党を活気づけ、バイデン政権への対決姿勢を一段と激しくするかもしれない。バイデン氏が就任式で訴えた米社会の「結束」は逆方向に進むことも否定できない。

トランプ政権の路線をあえて維持する分野もある。「バイ・アメリカン」が一例だ。激戦州である中西部の製造業への配慮がある。だが、政府調達で米国製品の比率を上げるという保護主義的な政策は、バイデン政権が重視する多国間協調と矛盾する。

「食い違いの激しい前政権の政策を急いで転換する一方で、枠組みの大きな課題は態勢が整うまで忍耐強く取り組む『二段構え』の様相がある」。米戦略国際問題研究所(CSIS)のマシュー・グッドマン氏はこうみる。その典型例が対中政策だろう。

ブリンケン国務長官は5日に中国の外交担当トップ、楊潔篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員と電話会談。台湾海峡での中国軍の挑発行為が議論になった。

訓練をする台湾の海軍特殊部隊(1月27日)=ロイター

それでも米国の香港総領事を務めた米アドバイザリー会社アジア・グループのカート・トン氏は「米国は対中政策では『一時停止』ボタンを押し、半年から1年は大きな動きはないだろう」と話す。「一方で欧州などとの同盟再建には『早送り』で取り組むのではないか」。まずは同盟国と戦略を固めると予測する。

対中関税は当面維持するとバイデン氏は明言し、主要な閣僚が軒並み強硬姿勢を示した。米シンクタンク、ハドソン研究所のパトリック・クローニン氏は「中国を確実に抑止して同盟国との対話や戦略の構築のための時間を稼ぎたいからだ」とみる。だが中国が静観するだろうか。同氏も「香港国家安全維持法で香港に一撃を与えたように、中国が台湾をたたいて服従させることができると考える真剣なリスクがある」と警戒する。

いくら入念に対中戦略を固めても、米国内の基盤が弱まれば、中国に付け入られる隙が広がる。

米アトランティック・カウンシルのマシュー・バロー氏らはバイデン政権の将来について
①政策を実現できずに窒息する
②経済を復活させ米国の再生を主導する
③内外の出来事に振り回され、中間選挙で上下両院の支配を奪われて頓挫する
――という3つのシナリオがあると予測した。トランプ色を一掃するバイデン氏の早仕掛けは失速リスクと隣り合わせだ。

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菅野 幹雄
東京、ベルリン、ロンドンで経済・政治を取材。脱デフレの財政・金融政策、ユーロ危機やEU動乱を報じた。18年春からはワシントンで「トランプの米国」が揺さぶる世界秩序の変貌を追う。著書に「英EU離脱の衝撃」。

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