WTO上級委、残る1人の委員も任期満了、機能停止が続く

WTO上級委、残る1人の委員も任期満了、機能停止が続く
(世界)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/12/bbb7a98e5e7992b1.html

 ※ 某大国は、長い年月をかけて、「予算」と「人事」への影響力を駆使して、少しずつ「国際機関」が「自国有利」になるように、勢力注入してきた…。

 ※ トランプ政権は、それに「一定の歯止め」をかけようと、「アメリカ・ファースト」の戦略を、打ち出した…。

 ※ バイデン新政権の登場で、その流れも、「修正」される…、ということになるようだ…。

『国際経済課 2020年12月01日

WTO紛争処理制度の最終審に当たる上級委員会(以下、上級委)の委員のホン・ジャオ氏(中国)が11月30日に4年間の任期を終えた。上級委は7人で構成され、うち3人が一事案の審理を担当する。上級委員は2017年以降、相次いで任期満了や自発的に退任(2019年12月12日記事参照)。2019年12月以降はジャオ氏が唯一の委員となり、審理ができない状況に陥っていた。

WTO加盟メンバーは10月の紛争解決機関(DSB)会合も含め、上級委員の選考プロセスを開始するよう繰り返し提案してきたが、米国の反対のため実現に至っていない。米国は、上級委が審理期限を守らないことや、パネル(下級審に該当)の事実認定を覆すなどの権限逸脱行為により加盟メンバーの権利を侵害しているなどと批判してきた(2020年3月6日記事参照)。米国通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は8月、「ウォールストリート・ジャーナル」紙への寄稿で、WTO紛争解決手続きの見直しとして、現在の二審制ではなく、事案ごとに一審制のパネルを設置し、その裁定は当事者にのみ適用されるべきといった主張を展開。先例に拘束される実態などを批判した。なお、2021年1月の米政権交代後、通商政策は国際協調路線に回帰するとの観測があるが、上級委に対する新政権のスタンスは現時点では不明だ。

仲裁を活用した動き

日本も含めた加盟メンバーはこれまでに、米国の懸念に対処しつつ紛争解決手続きを改善するための提案を行ってきたが、意見の集約には至っていない。他方で、紛争解決了解(DSU)第25条に基づく仲裁を活用する動きが見られる。この規定は紛争解決の代替的な手段として、当事国・地域の合意に基づく仲裁手続きを認めている。米国の韓国製油井管に対するアンチダンピング措置をめぐる紛争案件(DS488)では、両国は2月、履行確認パネルの報告に対して上訴しないこと、さらにはDSU第25条に基づく仲裁手続きに言及した。

また、EUや中国を含む19のWTO加盟メンバーは4月、「DSU第25条に基づく暫定的な多国間上訴制度」(MPIA:以下、暫定上訴制度)の設立をWTOに通報した(2020年5月1日記事参照)(注)。当時国・地域間のWTO紛争解決への適用が可能で、カナダ商業用航空機の貿易に関する措置(申立国:ブラジル)をめぐる紛争案件(DS522)などでは、上訴した場合にMPIAを活用する意向が発表された。なお、MPIAが合意に達した際の3月の声明では、暫定上訴制度があくまで上級委が正常な機能を回復するまでの一時的な措置であることが強調されている(2020年3月30日記事参照)。

(注)参加メンバーはその後、24カ国・地域に拡大した。

(吾郷伊都子、朝倉啓介)』