メルケル後 日独に吹く風 風見鶏

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『「欧州の女王」として君臨してきたメルケル独首相が2021年秋に4期16年の任期を終えて退く。ポスト・メルケルで対日政策にはどんな風が吹くのか。

1月、保守系与党キリスト教民主同盟(CDU)は党内リベラル派の重鎮ラシェット氏を新党首に選んだ。9月に議会選。足元の世論調査で第1党の勢いだから次期ドイツ首相の有力候補だ。

日本では無名のラシェット氏。実は対日外交に強い関心を示したことがある。

「日本との…

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「日本との経済関係を深めたい」。そんな思いが募った20年初め、訪日計画の策定に動いた。自らが州首相を務める独西部ノルトライン・ウェストファーレン州への投資を日本で呼びかけようとした。

同州はオランダなどと国境を接し、近隣外交はお手の物。遠い日本に足をのばせば外交の裾野が一気に広がり、独首相を目指すうえでアピール材料となる。

しかも州都は欧州有数の日本人街があるデュッセルドルフ市。州経済を担う日本は大切だし、あわよくば欧州統合に背を向けた英国から日本企業を奪いたいとの思惑もあった。その後のコロナ禍で外遊は立ち消えになったが、意外なところに日独の政治の絆はある。

日本ではなお中国偏重という印象のあるドイツ。政界での風向きは少し前から変わっている。

アルトマイヤー経済相は18年、アジアの初訪問先として東京を選んだ。ジルバーホルン国防政務次官も取材に語気を強める。「ここには日韓豪やシンガポールなど価値観を共にする国がある」。いま独海軍の太平洋派遣を検討中だ。

欧州の政治情勢の変化が日本への歩み寄りを促す。

債務・難民危機や英国の欧州連合(EU)離脱といった欧州内の懸案にめどがつき、外に目を向ける余裕ができた。伝統的な関心領域の米ロ・中東は体制が充実しているから、自然と「手薄なアジアを強化しよう」という流れになる。

一方で欧州に触手を伸ばす中国への警戒感は強まった。倫理観で世界をリードしたい欧州。強権ぶりが目立つ中国に沈黙したままでは示しがつかない――。そんな機運が広がる。

人権外交は次期政権でさらに活発になりそうだ。選挙で人権を重んじる緑の党が躍進し、CDUなどと組んで与党入りするとの見方がある。香港やウイグル、南シナ海。緑の党は辛辣だ。主要閣僚を握れば一気に対中強硬に傾くだろう。

日本は喜んでばかりもいられない。緑の党は返す刀で日本に注文をつけるかもしれない。原発や死刑制度を廃止せよと迫り、旧態依然の政財界に冷たい視線を注ぐ。従軍慰安婦問題などの歴史認識では、ドイツ政界で最も日本に手厳しい。

追い風のなかに時折、向かい風が吹きそうな気配だが、ほかのリスクもある。

合理主義のドイツは無駄を避ける。主張が曖昧で回転ドアのように政権が入れ替わるなら力を入れる必要がないと考える。メルケル首相は08年の訪日後、15年まで足が遠のいた。

「閣僚はすぐ代わるし、自分の言葉で話そうとしない。訪日する意味がない」。当時、独与党幹部からこんな発言を聞いた。

緑の党と連立を組む中道左派のシュレーダー独首相㊨(当時)とベルリンで会談する小泉純一郎首相㊧(2003年、ロイター)
傲慢な半面、裏表がないのがドイツ流。意見が異なっても信頼できれば損得抜きでつきあう。嫌米のシュレーダー前首相は親米の小泉純一郎元首相とオペラ鑑賞などで親交を深めた。

幸いチャンスはある。交流の舞台を日独が自ら用意する。来年はドイツが主要7カ国(G7)の議長国。翌23年は日本が続く。日独で溝が生じるようなら民主主義陣営の結束はおぼつかない。(欧州総局編集委員 赤川省吾)